curtain call:君ありて幸福
親愛なる天才へ。
手紙の書き方なんて知らないから、とりあえず君がこれからしなきゃならないことを書いておく。
まず右目に埋め込んだ妖精石は正真正銘、生きた妖精が閉じ込められたホンモノだ。今も妖精は生きているし、君が死ぬまでは生き続けるだろう。あいつら半分不滅だし。君なら大丈夫だろうけど、妖精の魔力に飲み込まれないようにだけは気をつけて。
私の考えだと《……凄まじい量の魔術の理論が書かれている》。
まぁでも対処するのは君だ、多分私があげた理論よりずっとシンプルで楽な方法を思いつくだろう。なんせ君は天才だからね!
見立てでは半年はかかると思うんだけどもっと早いのかな?君が妖精を使いこなしていく過程が見れないのが残念でならないよ!
君が手伝った騎士には悪いことをしたと謝っておいてくれ。君が破るのを踏んであの方法にしたんだがまさか自分で破ってくるとは思わなかったな!そう思わないか?ル・ティーヴァがオルヴェンに喧嘩をふっかけては負ける理由がこれで証明できたな。けどまさか真名持ちの騎士がいるなんて思いもしなかった!でもきっと彼らとこれから一緒にいるのなら君はきっと安全だ。それは私が保証する。
ああ、そうだ。今後何があってもル・ティーヴァには君は戻っちゃいけない。今回私が騒ぎを起こした発端なんだが君を廃人にする動きがあってさ、例のアカデミーの研究の件だ。君が主導で進めてたけどどうやら最終チェックの後に魔術式を書き換えようとする動きがあるみたいでね。まぁ私と君二人がかりならアカデミーの連中を一層するのも簡単だろうけど君そういうやり方好まないだろう?だから私の方で勝手に好き放題させてもらった。でもこれが最善の結果だと私は思ってるよ。私も君もル・ティーヴァにいるには優秀すぎたんだ。摘まれる前に逃げてしまうのが一番だと思わないか?
あとは私のわがままもあるな!君を守ってみたかった!君ってばいっつも正攻法で正面から相手を論破して横で見てる私はすっごいいい気持ちになってたからね、まぁ一種の恩返しってやつさ。受け取ってくれると大変助かる。
魔女には全部込みで契約を結んである。少なくとも君が妖精に対処しきるまでの間は滞在を許してくれるはずだ。私としてはそのままオルヴェンに居続けていて欲しい。オルヴェンの人間って割合いいやつ多いよな、私を雇ったのは最低のクソ野郎だったけど、ル・ティーヴァにいたら即座に食い物にされそうないい人の方が多そうだ。君と騎士の愉快な噂は聞いていたしここはオルヴェンの魔女の庇護下だ。アカデミーがどんなにあいつらにとっての優秀な魔術師を集めてきたところで魔女には叶わない。まぁ住んでみてオルヴェンが肌に合わなかったらラクアから海の向こうに出るのもいい。できる限り君の道を切り拓いたつもりだけどどうだろう?
あとは何を書こうかな。
ああ、そうだ。私の称号は君にあげるよ。名実ともに欠けるもののないアヴァロンの魔術師を名乗るといい。シラン・アヴァロンっていい響きじゃないか?
最悪君にはもう会えなくなるけど、魔女が排除した先の世界は何もないわけじゃないらしい。消滅ではなくて別の世界へ弾き出されるって聞いたことがある。もしまたいつか会えたら、その話をしよう。きっとすごく面白い冒険になると思うんだ!
最後に、私の真名を告げておく。
君に出会えてよかった。愛しているよ。
ペラゴニウムより
♢
「君のライバルは前向きだ」
「でも無鉄砲です。あと人を馬鹿にしすぎです。僕が半年もかかるわけないじゃないですか」
「今はどんな様子なんだ?」
「視力は結構戻ってますよ。妖精もコントロールできるようになってきました。ここまでで二ヶ月です」
「あと四ヶ月あるな」
「お釣りが来ますよ。証明して見せます」
「……うん。……ねぇ、シラン」
「はい?」
「君のこれからは君にしかきっと選べないけれど。それでも──迷ったなら私もいるしアダンもいる。エド団長もいるし、騎士団もいる。……君の力になりたい人がいることを忘れないでね」
「……分かってます。ミーネ様も、」
「うん?」
「ミーネ様も相談してくださいね。僕ミーネ様の来歴知ってびっくりしたんですから。何なんですかあれ」
「あぁ……うん、まぁ、そのうち詳しく話すよ。……そろそろ部屋に戻るといい。夜も深くなってきた。ほら、手紙と……称号も忘れずにね」
「ありがとうございます。じゃあ、また明日!」
そう言って少年は出ていく。降り止まない雨はそれでも薄い雲の先に月が透けていて、白い灯りを青く染めていた。
これは夜明け前の物語。
月が残す蒼い名残を、貴方は道標にして歩き出す。
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