finale:まもののかどわかし
昔々のそのまた昔。
とあるところに少女がいました。
昔々のもっと昔。
とあるところに、まものがいました。
昔々の少し昔。
少女はまものと出会いました。
問答を繰り返して、少女はまものに微笑みます。
だって少女は知っていたのです。
これがまものの企みだと。
自分から全てを奪ったのはまものです。
家族も、友達も、居場所すら。
自分とまものが出会うように仕組んだのもまものです。
たった一人で旅に出たあの夜に。
だから、少女はまもののもとに来たのです。
奪われた全てを取り戻すために。
「私は許さないわ」
少女は静かにそういいます。
「私を返して」
少女は怒りを込めてそういいます。
「同じなんてことはない」
少女はその手を振り解きます。
「友達の作り方も知らなかったの?」
それはまものの呪いを解くほど強い、怒りでした。
これは昔々の遠い昔。
少女の怒りを買った、哀れなまものの物語。
♢
魔法陣が浮かんでいた薄っぺらな本が、ばっくりと二つに切り裂かれて千々になって消えていく。断末魔のようにギイイ、と鳴き声を残して解けていく。
その様を魔術師はただ見守っていた。
「まもののかどわかし。ル・ティーヴァじゃ有名な昔話。孤独なまものが同じような孤独を作り出そうとして失敗する話。オルヴェンからすればーー魔術師に屈しない、呪いを打ち破る物語」
怒りに震える声が屋敷に響き渡るのを聞きながら、魔術師はのんびりと茶を口に含む。そこら中に書いた魔法陣も、呪いの種も次々に燃え尽きて消えていく。それすら満足げな顔をして、魔術師は見送っていた。たった一人にかけた呪いがこれほどの量だったのは驚きだけれど、これを打ち破ってしまったのは驚きを通り越して感動した。シランと組むだけはあると納得する。
「まぁ、シランと組むくらいならこれくらいしてくれないと。いや、これも魔女の計算のうちなのかな?私と契約した時からこの結末を読んでいたとしたら本当、魔女っていうのは恐ろしいね!未来視もリスク無しで使えてしまうのかな?怖いなぁ!ラクアの聖女が聞いたらハンカチ噛み締めて地団駄を踏むんだろうなぁ!」
燃え尽きていく呪いの種に紛れて、拳ほどの大きさの宝石がころりと転がって煌めいた。鮮やかなピンク色の花火を閉じ込めたような宝石を大事そうに手に取ると、魔術師は指先で弄びながら笑う。
「さっすがシラン!ウジウジしてる時は何にもできないけど開き直ったら君は世界最高の魔術師だーー私が知ってる!なんせ君の迷路には散々苦しめられたからね!君ったら天才のくせにやり口がネチネチしてて性格が悪いったらありゃしない!まぁ私も人のこと言えないんだけどね!」
怒りの声が近づいてくる。癇癪のように花瓶が投げられ割れる音。熊でも歩いてるのかと言わんばかりの大きな足音。怒鳴り声。
ひょい、と魔法陣を書かれた紙を操作すると魔術師はなんとなくドアの鍵を閉めた。ヒステリーを聞きたいわけではないからだ。
夜明けの光を浴びながら、魔術師は楽しそうに無邪気に、そしてつまらなさそうに思考する。これから起きること、起こすこと、その全てを。
「でも意外だったなぁ、真名を持ってるオルヴェンの人間がいるのは意外だったしあいつを倒せる奴がいるのも意外だった!まぁしばらくは動けないだろうけどーー次の一手がめんどくさそうだな。まぁ、次にこそシランはここに来るだろうし、君の迷路で迷わせてくれるんだろう?」
扉をものすごい勢いで叩かれた。怒声が向こうから聞こえてくるが魔術師の耳には届いていない。彼女の頭の中にあるのはこれから描き出すシナリオだけである。とはいえ、今日は一晩中起きていて疲れた。安楽椅子に深くもたれると、魔術師はゆっくり目を閉じた。
これは夜明け前の物語。
闇夜の先の赤い光を、貴方はきっと刻みつける。
→continue to “Goodbye Maze”
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