エピローグ
新しい街での生活が始まって、数ヶ月が経った。大学の講義にも、慣れない自炊にも、ようやくリズムが生まれてきた頃。
狭い賃貸マンションのキッチンには、二つのマグカップが並び、トーストの焼ける心地よい音が響いている。
かつて孤独だったリョウの家や、家族と過ごした俺の部屋とも違う。ここは、俺たちが自分たちの足で選び、一緒に作り上げている「俺たちの場所」だ。
「ねぇ、ユイト。レタス千切るの、一段と上手になったんじゃない?」
「なぁ、そろそろ包丁使いたいんだけど──」
「だーめ。ユイト、ドレッシングとってきて」
エプロンをつけたリョウが、楽しげに笑う。あいつの手元に、もう世界を守る武器はない。人類を救う使命も、誰にも言えない孤独な秘密もない。
玄関の棚には、お揃いの通学定期と、二つ並んだ合鍵。ここにあるのは、どこにでもある、けれど何よりも尊い、大学生としての二人の日常だ。
リョウが俺の背中にまわり、エプロンの紐をキュッと結び直す。その時、背中に一瞬だけ触れる、確かな心臓の鼓動。
その温もりは、あの激しい戦いも、悲しい別れも、すべてを乗り越えてここにあるのだと、無言で伝えてくる。
「……ねぇ、リョウ。今日、何する? 講義、午後は休みだろ」
俺が尋ねると、リョウは俺の肩に顔を埋めて、幸せそうに囁いた。
「決まってるでしょ? ユイトと一緒に、最高の『今日』を過ごすんだ。買い物にも行きたいし、映画も見たいし……とにかく、君の隣にいたい」
窓の外では、シルクのような朝日が優しく揺れている。
明日にはまた、新しい課題や、些細な悩みや、未来への不安がやってくるかもしれない。けれど、今日が最期の日であっても、そうでなくても、俺たちはもう迷わない。
繋いだ手の中に、永遠よりも確かな「今」があるから。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
「今日が最期になるとして」
その問いに怯え、未来を諦めていた二人が、数々の苦難を乗り越えて「当たり前の今日」を勝ち取るまでを描き切ることができました。
大学生になった二人のキッチンには、今日もレタスの瑞々しい香りと、トーストの焼ける音が響いているはずです。
ヒーローとしての重荷を降ろし、ただの「リョウ」と「ユイト」として歩み始めた彼らの日常が、この先もシルクのような朝日に照らされ、穏やかに続いていくことを心から願っています。
【作者からのお願い】
もし「二人の再会に感動した!」「この後の二人の生活も応援したい!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への評価や感想をお寄せいただけると嬉しいです。
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また別の物語でお会いできる日を楽しみにしております。
本当に、ありがとうございました!




