第3話 王子様の困惑
「エリザベス、ちょっと話がある」
昼休み、学園の中庭でアルベール王子がエリザベスを呼び止めた。
彼はエリザベスの婚約者(少なくともエリザベスが一方的にそう主張していた)で、いつもなら彼女の執拗なアプローチに辟易していた。
「アルベール様、お呼びですか?」
エリザベスが振り返った。
いつもなら「アルベール様!今日もお会いできて光栄です!」と飛びついてくるはずの彼女が、優雅に一礼し、適度な距離を保っている。
「その……今日の君、なんだか変だ」
アルベール王子は困惑した様子で言った。
「昨日までは僕の袖を掴んで『私と結婚しなさい!さもないとあなたの父王に言いつけてやるからね!』と脅していたのに」
エリザベスは少し恥ずかしそうにうつむいた。
「あの……昨日までの私は、本当にご迷惑をおかけしました。でも今は違うの。アルベール様が本当に好きな人がいらっしゃるなら、私は心からお二人を祝福します」
「は?!」
アルベール王子は目を疑った。
この女、本当にエリザベス・ヴァン・ド・モンテクリストか?悪名高き悪役令嬢が、突然こんなに寛大になるなんて。
「それより、アルベール様、その左腕の古傷、まだ痛みますか?」
エリザベスがそっと王子の腕に手を触れた。その瞬間、王子の腕から柔らかな光が漏れ、長年悩まされていた古傷の痛みが消えていった。
「ま、治癒魔法?!しかもこれほどの完璧な……君、いったい…」
「私もよくわからないの。ただ、人を傷つける代わりに、癒したいと思うようになったの」
エリザベスの目は澄んでいた。そこにはかつての悪意のかけらもなかった。




