5.世界の端にて愛を叫ぶ
「大丈夫だ、ある意味できみたちは立派に役割を果たしている。ネコ族人間の実力者トップ3を惚れさせて、世界の秘密さえ知った。仲良くしていこう。俺たちだって魔族という誤解を晴らすチャンスだ。こちらも喜ぶし、俺たちがいれば大丈夫だ」
「・・・頼っても、良い?」
「もちろんだ!」
魔王は満面の笑みを浮かべた。そして忘れず付け加えた。
「名前で呼んで良いか、ソフィア?」
「え、えぇ」
「俺も呼んでくれるか? ソフィア」
「・・・もっと、後で」
「どうしてだ」
「恥ずかしいもの」
「照れているのか」
「そうよ。・・・言ったでしょ、私も一目惚れしたの。恥ずかしいの」
パチパチパチパチ、と拍手が起こった。
側近2人と騎士と学者がニコニコして手を叩いていた。皆が嬉しそうだった。
***
世の中は大きく変わった。
皆が、世界が忘れていた真実を知り直したからだ。
この世界はいつか滅んでしまうのかもしれない。その事実は皆を恐怖させたし、生き延びようとする意志がこの世に生まれて、対策を考える集まりも多く生まれた。
一方で、魔族なんていなかった、皆が勝手に言っていたものだ、という事実は人々を驚かせたが、案外すんなりと浸透していった。
亀のノッコさんの存在は大きい。
そして、世界の端のあの場所も。
元魔王は元聖女と、魔王城と呼ばれていた城で暮らしている。元からのネコ族人間の住処だし、世界中からノッコさん目当てに人が来るようになったので、そちらの手配や管理も必要。つまり引き続きノッコさんの近くに住む方が便利なのだ。
そこで、元聖女は、ノッコさんの話にショックを受けてしまった人に優しく声をかけて励ますような事を日々やっている。
世界の端でノッコさんの話を聞いてなお、受け入れられない人たちは、元聖女として知名度のある彼女に励まされると、なぜか現実なのだと受け入れていく。
聖女への信頼と信用があるからなのか。
ちなみに元聖女は、どうしても人の役に立たないと気が済まない性分らしい。
そういうところも良い。惚れる、と元魔王は思う。
世界の端の草原で。
「だんなさま、だんなさま」
「なんだ、ソフィア」
呼びかけられたので魔王は返事をして近づいた。
元聖女のソフィアは、未だに人前では絶対に名前で呼んでくれない。照れ症だ。
元魔王の方は人前だろうが呼びまくる。隙あらばじゃれつこうと思っている。怒られるまで止めない。
「私とだんなさまが、本当に両想いなのか知りたいっていうの」
「よく言った、坊主。褒めてやろう」
ソフィアは照れつつ対応に困っている様子だが、話を聞いた元魔王は深く頷いて、その少年の頭をよしよし、と撫でた。
この少年もノッコさんの話を聞きに来たが、どうも納得できないようだ。
魔王が今も悪だと信じているのだろう。
見ていろ、と魔王はソフィアを抱き上げ、じっと見つめた。
「ソフィア。結婚してくれ」
「もうしているじゃないの」
「毎日でも良いと思っている」
「馬鹿じゃないの」
「毎日ずっと愛している。この世界が終わってもだ」
「気障!」
ソフィアが真っ赤になって顔を覆う。いつまでも照れる。可愛い。
「聖女様は、魔王のこと、嫌いだよ。馬鹿って言った」
様子を見ていた少年が、魔王に怒った顔を見せる。騙されないぞ、と。
「えっ!」
ソフィアが驚いて顔を上げた。未だに真っ赤で。
「ち、違うの、これは」
慌てているので、魔王の腕から落ちそうだ。
本人の口から聞きたくて、元魔王は尋ねた。
「ソフィアは、俺が嫌いなのか?」
ネコ耳をペシャっと伏せてみる。悲しげに。
「えっ」
ソフィアが慌てて、元魔王と少年を交互に見てオロオロする。
「俺はこんなに愛しているのに。それだけは分かってくれ、少年」
「・・・」
少年が難しい顔をしてじっと元魔王を見ている。なかなか厳しい子である。
「す、好きよ、大好きよ」
消えそうな声で、ソフィアが答えた。
「聞こえない・・・彼にな」
魔王はソフィアに囁いた。
ソフィアは途端、情けない顔になってから、意を決したように宣言した。
「私も、大好きなの! エフィクトに出会うために、私は聖女になったんだと思ってるー!!」
「ソフィア! 愛してるー!」
抱きしめ直して喜ぶ魔王に、ソフィアも真っ赤な顔で抱き付いてくる。
「あー、最高! 生きてて良かった、ここ毎日! 創造神、万歳!」
「私も、でも、うぅうー。人前で恥ずかしい・・・」
「なんだぁ、ソフィア様も好きなんだ。そうちゃんと言ってくれたらいいのに。魔王に騙されてるのかと思った!」
少年が納得したようだ。
「騙してない、仲良しだぞ」
「騙されてないわ。す、好きなの。すごく」
元魔王はニコニコし猫耳は嬉しげにぴょこぴょこ動く。
ソフィアは真っ赤な顔をしつつも元魔王に抱きついている。
少年は、安心したのか、家族のところに走っていった。
周囲で大勢が、ニコニコニヤニヤしながら、元魔王と元聖女の様子を見守っていた。
END