第11話 シスター・マリーの試練
「セシリア様、お願いですから、今日の説教では『隣人を愛しなさい』の部分を省略しないでください」
シスター・マリーは震える声で懇願した。
この数週間、彼女は聖女の変貌に付き合わされ、胃痛が慢性化していた。
「でもマリー、それって現実的じゃないと思わない?」
セシリアは鏡の前で新しい髪型を試しながら言った。
「隣のジョンソンさんが毎晩騒がしい歌を歌ってるのに、どうやって愛せばいいの? むしろ『隣人の騒音には適切な苦情を申し立てる権利がある』とか、『隣人の庭のリンゴがこっちに落ちてきたら、それは神の贈り物と解釈できる』とか、実用的な教えが必要じゃない?」
「そ、それは異端です!」
マリーは言った。
あら、神様だって退屈な毎日には飽き飽きしてるかもしれないわよ」
セシリアはくるりと振り返り、悪戯っぽく笑った。
「たまには新鮮な解釈を聞きたがってるかもね。そうそう、明日の説教のタイトルを考えたんだけど、『十戒・現代適用版』ってどうかしら? 『盗んではならない』の代わりに『所有権の流動的再分配について』とか」
マリーは卒倒しそうになり、壁に寄りかかった。
「セシリア様……あなたは本当に、以前とは別人のようです」
セシリアの目が一瞬、複雑な色を浮かべた。
「そう? 私はずっとこうだった気がするわ」しかしその声には、かすかなためらいが混じっていた。




