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エクソシスト:オリジンズ  作者: Syntax


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11/15

リズムの変化

騒音は消えた。


動きは研ぎ澄まされていく。


努力と本能の境界は——

次第に薄れていく。


これから訪れるものは、

激しさではない。


もっと深い——何かだ。


試練が終わってから、道場の空気は確かに変わっていた。


静かになったわけではない。

人が減ったわけでもない。


それでも——何かが違う。


余計なノイズが削ぎ落とされていた。

一つ一つの動きが、無駄なく、意図を持っている。


踏み込みの音。呼吸の揺れ。衣擦れ。


そのすべてが、以前よりもはっきりと“意味”を持っていた。


空気そのものが、低く沈んでいる。


まるでこの場所が、すでに選別を終えているかのように。

誰が残るのか。誰に何が足りないのか。


すべて——分かっているかのように。


カイトは道場の端に立っていた。


腕は自然に下ろし、力みはない。だが意識は切れていない。


身体の奥には、まだ感触が残っている。

肋骨の奥に鈍く残る痛み。肩に溜まる重さ。


だがそれはもう邪魔ではなかった。


むしろ——はっきりとした“感覚”として残っている。


「……はぁ、きつかったな」


向こうでリョウが大きく伸びをし、首を鳴らす。


「思ったより本気出すことになったわ」


メイがちらりと視線を向ける。


「それ、毎回言ってるわよね」


「今回も本当だって」


「そうは見えなかったけど」


軽い言い合い。

いつも通りのやり取り。


だが——


カイトの視線が、自然と動く。


タカシがいない。


「……もう帰ったわ」


メイが静かに言った。


最初から気づいていたような口調だった。


リョウが頭をかく。


「……あー、確かに。最後までいなかったな」


それ以上は、誰も触れなかった。


カイトも何も言わない。


だが——その不在だけは、妙に残った。



---


「来い」


師範の声が空気を断ち切る。


カイトは即座に振り向く。


「はい」


「あれを持ってこい」


指された先。


壁際に立てかけられている一本のほうき。


太い木の柄。長年使われてきた跡が残っている。


カイトはそれを手に取る。


思っていたより重い。


「——来い」


それだけだった。


構えの指示もない。


説明もない。


カイトは一瞬だけ止まり——踏み込む。


手の位置を調整する。

重心を落とす。


まだ粗い。


だが形はできている。


振る。


空気を切る音。


しかし——


当たらない。


師範は、ただ一歩ずれただけだった。


カイトはすぐに体勢を戻そうとする。


遅い。


軽く、手首に触れられる。


それだけで——握りが崩れる。


ほうきが手から滑り落ちた。


「……もう一度」


拾う。


握る。


踏み込む。


振る。


今度は速い。


強い。


だが——


軌道が変わる。


途中で、流される。


肩に触れられる。


それだけで、体が揺れる。


「……なんで——」


「来い」


短い。


カイトは歯を食いしばる。


もう一度。


踏み込む。


振る。


また。


また。


何度も。


だが結果は変わらない。


外れる。


流される。


崩れる。


呼吸が乱れていく。


腕に力が入りすぎる。


速くなっている。


鋭くもなっている。


それでも——噛み合わない。


次の一撃。


すべてを乗せた。


速度。力。意志。


ほうきが鋭く空気を裂く——


その瞬間。


止まった。


掴まれている。


ほんの一瞬。


柄が、指先で止められていた。


カイトの目がわずかに見開く。


力が抜ける。


そのまま——


回される。


ほうきが手から離れる。


一歩。


押される。


後ろへ下がる。


「——そこまでだ」


カイトは止まる。


呼吸が荒い。


それでも、意識は切れていない。


「……お前は武器と戦っている」


カイトは眉を寄せる。


「どういう意味ですか」


師範はほうきを拾う。


軽く持つ。


「振っているだけだ」


一拍。


「だが、感じていない」


カイトの指がわずかに強くなる。


「……何を」


「これだ」


わずかに動かす。


速くない。


強くもない。


だが——ぶれない。


「これはただの棒じゃない」


一歩踏み込む。


「来い」


カイトは反射的に腕を上げる。


だが——遅い。


柄が自然に軌道を変え、ガードの隙間を抜ける。


胸の直前で止まる。


「遅い」


