9 マグヌスの襲来
ダリウスさんから紹介されたバートン商会は、王都で手広く商売をやっていて、南薫酒も王都で売ることになった。
値段については、エールとは比べ物にならないほど高価になったけれど、目新しい物が好きな貴族の間で話題となり、飛ぶように売れた。
その宣伝効果にユスティアス公爵が関わっていて、本当に感謝してもしきれない。
蒸留機は、試作用を購入した工房で、とりあえず『手持ちのより大型で、すぐ手に入るもの』を購入したけれど、もっと大量に作れるように相談しているところだ。
レシピも王都に流れ、菓子店からの紅芋の購入も増えた。
「焼酎をもう一度飲みたい」と始めたことが、こんなにも大きくなって感慨深い。領地の人の雇用も広がり、生活が豊かになってきた。
◇ ◇ ◇
「お嬢様、ラズヴェル侯爵家のマグヌス様からお手紙が届いております」
「え? マグヌス……?」
「はい」
「読みたくないなぁ。でも、読まなきゃよね」
そこには、南薫酒が欲しいから貰いに行くとだけあった。
バートン商会から手に入りにくいとは聞いているけれど、貰いに行くって何!?
「マグヌス様が来るらしいけど、お通ししないで。屋敷の者に徹底してね」
「かしこまりました」
いつ来るとも書いてなかったけれど、どうしよう。返事しても読まないわよね。ラズヴェル侯爵領とは近いので、王都からじゃなければ、すぐ着いてしまう。
たいした対応もできないまま、マグヌス様が来た。屋敷には入れない。それだけは決めていた。
「さっさと俺の分を寄越せ」
「俺の分とはなんのことでしょうか」
「はぐらかすな。フィオレット領で出来たものは俺のものじゃないか」
「ラズヴェル侯爵子息とは、婚約を解消したときから赤の他人です」
「……な! あんな酔っていたときのことなんて無効だ」
「証人が多数いますから、本当に他人です。お引き取りください」
マグヌス様は、しばらくゴネていたけれど、バートン商会の馬車が着くと素早く帰っていった。
「ごきげんよう、イリヤスさん」
「こんにちは、レイラ嬢。先ほどの人は? 揉めていたように見えましたが」
「元婚約者です。お恥ずかしい限りです」
「……あれが」
顔をしかめて遠くを見やったイリヤスさんは、商会の若旦那さんで、そんな方がわざわざ担当してくれるなんてありがたい限りだ。
今回も、納品分を買い取ってもらう。ラベルや瓶の手配もしてもらっていて、それを受け取る。
「いつも、遠くまでありがとうございます」
「いえいえ、我が商会も儲けさせていただいてますから。あとこれ、ダリウス様から預かってきました」
「手紙ですか? ありがとうございます」
「王都の夜会……?」
それから、急いで返事を書いて、イリヤスさんに渡した。手紙は来月の夜会のお誘いだった。シーズンの終わりを告げる王家主催の夜会。
今回くらいは欠席しても目をつぶってもらえるかなと思っていたけれど、参加することにしたのだった。




