第十一話 辻斬りの噂
「やれるな! ボルク!」
「おうよ! 相棒!!」
俺の言葉に呼応してボルクは空に向かって雄叫びを上げる。
立ち向かうは体躯三メートルを超える巨大熊、悪奥魔熊だ。
サポートスキル強化を三つ重ねがけされた熊は、戦車を思わせる速度と攻撃力で、ボルクを轢き殺さんと突進してくる。
その上部には張り付いたイビルアイがその瞳に光を充填していた。
ボルクだってひとたまりもない火力が、イビルアイの小さな身体には備わっている。
このまま無策で攻撃を受ければ、またボルクは敗北を喫するだろう。
──今まで通りならば。
「俺たちの力を見せてやれ!! 必殺!」
「豪炎咆哮!!」
その口に溜めた灼熱が火球となり、正面を焼き尽くしていく。
止まる想定で走ってきていない熊はそのまま火球に突っ込んで、爆散した。
俺たちは謹慎明け、なぜか魔物を討伐したことを信じられないダイとショウに絡まれて、テイモンバトルを仕掛けられていた。
黒猿とのバトルを経た俺たちにはドラゴンの火がある。
もうそんじょそこらのモンスターとの戦闘では負ける気がしなかった。
黒焦げになったモンスターを抱えて、ダイとショウは涙目になって逃げ帰った。
こんなに清々しいのは初めてかもしれない。
いや、さすがにボルクと昼食を取った時には敵わないかもしれない。
「ハイタッチだ、ボルク!」
「おうよ! 相棒!」
俺の手と少し大きなボルクの手でハイタッチ。
俺たち二人の絆は二ヶ月と少しの時を経て、十分なまでに深まったと言える。
「謹慎明けだってのにやんちゃしすぎ」
「ミミ! いたのか」
いつの間にか俺らの背後で見学していたミミ。
その懐には小さな角を生やした兎、アルミラージが抱かれていた。
「みただろ! 俺たちの勇姿!」
「ええ、ボル君のね」
「あらら」
ガッツポーズをしたのに、気が抜けた。
褒められたボルクは嬉しそうに尾を振り、俺の肩に手を置いて首を振った。
「ま、相棒は弱ッちいからな。アハハ!」
「笑いすぎだろ……」
大口を開けて笑うボルク。
実際俺は戦っていないが、言い方ってもんがある。
すると、ミミは思い出すように言った。
「そういえば今日担任の先生から緊急で連絡があるって言ってたよ、なんだろ?」
「連絡……? 良い予感はしないな」
とはいえ今まで大した連絡があったことはない。
或いは俺が気にしていなかっただけか。
正直マスターの儀が来るまではずっとそのことだけを考えていたからな。
改めて気合を入れて、ホームルームに臨むとしよう。
そうして迎えたホームルーム。
俺はその突然の時代に困惑していた。
「や、優男……?」
吹き出る汗を拭う担任の横には、眼鏡を光らせ、マフラーに白衣を着用した爽やかイケメン風の男。
モンスター科担当教員ステルクが立っていた。
彼は本来早朝以外は仕事で学園にいないはずだが。
「え、えぇとですね。今回から、私が担任を離れまして、モンスター科唯一の教員でみなさんもご存知ステルク先生が、担任となります……はい」
「よろしくねー」
なんて。
爽やかに手を振っているが、その衝撃は大きい。
教室中が一斉に叫声を上げて、ホームルームは終了した。
その後の展開は凄まじいものだった。
ステルクが授業を進行させると、クラス中の女子がうっとりしていてまるで花でも舞っているような幻覚が見えた。
これが爽やか風イケメン、恐るべし。
授業が終わった後も生徒の行列を作り、代わる代わる質問を受けていた。
それもそのはず。ステルクは基本学園にはいないし、マスターの儀も皆パートナーモンスターを決めるのに必死だ。
超レアなA級モンスターよりも尚珍しいとされるのがステルク。
小さなファンクラブもあるようで、なんとも羨ましい限りである。
「ステルク先生も大変ね。これは暫くお祭り騒ぎが続きそうよ」
「だな……」
なんてぼやきながら、ミミと一緒に食堂へと向かう。
俺らには関係のないことだ。
–
「…………」
ステルクは女生徒の質問を潜り抜けながら、遠目にゼンシンを見つめる。
光る眼鏡の下に、何を思う。
–
「そういえば、知ってる? 辻斬りの話」
「辻斬り?」
唐突な話題に面食らう。
隣でボルクは肉を食らっていた。
「夜な夜なテイモンバトルを仕掛けられて、負けた生徒のモンスターが数日体調不良になるって、そんな事件が起きてるらしいの。相手のテイマーが刀を持ってることから、辻斬りだって」
「刀、なぁ……。なかなか珍しいものを」
刀とは主に東の島国で生産されている武器だ。
片側のみに刃がついた攻撃力に優れた鉄製の武器。
少なくともここら辺で自分の武器にしている人間は少ないだろう。
魔物を狩るのを目的としている狩人とかならまだわかるが。
「なになに、何の話してるんだい」
「えっ」
「ステルク先生??」
そこにはボルク顔負けの肉大盛り定食を持ってきて、なぜか手ぬぐいを顔に巻き付けているステルクの姿があった。




