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古希の星  作者: 千路文也
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069  臆病であれ


「こうも移動ばかりでストレス溜まっちまうぜ」


「ストレスじゃと?」


「ああそうだ。身体の中から悲鳴が湧いてくるぜ」


 鬼崎とペーニャはMLBの過酷な日程について議論を投じようとしていた。


「なぜ、内側から悲鳴が湧く?」


「そりゃおまえ……身体が疲れてるからだろう」


「違う」


「ち、違うだって。そんなわけねーだろ。疲労感が身体に蓄積されるからストレスは溜まるんだよ」


 確かにペーニャの言う通りだ。身体が疲れていれば精神的に弱くなり、落ち込む。しかし、鬼崎の場合はそうではないというのだ。個人的な意見だとなんとなく分かってはいるが、そもそも会話の大部分は個人的な意見であり、万人が認める答えが会話中に飛び交うなどまず有り得ない。


「自分や周囲に期待するからストレスが溜まるんじゃ。最初から自分は駄目だと分かっていれば、ギャップに苦しまれずに済む」


「そんな簡単に言うけどよ。俺達はプロだぜ。プロの人間が弱気でどうする?」


「お主は何もわかっとらんの」


 ペーニャは何も分かっていないというのだ。


「なあああにいいいいい。この俺様が何も分かっていないだと!」


「ああそうじゃ。人間はその昔、大自然を相手に戦っていた。今みたいな平和な世の中ではなかった」


「一体全体、その話しがどう関係する」


「黙って聞け。いいか、人間が今日まで絶滅せずに生き残ってきたのは子孫を繁栄したからじゃ」


「そりゃそうだろ。子供が生まれないと種は残らない」


 当たり前のことである。故にそこが大事だと何故気づかない。


「子孫を繁栄するには天敵から逃げるべきじゃ。だから人間は昔から臆病など相場が決まっておる」


「なるほど確かに言われてみればそうかもしれない。臆病な生き物って危機察知能力が強いよな」


「まさにそうじゃ。MLBで生き残るには自分の弱さを自覚して、それと闘っていく必要もある」


 プロの世界で活躍する選手は例外なく臆病だ。逆に自信過剰な性格など百害あって一利なしだ。



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