表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクソシスト:オリジンズ  作者: Syntax


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

勝利の代償

勝利は遠くから見れば美しい。


だが、近くで見れば——


それは決して消えない傷を残す。



二日目のアリーナは、どこか違っていた。


騒がしくなったわけじゃない。


鋭くなっていた。


観客の数は増えていない——だが、その“集中”が変わっていた。会話は短く、反応は速い。すべての試合が、ただの興味ではなく“意味”を帯び始めていた。人々は前のめりになる。


観るためじゃない——


目撃するために。


カイトは昨日と同じ場所に立っていた。足元には、水の入ったボトル箱。


だが今日は——


ただ見ているだけじゃない。


待っていた。



---


「WELCOME BACK!」



---


アナウンサーの声が響く。昨日よりも引き締まり、どこか終局を感じさせる響きだった。


「昨日、戦士たちは立ち上がった!」


「16名から——4名が勝ち上がった!」


背後のスクリーンが点灯する。


リョウ。


タカシ。


そして、残る二人。


「事前予選枠からも——8名が4名へ!」


さらに4つの名前が表示される。


「これが、エリート・エイトだ!」


観客が一斉に反応する。


「ここからが変わる!」


「一敗——即、敗退!」


「やり直しはない!」


「救済もない!」


「あるのは、前進のみ!」


一瞬の間。


そして——


「準々決勝、開始!」



---


第一試合 — シード勝者 vs 初日勝者



---


試合は、速かった。


あまりにも速すぎた。


この舞台の意味を、両者とも理解している。


探り合いはない。


躊躇もない。


一撃一撃が重い——すべてに“結果”が乗る。片方は伝統的な功夫。流れるような移行、力の受け流し。もう一方は剛直な型——空手ベース、直線的で爆発的。


ぶつかり合いは綺麗じゃない。


暴力だった。


拳が入る——


受けた側の頭が横に弾かれ、視界が一瞬、明確に乱れる。


立て直す——


ギリギリで。


反撃——


だがタイミングがずれる。


二撃目で終わった。


「ストップ!」


勝者は喜ばない。


ただ一歩引き——


荒く息を吐いた。



---


リョウの試合



---


リョウはリングへ踏み込む。肩を回しながら。


「……よし。もう遊びは終わりだ」


対戦相手は直立し、冷静——テコンドーベース。だが昨日よりも鋭い。


「始め!」


最初の蹴りが即座に来る。


速い。


リョウは受ける——


遅い。


衝撃が前腕に叩き込まれ、腕から肩へと痺れが走る。


「……効くな」


二撃目——


低い軌道。


命中。


今度はクリーン。


リョウの構えがわずかに崩れる。


一瞬——


遅れた。


相手は詰める。


容赦なく。


連続する蹴りがリョウを一歩ずつ押し下げる。


「……これ以上受けたら——」


踏み込む。


間合いの内側へ。


次の蹴りは空を切る。


近すぎる。


リョウの拳が相手の肋へ突き刺さる。


深く沈む衝撃。


感じた——


痛みが来る前に、呼吸が潰れる“あの瞬間”。


相手がよろめく——


だが倒れない。


「……タフだな」


リョウがわずかに笑う。


「……いいね」


再び交錯。


近距離。


荒い。


一撃がリョウの顎をかすめる——


視界が一瞬、白く弾ける。


「……集中切らすな——」


リセット。


減速。


観る。


次の蹴り——


読んだ。


内側へ入る。


脚を引っ掛け——


捻る。


相手が崩れ落ちる。


「ストップ!」


リョウは大きく息を吐いた。


「……さっきよりマシだ」



---


タカシの試合



---


アリーナの空気がわずかに静まる。


アナウンスのせいじゃない。


“存在”のせいだ。


タカシが入る。


静止。


あの不自然な静けさのまま。


相手は重量級——ムエタイ。強靭で耐久力がある。


「始め!」


相手が先に動く。


太腿を狙った重い蹴り。


当たる前に、タカシは動いていた。


速いんじゃない。


早い。


蹴りは空を打つ。


相手が眉をひそめる。


修正。


二撃目——


連打のパンチ。


鋭い。


速い。


タカシはその中をすり抜ける。


反応していない。


すでにそこにいない。


「……なんだ、これ……?」


相手はリズムを変える。


より攻撃的に。


より不規則に。


一撃が入る——


クリーンヒット。


タカシの頭がわずかに振れる。


接触。


確かな。


相手は感じた。


「……入った——」


タカシの手が動く。


短い打撃。


溜めなし。


見える力もない。


当たる。


相手の表情が一瞬で変わる。


呼吸が消える。


気絶じゃない——


“抜かれた”。


痛みが来る——


深く。


深すぎる。


「……なんで……こんな……?」


一歩引く——


だが脚が言うことを聞かない。


すべてが遅れる。


重い。


タカシが踏み込む。


二撃目。


三撃目。


すべて正確。


すべて回避不能。


相手が崩れる。


だがタカシは止まらない。


さらに踏み込む——


振り下ろしの一撃。


音が——


おかしい。


「ストップ!」


遅い。


相手は動かない。


脚が、不自然にねじれていた。


観客がざわつく。


不穏に。



---


「……ひどいね、それ」


横からメイの声。


「それは“拳の道”じゃない」


タカシがゆっくり振り向く。


「……黙れ」


静寂。


「お前の“道”がそんなに大事なら——」


目がわずかに細まる。


「……なんで予選、落ちた?」


言葉が、打撃より重く落ちる。


