第十二話 ファンが多い男
「か、顔に似合わず、めっちゃ食べるんだな。優男」
「こう見えても燃費が悪くてねぇ。嫉妬深い子もいるから大変なのさ」
絶妙に噛み合っていない話を交わし、大盛り肉をステルクは平らげると、続けるように言う。
「わざわざ、身分隠しの魔術道具まで使って……。それほど生徒達に付き纏われてるんですか?」
「はは、僕も初めてだよ。こうも長く学園にいるのは久しぶりだからね。まさかここまで僕のファンが多いとは」
まるで泥棒のような手ぬぐいの付け方をしているのは、魔術道具の効果を出すためらしい。
さすがこっそりと魔術の勉強をしているミミだ。
先生も何となく不審には感じていそうだが、追求はしなかった。
「で辻斬りの噂ってどんな話なんだい?」
「簡単にいうと、夜中に生徒が襲われてるらしいんです。襲われるというより、テイモンバトルを仕掛けられてると言った方が正しいですかね」
夜な夜な学園では黒尽くめの男がテイマーに対してバトルを仕掛ける。
つまり、マスターの儀を終えていない一、二年生は対象外ということだ。
「先輩もやられたらしくて……パートナーがぐったりしてしまうそうです」
「ぐったり……ねぇ。気力を奪われてるってことか?」
「多分……聞いた話だから、詳しい状態まではわからないけど。ただ一つ、辻斬りでわかることがあるの」
そういうとミミは、肉を美味しそうに口に頬張るボルクに視線を向けた。
「狙われるのは人というよりモンスター。等級の高い子が狙われるそうよ」
—
「いやー物騒な話だねぇ」
「優男は動かなくて良いのか? 教師だろ」
食堂で食事を済ませた後、俺とミミは別れた。
優男が俺に用があるらしい。
彼の向かう先について行きつつ、責めるように言えば優男はめんどくさそうに答えた。
「ま、分野が違うからね。学園を守る警備隊がいるから、彼らに任せるだけさ。そんなことより僕は、君のお目付役として仕事をしないといけない」
「ふうーん、そんなもんか……ってえ!? お目付役ってなんだ!?」
「お目付役はお目付役さ。君はドラゴンをテイムした異例のテイマー。君がちゃんとテイマーとして成長できるように、僕が選ばれた」
「えぇ……。よりによって優男かぁ」
別に嫌というわけではないが、不安が残る人選だ。
その様子を見て、ムスッと頬を膨らませる優男。
「何だい、僕では不満かい」
「洞窟での奇行に頼りない見た目は、印象を下げるに十分だろ」
「こりゃあ手厳しいな」
それを言われると弱い、と苦笑い。
強そうな見た目をしていないというのは強い。
特に俺は魔力がゼロ故に他者の魔力にも鈍感なのだ。
こう言った要素がテイマーの素質がないと言われる所以だが、そもそもテイマーでなくても魔術師にも剣士にもなれない。
ありとあらゆる、魔に関する素質がないのが俺だ。
誇ることではないが。
「なら、僕の力……教師としての姿を見せるとしようか」
「教師として?」
突然優男はやる気に満ちたように眼鏡を光らせる。
悪い予感しかしない。
「そうさ。君の午後の授業は全て僕が責任をとって、押さえさせてもらった」
「な! 職権濫用しすぎだろ……」
予想を遥かに超えてきた。
優男にそれほどの特権があるとは。
そしてまさかこの男から、俺の疑念と動揺を一瞬で掻き消す言葉が出てくるとは、予想もしてなかった。
「まずは君がその手に隠してるものについて、授業を始めよう」




