mémoires:御伽噺のエンドロール
2話更新しています。最終話!
昔々のそのまた昔。
とあるところに少女がいました。
ある朝少女は全てを失いました。
家族も、友達も、居場所すら。
全てを無くした少女はたった一人で旅に出ます。
失った全てを探し求めて、もう一度取り戻すために。
昔々のもっと昔。
とあるところに、まものがいました。
まものは何も持っていませんでした。
家族も、友達も、居場所すら。
全てを持たないまものはたった一人で待ち続けます。
いつか出会える誰かと出会うために。
昔々の少し昔。
少女はまものと出会いました。
全てを無くした少女は問います。
「あなたが私から奪ったの?」
全てを持たないまものは言います。
「あなたが私に会いにきてくれたの?」
「一緒にいてよ」
まものは願います。ひとりぼっちは寂しかったから。
「一緒にいようよ」
まものは誘います。自分ならば一人にしないと囁いて。
「一緒にいなきゃ。私たちは同じなのだから」
まものは笑います。少女の小さな手を引いて。
「一緒にいて。ひとりぼっちはもう嫌だ」
それはまものの心からのお願いでした。
それを聞いた少女は、微笑みました。
だって少女は知っていたのです。
これがまものの企みだと。
自分から全てを奪ったのはまものです。
家族も、友達も、居場所すら。
自分とまものが出会うように仕組んだのもまものです。
たった一人で旅に出たあの夜に。
だから、少女はまもののもとに来たのです。
奪われた全てを取り戻すために。
「私は許さないわ」
少女は静かにそういいます。
「私を返して」
少女は怒りを込めてそういいます。
「同じなんてことはない」
少女はその手を振り解きます。
「友達の作り方も知らなかったの?」
それはまものの呪いを解くほど強い、怒りでした。
これは昔々の遠い昔。
少女の怒りを買った、哀れなまものの物語。
♢
くらいくらい森の中。お日様の落ちた森の中。
木の根に足を取られながら、曲がりくねった枝に頭をぶつけながら、木の葉におでこを叩かれながら。
一歩一歩歩みを進めていく。帰る方向はわかっている。
夜光虫が飛んでがさりとけものがそばを横切った。
すっかり濡れて冷たいくつで、森の中を歩いている。
冷えたつま先が痛い。すり減ったかかとが痛い。
沈み込むこけがまた水をしみわたらせて、剥き出しになったかかとをかたい草葉がくすぐって、ぴんとふくらはぎを痛めつけた。
それでも歩みを進めている。帰る方向はわかっている。
色とりどりの夜光虫が帰り道を照らしていた。
笑い声を聞いた。
ささやき声を聞いた。
──森は途切れることはない。くらやみだけが続いている。
笑い声を聞いた。
あざわらう声だった。
──耳をふさいで前へ進む。きずだらけの両足はなまりのように重く羽のように軽かった。
指先が痛む。力任せにもいだせいだ。
爪がはがれている。血にまみれている。
からだ中が血にまみれて黒く固まり始めている。
指がさけている。血にまみれている。
何を?何をもいだのだっけ。
何の?何の血だったっけ。
ああ、そうだ、これはまものの血だ。私はまものを裂いたのだった。
その身にいかりをたぎらせて、ふかいふかいぞうおのふちで。
──白いまものと黒いまものがいたのだった。
だって取り戻すためには必要だった。
破るためには必要だった。
帰るために必要だった。
だから選んだのだ。
だって知らなかったのだ。
まものの血を浴びたニンゲンが、もうニンゲンに戻れないなんて。
笑い声がささやく。
あなたはもう人ではナイと。
嗤い声がささやく。
あなたはもう戻れナイと。
囁き声を振り払って、私はまだ、歩き続けた。
くらいくらい森の中。お日様の落ちた森の中。
木の根に足を取られながら、曲がりくねった枝に頭をぶつけながら、木の葉におでこを叩かれながら。
一歩一歩歩みを進めていく。帰る方向はわかっている。
夜光虫が飛んでがさりとけものがそばを横切った。
あおいあおい森の中。ここは本当に森の中?
