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まもののかどわかし  作者: toe
Goodbye, Maze
23/76

prélude:夜明け後何が起こったか

第二話開始です!

よろしくお願いします!


──朝を迎えた王城の喧騒を、遠い出来事のように感じていた。


目の前で正体不明の獣が倒された──それも呪いをかけられた本人、ミーネの手によって。彼女の纏っていた黒い紋様がじりじりと剥がれて消えていくのを見ていた。エドワルドの手元にあったポーチはとうに光を失っていて、今ではただのポーチである。中を開くのは後にすることにした。次いで聞こえたバタンと大きな音にエドワルドは慌てて顔を上げる。泥だらけの金色の髪が投げ出されて、両足がどんどんに赤く染まっていく──ミーネが倒れていた。


「騎士様!」


「ミーネ!」


その場に崩れ落ちた彼女にアダンと──先程一緒に飛び込んできた少年が駆け寄っていく。抱き起こそうとしたアダンを、鬼気迫る表情の少年が彼の手を弾いて抱えるように威嚇した。驚いたアダンが戸惑ったような顔をして、少年に話しかけている──まぁ、互いが互い、知らぬ相手なのは間違いない。それにしてもミーネもミーネである。どこでこんな子供を口説き落としてきたのやら。


だんだん騒がしくなってきた。窓が割れて、あれだけ室内で大暴れしていれば下の階にも響くだろうし、ましてや呪いが解けた後だ。ミーネを思い出した騎士団員やメイドたちがこの部屋に集まるのもそう想像し難いことではない。だんだん近づいてくる人の気配がたどり着く前にとりあえず、とエドワルドは声を上げた。


「アダン。ミーネを運んで医務室へ。少年、君もだ。治療しなさい」


「御意」


「あ……、……わかりました」


ミーネほどではないが血だらけの手。手や体についた細やかな擦り傷。長らく風呂も入れていなかったのだろう、ベタついた髪も服や顔が汗だらけ泥だらけなのも気になるところだ。部屋を出るところで居合わせた騎士にまず少年を風呂に入れるように頼む。見知らぬ王城で突然一人放り出され、不安そうな少年の瞳をエドワルドは覗き込む。大丈夫、と語るように。


「君はまず身綺麗にしてきたまえ。風呂、入りたいだろう?」


「……。……騎士様は、」


「大丈夫。我々がついている。終わったら医務室に君を連れて来るようにこの騎士に命じておく。引き離したりしないよ」


なんとしてもミーネについて行こうとする少年をなんとか説き伏せて頷かせる。騎士団が使う大浴場にシランが入っていくのを確認するとエドワルドはすぐに医務室へ向かった。まだ早朝というのにメイドや薬師達が走り回っていて、近づくにつれて鼻につく薬湯の匂いがする。と、医務室の前まで来たところで若干頭の禿げた医務室長がぽつんと追い出されているのを見た。


「失礼、ミーネの容体は……」


「おはようございます、殿下。今は男子禁制です」


「おお?あー……室長どのも追い出されたのか。今中にいるのは?」


「女性の看護師と有志のメイドたちが。彼女血と泥と雑菌で治療どころじゃありませんでしたからね」


アダンにはありったけのタオルと薬を集めて来るように頼んであります、と室長の声に思わずその場を想像して吹き出した。ミーネを慕うメイド達には気の強い者が多い。その勢いに飲まれて騎士団の洗濯場中を駆け回ってタオルや薬を集めてくるに違いない。あとで新品のタオルでも出しておくように命じておくかとエドワルドは一考した。


医務室の中からは数人の押し殺した悲鳴や信じられないと騒ぐ声が漏れ聞こえてくる。あれほどの怪我だ、今までよく走りよく対峙したものだと思う。彼女の頑丈さはかねてより知っていたが──そう考えていると不意にがちゃりと医務室のドアが開いて、看護師が顔を出した。


「先生、薬湯が足りません。お湯と薬室の人間を追加でお願いします」


「ん?!待て待て、薬湯が足りんってどういうことだ?!」


「足が雑菌と血で最悪な状態なんですよ。膿はとりあえず出したのですが、このまま雑菌だらけの湯につけるのも……なので新しい湯につけたくて」


「では俺は薬室に声をかけてこよう。室長どのは追加の湯を頼む」


「え、エドワルド殿下……?!」


「今はエド団長だ。行ってくる」


ひらりと手を振ってその場を離れると入れ違いにタオルや着替えを持ったメイドが駆け込んでいった。なるべく壁の端に寄りながらセーフだったなと胸を撫で下ろす。ぶつかっていたら彼女達はミーネの看病どころじゃなかっただろう。


すぐそばの薬室に向かうと薬剤師が次々と薬をすり潰していく最中だった。薬湯の追加を依頼しにきたと伝えれば、怪我の状態から追加が必要だとわかっていました!と眩しい笑顔。この城に働く彼らが優秀なのは騎士団だけではないというのを今更思い知らされた。


「ミーネどのは足を膿んでいたとか?!」


「らしいな。膿は全部取り除いたそうだ。湯は血と雑菌だらけだと」


「なるほど!では殺菌作用のあるこの薬草と鎮痛成分のあるこの種子を追加しておきましょう!あとは炎症を抑えるものも追加で用意しておきましょうかねえ!」


「手伝うか?」


「殿下に手伝わせたと知ったらうちの室長が卒倒するんでお手柔らかに!」


それはまずいと手を引っ込めた。薬がすり潰されたや否や、では行ってきますと薬師は容器ごと駆け出していく。その背を眺めながら、なんだか誇らしい気持ちでエドワルドは見ていた。

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