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「・・・痛みはまだ残るかもしれませんが、これで後遺症は出ないはずです。パメラ様を放してくださいますか? そのままでは治療できません」
抱き込んでいて治療できないと言われ、メウルニは慌ててパメラを馬車の壁に横たえた。身体が痛みで凝り固まっていて、ぎこちない動きにはなったが、衝撃を与えないように慎重な動作だった。
すぐにパメラの治療が始まるかと思いきや、ミアナはパメラがアウルムを抱きかかえている腕を解き始める。
確かに子どもを抱えている状態で治療するのは良くないかもしれない。
アウルムをパメラの腕から解放すると、ミアナは横向きに寝かして額に手を当てて治療し始める。
「何故、アウルムを先にする? この子はかばわれていたから大丈夫だろ?」
かばったのはパメラなのだから、パメラのほうが怪我が重いと思ったメウルニは言った。かばわれていたアウルムのほうが治療を優先される理由がわからない。メウルニを先に治療したのは、選帝侯だからという理由だった。それも治療しなくては罰刑まである強制的なもの。
「斬りつけられたのをかばわれたのなら無傷でしょうが、今回はそれが仇となりました。パメラ様やメウルニ様の重みに押し潰され、内臓に大きな損傷が出ています」
かばう為にした行為が逆に怪我をさせてしまったようだ。外傷がない怪我ほど厄介なものはなく、治癒術師でなければ見落とすこともあり、治すことも治癒術師以外なら時間をかけて慎重に回復魔法を使うしかない。
アウルムの治療が優先された理由にメウルニは納得した。
「私たちがしたことが間違っていたというのか?」
しかし、自分たちが良かれと思ってしたことで息子を死なせかけたということは、メウルニの罪悪感を煽った。
「間違ってはございません。現に頭を強打せずにすんだのはパメラ様がいち早くかばわれたおかげでございます。流石に治癒術師でも死者を生き返らせることはできません。パメラ様のお手柄でございます」
そう言って、ミアナはしばらくアウルムの治療に当たっていた。
大切な二人のうち、一人しか助けられないと言われたら、メウルニはどちらを選ぶのか自分でもわからない。
まだたった五つの我が子か。
恋人であり、妻でもある女性なのか。
それでも、治療に時間がかかればかかるほど、パメラの治療を優先して欲しくなる。
アウルムはパメラが産んでくれた子どもだ。
一族にとっても大切な跡取りである。
それなのに、時間経てば経つほどパメラがいつまでも放置されていることが気になってくる。
(そろそろ一段落付けられないのか?)
(パメラの応急処置だけでもできないのか?)
「まだ終わらないのか? 応急処置だけでいいんだ。パメラも見てやってくれ」
「申し訳ございません。繊細な作業ですので、もう少しお待ちください」
アウルムの治療はメウルニにとっては馬車が横転した時よりも長い時間だった。
(内臓を損傷したからといって、長すぎないか?)
わざとパメラの治療を遅らせているのではないか、と疑惑がまた首をもたげる。一度否定しても、ミアナがパメラを疎んじているとメウルニは思っていた。
本来なら妻と同じかそれ以上の扱いをしなくてはいけない愛人の治癒術師を、メウルニは貴族が囲っている妾並みのひどい扱いをしている。だが、それはミアナが治癒術師のいないメウルニに対して政略的に与えられた治癒術師で、メウルニ本人が拒否できない存在だったから腹いせ的にそうなっていた。
自分が後ろめたいことを正当化して目をそらせていたメウルニは、ミアナを邪推して見ていた。日頃の仕返しを今、メウルニだけでなく、パメラにもしているのではないだろうか、と。




