↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まもののかどわかし  作者: toe
黎明エンドロール
67/76

mémoires:御伽噺のゆくはて

お待たせいたしました!

 くらいくらい森の中。お日様の落ちた森の中。

 木の根につまづき血まみれになって、曲がりくねった枝に髪の毛を引きちぎられ、木の葉が顔に爪痕を残した。

 一歩一歩這いずっていく。帰る方向はきっと合っている。

 夜光虫の羽音が耳障りで、生臭いけものの息がした。


 あおいくらい森の中。森のすがたをしたくらやみの中。

 木の根を血で怪我しながら、枯れた枝に髪の毛を結びながら、木の葉を涙で湿らせながら。

 一つ一つ腕を動かしてすすんでいく。向かう場所はまっすぐだ。

 真っ白に染まった夜明けの闇に、けれど少女は気づかない。


 うごめく声を聞いた。


 やさしいかおで誰かが見守った。


 ──道などもう存在してない。ただ森だけが続いている。


 うごめく声を聞いた。


 何を言っているのかわからなかった。


 ──もう何も聞こえない。意志などなくただ意思だけで少女は地を這っている。


 どうして。わたしはここにいるのだろう。

 どうして。わたしはたおれているのだろう。

 どうして。せかいはくらいのだろう。

 どうして。もうゆびのいっぽんもうごかないの。


 寂しい顔をしたまものがいたの。

 身勝手なその手を振り払った。

 優しい顔をしたまものがいたの。

 不理解なその手を叩き落とした。


 ──あなたのせいでわたしはこんなめにあったのに。


 だって必要だった。

 必要だった。

 必要だった。

 だから選んだ。


 だって知らなかった。


 正しい道の歩き方。正しい帰り道の探し方。


 だから、わたしは憎んでいる。

 だから、わたしは恨んでいる。


 だから、私は、


 もう二度と ⬛︎⬛︎が まよワ ナイ ように、


 これで、はじまり、はじまり。

 これでものがたりは、オシマイ。


「──ああ、これは、貴方の旅路だったのか」


 ♢


 それは訓練の合間、体力作りに防衛院をぐるぐると走って戻ってきたシランの第一声から始まった。


「ぜぇ、ぜぇ……ミーネ様、あの、エドだんちょ……エドワルド、はぁ、レガリア殿下が、ふぅ、お願いしたら、オルヴェンの魔女って、ぜぇ、来てくれますかね……はぁ、」


「まず水を飲んで息を整えてこい」


 へばった見習い騎士が死屍累々と転がる練習場。涼やかな様子で監督していたミーネの元に、今にも倒れそうなくらいフラフラしながらシランが駆け寄る。見習い騎士どころか居候のシラン相手にすら、この副団長は全く容赦がなかった。朝から筋トレで散々全身を酷使し、手に肉刺ができて潰れるまで剣を振らされ、散々走らされて正直今ものすごく眠い。恐ろしいのはそれ以上の量を中堅であろう騎士がこなしていたことだった。騎士の体力怖い。


 走る前に応急処置を施してもらった両手がズキズキ痛む。飲み物を持つのにも一苦労だった。座り込んでひぃひぃと呼吸を整えていると一足早く復活した見習い騎士が隊長格に体術の稽古をつけてもらっているのが見えた。騎士の体力本当に怖い。


「魔女に用があるのか?」


「はい」


「……目のことか?」


「はい。もう馴染んだので契約が切れちゃうんですよね」


 右目に埋め込まれた妖精はもう随分馴染んで、シランの全身を大人しく住処として新しく定めたようだった。冷えた指先を湯につけた時のように、熱が体に広がって循環していくのを感じている。しばらく元素魔術に頼っていたけれど、そろそろ妖精魔術に戻ってもいいかもしれない。そう判断した上での打診だった。

 まぁ、妖精魔術が再び使えるようになるということは手のひらの潰れた肉刺も既に痛み始めている筋肉痛も癒せるのだけれど、シランは一つけじめとして決めていることがある。だから今は甘んじて痛みを受け入れている。


「殿下に聞かないと分からないな、それは」


「ですよねぇ……」


「加えて殿下は今日はこっちに顔は出されないと思う。ラクアの使者と冬嵐に備えて会議をすると聞いている」


「まだ夏なのにもう冬の話ですか」


 秋を控えた日差しはまだまだカラリと暑い。山から吹き下ろす風が心地いいけれど、頬が次第に乾燥していくのを感じている。オルヴェンは夏から秋にかけて一気に冷え込むのだというけれど、その兆しはまだ見えない。なんせ休憩の時に井戸から組んだ水を頭から被る騎士もいるのだ。後で真似をしようと思ったのは秘密である。


「冬嵐の被害次第ではうちから支援を出すからね」


「なるほど」


「そしてその担当は騎士団だ」


「なるほど、つまり受け持ち分野ですね」


 ル・ティーヴァの夏はどうだっただろう、とふとシランは思いを馳せる。思えばいつもアカデミーにこもっていたせいで、外に出ることなんてほとんどなかった。アカデミー内ではいつだって室温がちょうどいいように管理されていて、それは外が晴れだろうが雨だろうが変わらなかったのだ。だから夏が暑いというのも、冬嵐の存在もなんだか今初めて分かった気がする。あの大きな学園の中はひどく狭くて小さな世界しかなかった。そして今、シランはそこを飛び出して外の世界にいる。


「契約が終わったらどうするか決めているのかな」


「決めてなきゃわざわざ呼び出したりしないでしょ」


「それもそうか」


 それ以上ミーネは何も聞かずに指導に戻っていってしまって、後にはシランだけが残された。空はただ、青い。



よろしければいいねや⭐︎評価、感想等お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。