リョウが即座に動く。


タカシの襟を掴む。


「……口に気をつけろ」


一瞬——


空気が張り詰める。


タカシは抵抗しない。


反応もしない。


ただ、見ている。


そして——


笑った。


「……落ち着けよ」


リョウは手を離す。


だが緊張は解けきらない。



---


カイトは見ていた。


そして——


“それ”を見た。


ほんの一瞬——


タカシの周囲で何かが揺らぐ。


光のように見えるわけじゃない。


物質でもない。


だが、ある。


断片。


黒。


蠢く。


「……なんだ……あれ……?」


眉をひそめる。


理解できない。


その時——


記憶。


イツキの声。


「……強い感情は……歪みを生む……」


カイトの表情がわずかに変わる。


「……まさか……」


言葉は、続かなかった。



---


最終試合 — リョウ vs タカシ



---


観客が前のめりになる。


この一戦は違う。


リョウが入る。


今度は、本気。


タカシが対峙する。


静止。


「始め!」


一瞬——


どちらも動かない。


そして——


リョウが先に出る。


直線の一撃。


タカシがわずかにずれる。


拳は空を切る。


リョウはすぐに続ける——


二撃目。


三撃目。


圧力。


タカシはその中を抜ける。


毎回——


“前”に。


速いんじゃない。


早い。


「……おかしい……」


リョウの思考。


「……反応してない……」


リズムを崩す。


不規則に。


読ませない。


一撃——


ほぼ当たる。


タカシの頭がわずかに傾く。


ギリギリ。


近い。


リョウは感じた。


「……当てられる——」


その瞬間——


痛み。


腹が突然ねじれる。


鋭く。


予期しない。


「……なっ——?」


動きが途切れる。


ほんの一瞬。


それで十分。


タカシが踏み込む。


一撃。


クリーン。


リョウが崩れる。


「ストップ!」


静寂。


困惑。



---


カイトは動かない。


表情は読めない。



---


タカシはリョウを見下ろす。


「……がっかりだな」


興奮もない。


努力もない。


振り返る。


歩き去る。


「……試合にもならない」



---


リョウは座り込み、腹を押さえる。


「……なんだよ、今の……」


カイトが近づく。


「……大丈夫か?」


「……ああ……ただ……なんか、おかしい……」


言い終わる前に——


師範の手がカイトの襟を掴む。


引き寄せる。


「……何をした?」


カイトは抵抗しない。


「……戦わせないようにしただけです」


静寂。


「……何だと?」


「……まだ準備できてない」


一拍。


「……あのまま戦ってたら——」


声が低くなる。


「……あいつも、あの男みたいに倒れてました」


師範の手に力が入る。


だが——


止まる。


手が自分の顔へ。


「……タカシ……」


間。


「……どこで、間違えた……」



---


道場は、その夜、狭く感じられた。


物理的にじゃない。


“存在”として。


誰も口を開かない。


言うことがないからじゃない——


言うべきことは、すでに起きていた。


タカシは入口に立つ。


待っている。


謝りもせず。


弁解もせず。


ただ——静かに。


師範が向き合う。


「……戻ってくるな」


言葉は上がらない。


落ちた。


重く。


決定的に。


「……もう、お前は道を外れた」


静寂が残る。


そして——


タカシがわずかに笑う。


「……道?」


一拍。


「……最初から、一つじゃない」


振り返る。


外へ。


扉が閉まる。


静かに。


だが、その余韻は長く残った。



---


カイトは考えない。


動く。


即座じゃない。


衝動でもない。


だが、必然的に。


夜の空気は不自然に冷たい。街の音——車、遠くの話し声、足音——それらはいつもより早く薄れていく。距離を保って後を追う。


タカシは振り返らない。


速度も変えない。


大通りを抜け、細い路地へ。光は減り、建物が迫る。空気が止まる——あまりにも静かで、まるで街そのものがこの方向を避けているかのように。


カイトの歩みが鈍る。


一歩ごとに重くなる。


「……普通じゃない……」


進むほどに、音は消えていく。


そして——


完全な無音。



---


タカシが止まる。


カイトも止まる。


前方——


“おかしい”。


最初は見えない。


だが感じる。


そして——


見えた。


五つの遺体。


子供。


吊られている。


配置。


完璧。


その下に刻まれた星形。地面に深く刻まれ、意図的に交差する線——儀式的。


空気そのものが歪んでいる。


重い。


動くことを拒むように。


カイトの呼吸が途中で止まる。


「……なんだ……これ……」


背後から、声。


「……見つけるとは思わなかった」


カイトがゆっくり振り返る。


タカシが立っている。


笑っている。


だが——同じ笑顔じゃない。


人間のそれじゃない。


「……でも、見たなら——」


一歩、前へ。


足音がしない。


「……口を封じるしかないな」

第13章を読んでいただき、ありがとうございました。


もし今回の内容を楽しんでいただけたなら、レビューやブックマーク、そしてシェアしていただけると嬉しいです。作品をより多くの方に届ける大きな力になります。


評価や感想もとても励みになりますので、「ここが良かった」「ここが気になった」「今後どうなるのか気になる」など、ぜひ気軽に教えてください。


次回は、激しいアクションと物語の大きな転換が待っています――いよいよ、すべてが動き出します。


それでは、次のエピソードでお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