静かに下ろされる。


「見えたものに反応している」


一拍。


「来るものにではない」


カイトの呼吸がわずかに整う。


「……じゃあ、どうすれば」


「流れろ」


短い言葉。


だが、重い。


「功夫は力じゃない」


ほうきがわずかに回る。


「方向だ」


「……方向……」


「来い」


カイトは一瞬だけ考え——動く。


今度はすぐに振らない。


一歩踏み込む。


それから——動かす。


ゆっくり。


意識して。


接触。


その瞬間。


分かる。


力が逃げる場所。


崩れる前のズレ。


「……そこだ……」


わずかな感覚。


だが確かに掴んだ。


その後のやり取りは、少しだけ長く続いた。


まだ粗い。


未完成。


それでも——


最初とは違う。


「いい」


師範が下がる。


「今の感覚、忘れるな」


「……はい」


「明日も来い」


一拍。


「もっと早くな」


「どれくらいですか」


「身体が嫌がる前だ」


それだけだった。



---


教室までの距離が、妙に遠く感じた。


理由は単純だった。


身体が重い。


ベルとほぼ同時に教室へ入る。


「……また遅刻か」


教師の声。


「すみません」


「言い訳はいい。座れ」


静かに席へ。


座るだけで負担がかかる。


足が重い。


肩が固い。


「……きついな……」


思う。


だが——否定しない。


必要なことだ。



---


昼休み。


ざわめきが戻る。


軽い音。


意味のない会話。


カイトは一人で座っていた。


「よ」


イツキが向かいに座る。


「顔やばいぞ」


「訓練」


「そこまでかよ」


笑う。


「いいじゃん。ちゃんと効いてるってことだ」


「……負けた」


「へえ」


「二回戦」


「いいな」


カイトが顔を上げる。


「何が」


「勘違いしなくて済む」


一拍。


「何された?」


「……普通に負けた」


「いいね、それ」


軽く頷く。


「……タカシってやつ」


カイトの視線がわずかに動く。


「知らないだろ」


「名前だけ」


「強い」


一拍。


「でも、落ちた」


イツキが眉を上げる。


「それはキツいな」


「……ああ」


「そういうの、残るからな」


カイトは何も言わない。


ただ、小さく頷いた。


そして——


「あ、そうだ」


「何だ」


「大会終わったら会え」


「なんで」


「大事な話」


「今言えよ」


「無理」


「は?」


イツキが笑う。


「こういうのは引っ張った方が面白いだろ」


カイトの目が冷える。


「……殴るぞ」


「やってみろ」


立ち上がって、そのまま走る。


笑いながら。


「待て!」


カイトも追う。


軽い追いかけ合い。


少しだけ——気が軽くなる。



---


夜。


静かだった。


完全な無音ではない。


だが遠い。


タカシはベッドに横たわっている。


眠っている。


だが、浅い。


夢。


断片的。


道場。


誰もいない。


「……足りない」


声が響く。


リョウ。


メイ。


去っていく。


振り返らない。


手を伸ばす。


届かない。


距離が伸びる。


足が重い。


進まない。


空間が歪む。


音が遅れる。


心臓の鼓動が、ずれる。


「……待て——」


声が消える。


すべてが消える。



---


目が開く。


息を吸う。


荒い。


全身が濡れている。


汗。


張り付く感覚。


「……は……」


息を整える。


「……チッ……」


静寂。


部屋は普通。


何もない。


——はずだった。


コン。


小さな音。


だが、はっきりしている。


「……誰だ」


返事はない。


もう一度。


コン。


少し強い。


起き上がる。


ドアへ向かう。


開ける。


誰もいない。


廊下は静止している。


「……なんだよ」


閉めようとする。


その時。


カサッ。


音。


視線が落ちる。


紙が滑り込む。


手紙。


しゃがむ。


拾う。


開く。


読む。



---


『明日の夜、路地裏のパブで待つ』


『勝ちたければ来い』



---


沈黙。


短い言葉。


だが——重い。


指にわずかに力が入る。


呼吸が合わない。


空気が変わる。


何も変わっていないはずなのに。


それでも——


確実に、何かが始まっていた。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


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