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00 ダンテと優

ざっくりと親子の話です。

ダンテ



  初老の紳士の名前はダンテ。 敬虔な神父を父に持ちながらも、その半生を王国の兵士として捧げた過去がある。


  当時のダンテは責任感が強く、面倒見の良い性格だったこともあって、下の者からの信頼は厚かった。

しかしながら、何事にも正面から向き合う倫理感の強い性格があだとなってしまい、上役や同格の者らからは煙たがられていた。


  いつの世も、国政の上級職に就くものは世襲がその大半を占める。 

得てしてこういった連中は利己的で、利害得失のみに重きを置いて物事を計ろうとするものだ。 公私を異にするなどという考え方はそもそも持ち合わせていない。

ダンテのような存在は、根暗な彼らにとってはただただ眩しく、煩わしいものだったのだろう。 

そのためダンテに対しての嫌がらせは多く、彼を慕う者は少なくなかったものの、彼はその者たちの将来を案じてか、有望な若手を身近に置くことはなかった。


  今となっては悔やまれることがたくさんあるのだろう。 王都の方の空を見上げるダンテの表情は寂しい。 ダンテが王都に残してきたものは少なくない。



  一行は簡易なつくりの夜露をしのぐことができるだけのテントで身を寄せていた。 淑女が張った結界のおかげで寄ってくる虫などもなくて、快適な眠りにつけたようだ。





  ダンテから少しだけ距離を置いて眠る少年の名前は優。 ダンテの息子だ。

優の容姿はこの国の人たちとはちょっと違う。 ダンテと比べると線が細く、まだ若いとはいえ、その体格が父親のダンテに追いつくことはないだろう。 優は母似だ。


  優の母はけいといい、遥か遠く極東の国より来た古の種族の血族で、その中でも“幻の流浪の民”といわれた希少な血筋だった。 慶は胸を病んでいて、優が6歳になる少し前に他界している。

  優の小さな不幸は母に似すぎたことかもしれない。 黒髪と一重瞼は、その性格とは裏腹にきつい印象を与えがちで、その容姿は彼を他の者たちから隔てることにもなった。 それでも優は、口数こそ少ないものの、すくすくと育ち、何一つ他の者に劣ることはなかった。

  

  ダンテが言うには、優の母は採りたてのワサビのような性格だったらしい。 普段は清楚で清々しかったのだが、うっかり彼女の機嫌を損ねたものなら、涙を浮かべる羽目になったのだとか。

  優にとっての慶は、優しい母だった。 眠るときにはいつも頭を撫でてくれて、優しい声でおとぎ話や子守歌を聞かせてくれた。 その匂いも触れる感触も、伝わる温かさも、優の中では何も薄れていないと言う。 


  優の凛とした芯のある性格を支えるものは、亡き母から愛されていたという記憶と、ダンテという尊敬する父の存在だろう。



  優とダンテとの関係はすごく良い。 お互いに少し距離を置いてはいるものの、同じ年頃の親子とは比べ物にならないほど良好だった。 かわす言葉は少なくても強くお互いを信頼している、そんな父と子だ。



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