↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まもののかどわかし  作者: toe
黎明エンドロール
60/76

mémoires:御伽噺のみたゆめ

お待たせしました。アダン回の始まり!よろしくお願いします!

くらいくらい森の中。お日様の落ちた森の中。

木の根に足を取られながら、曲がりくねった枝に頭をぶつけながら、木の葉におでこを叩かれながら。

一歩一歩歩みを進めていく。帰る方向はわかっている。

夜光虫が飛んでがさりとけものがそばを横切った。


あおいあおい森の中。ここは本当に森の中?

腐った木の根を踏みながら、枯れた枝を指で払いながら、木の葉を息で飛ばしながら。

一つ一つ足跡を重ねていく。向かう場所はわかっている。

次第に白くなっていく星空に、けれど少女は気づかない。


さざめき声を聞いた。


木の実が落ちる音がした。


──道は途切れることはない。くらやみだけが続いている。


さざめき声を聞いた。


お食べなさいと案ずる声だった。


──耳をふさいで前に進む。気づいた空腹はぐうぐうと少女をむしばんでいた。


お腹がすいた。いつから食べていないのだろう。

空っぽのからだがふわふわして、足元がおぼつかない。

視界が黒くかすんで回り始めている。ちがう、これはくらやみのせいだ。

空っぽのからだがふわふわして、指先から力が抜けていく。


何のおと?きのみが落ちるおと。

何のにおい?われたきのみの甘いにおい。

おもい足が何かかるいものを蹴飛ばした。

すわりこんだ先で少女はゆめをみる。とおいとおいみちのさきで。


──あまい果実がそこにあったのだ。


だって進ためには必要だった。

カエるためには必要だった。

アルくために必要だった。

だから選んだのだ。


だって知らなかったのだ。


あまいかじつをたべたニンゲンが、もうニンゲンに戻れないなんて。

さざめく声が響く。

あなたはもう人ではナイと。

さざめく声が響く。

あなたはもう帰れナイと。


モドル みち が わかるのに、カエリミチ が わからない。

もう ミチ を すすんで ツイタ とて、もう ワタシ は モドレ ナイ のだと。

ワタシ ハ さとった ノダ。


「……でもそれは、貴方が今に至るためには必要だったのだろう」


♢


「……お疲れ様でした、アダン副団長。これが最後の書類です」


「……また今日も徹夜か……」


目をしょぼつかせながらぐっとアダンは伸びをした。籠もりっぱなしの執務室に差し込む朝日と爽やかな初夏の風が目に沁みて痛いほどだ。数日前まで空を覆っていた雨雲はすっかり湿気を絞り切って消えていったようだった。最後の書類、と渡された紙にざっと目を通してアダンは眉を顰める。ため息をつくと椅子から立ち上がって外へ出る扉へ向かった。


「どちらへ?」


「仮眠。流石に徹夜の頭でこれは荷が重いからな。机の右側は全部処理済みだ、団長と近衛と……まぁ、振り分けて出しておいてくれ。頼めるか?」


「承知いたしました。どうかご無理をなさいませんように」


「無理な相談だなぁ、それは」


ひらり、ちらつかせた紙を部下に見せて納得したように頷いたのを確認すると、済んだ仕事を預けて廊下に出る。執務室の中よりも眩しい廊下は徹夜で霞む目により沁みて、思わず涙が浮かんでくる。噛み殺しきれなかった欠伸で溢れそうな涙を拭っているとくく、と笑う声がした。


「難儀してそうだな、アダン?」


「……おはようございます、団長。難儀はしてますがほとんど終わりましたよ。これから一息入れるところです」


「その様子だと徹夜か。忙しいのは察するがちゃんと休めよ。……で、あとは何が残ってるんだ?」


「ヴィオレッタ・リーズへの罪状通達です」


あぁ、と納得したようにエドが頷く。ちゃんと最後まで引き受けているなと微笑まれてアダンはなんとも言えない気持ちになった。少なくともそう仕向けたのは目の前にいる団長である。


「そんなに睨むなよ。その様子じゃ接近禁止は早々に解かれるだろ」


「偉大なるル・ティーヴァの天才魔術師殿が許すかどうかにかかってますね」


「そのシラン殿は昨日ミーネとお前の兄貴と夕飯食ってたぞ。あと今日は朝からマスクウェル殿が登城してミーネと会ってる」


「……」


思わず半目でエドを見てしまったのは仕方ないだろう。こちらは接近禁止を解除するのに奔走しているというのに、自分を差し置いてシランはともかく、親族二人が会っているのだから。

どれほど言葉を交わしていないだろう、と背中に隠した手で指折り数えてみる。彼女が目を覚まして星見塔で言葉を交わして、それから訓練に復帰するまで──正確には査問会が終わるまでの間──に雨季が過ぎて夏が来た。こんなに離れたことは別の遠征任務でそれぞれ別に行動していたのを除けばいつだったか。……それこそ初めてかもしれない。


忘れていた期間も加えると、あの金色が隣で駆け抜ける様をもう随分と見ていない気がする。


「アダン?拗ねたか?」


「……子供ですか俺は」


「冗談だ。すまないな、引き止めて。早く休んで午後に備えろ。キツいの食らう予定なんだろ?」


とん、と軽やかにエドが肩を叩いて執務室に入っていく。その背をぼんやりと見送ってからアダンは一度ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしって自室に向かう。手の中の書類には幽閉の二文字が踊っていた。

よろしければいいねや⭐︎評価、感想等お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。