腐った木の根を踏みながら、枯れた枝を指で払いながら、木の葉を息で飛ばしながら。
一つ一つ足跡を重ねていく。向かう場所はわかっている。
次第に白くなっていく星空に、けれど少女は気づかない。
さざめき声を聞いた。
木の実が落ちる音がした。
──道は途切れることはない。くらやみだけが続いている。
さざめき声を聞いた。
お食べなさいと案ずる声だった。
──耳をふさいで前に進む。気づいた空腹はぐうぐうと少女をむしばんでいた。
お腹がすいた。いつから食べていないのだろう。
空っぽのからだがふわふわして、足元がおぼつかない。
視界が黒くかすんで回り始めている。ちがう、これはくらやみのせいだ。
空っぽのからだがふわふわして、指先から力が抜けていく。
何のおと?きのみが落ちるおと。
何のにおい?われたきのみの甘いにおい。
おもい足が何かかるいものを蹴飛ばした。
すわりこんだ先で少女はゆめをみる。とおいとおいみちのさきで。
──あまい果実がそこにあったのだ。
だって進ためには必要だった。
カエるためには必要だった。
アルくために必要だった。
だから選んだのだ。
だって知らなかったのだ。
あまいかじつをたべたニンゲンが、もうニンゲンに戻れないなんて。
さざめく声が響く。
あなたはもう人ではナイと。
さざめく声が響く。
あなたはもう帰れナイと。
さざめき声から耳を覆って、私はまだまだ歩き続けた。
くらいくらい森の中。お日様の落ちた森の中。
木の根につまづき血まみれになって、曲がりくねった枝に髪の毛を引きちぎられ、木の葉が顔に爪痕を残した。
一歩一歩這いずっていく。帰る方向はきっと合っている。
夜光虫の羽音が耳障りで、生臭いけものの息がした。
あおいくらい森の中。森のすがたをしたくらやみの中。
木の根を血で怪我しながら、枯れた枝に髪の毛を結びながら、木の葉を涙で湿らせながら。
一つ一つ腕を動かしてすすんでいく。向かう場所はまっすぐだ。
真っ白に染まった夜明けの闇に、けれど少女は気づかない。
うごめく声を聞いた。
やさしいかおで誰かが見守った。
──道などもう存在してない。ただ森だけが続いている。
うごめく声を聞いた。
何を言っているのかわからなかった。
──もう何も聞こえない。意志などなくただ意思だけで少女は地を這っている。
どうして。わたしはここにいるのだろう。
どうして。わたしはたおれているのだろう。
どうして。せかいはくらいのだろう。
どうして。もうゆびのいっぽんもうごかないの。
寂しい顔をしたまものがいたの。
身勝手なその手を振り払った。
優しい顔をしたまものがいたの。
不理解なその手を叩き落とした。
──あなたのせいでわたしはこんなめにあったのに。
だって必要だった。
必要だった。
必要だった。
だから選んだ。
だって知らなかった。
正しい道の歩き方。正しい帰り道の探し方。
だから、わたしは憎んでいる。
だから、わたしは恨んでいる。
だから、私は、
もう二度と わたしのように あわれな ニンゲン が まよワ ナイ ように、
これで、はじまり、はじまり。
これでものがたりは──
今に、続く。これまでも、これからも。歴史の地理に埋もれたとて。
これでまもののかどわかし全編 完結 です。ここまで呼んでいただいた皆様ありがとうございました!
……と完結済に切り替えたいのですがシリーズ構成を見返してどこにも入れられなさそうな話が1個浮上したので番外編がこの後続きます。もう少し読んでやっていいよという方は引き続き楽しんでいただけると幸いです。
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