548:光線、閃く
オリハルコンゴーレムはなかなか強敵だった。外見は鉄の人の二十八号そっくりでユーモラスだったけどな。それも古いほうの。
結果的にはリネスの魔法と俺の飛び蹴りで粉砕され、いまやその巨体も赤い鉄屑の山と化している。
少し調べてみると、ボディーの内側は、おそろしく複雑精密な機械構造になっていて、仕組みやら動力源やら、俺には何がなにやらサッパリわからんかった。ただ俺にもわかったのは、四肢の関節部分から胴体内の細かい機械部分に至るまで、すべてオリハルコン製のパーツで組まれている、ということだ。どんな凄まじい技術だ超古代。
かつて戦ったフィンブルのヒヒイロアームは、外装だけヒヒイロカネで、内部には鉄や真鍮なんかのパーツも使われてたが、このゴーレムは純度百パーセント、何から何まで完璧にオリハルコン。ヒヒイロアームとの対戦時みたいな力技だけでは、俺はこいつを倒せなかった可能性が高い。
もっとも、その時はその時で、こいつの腕でも掴んで後方へ放り投げ、さっさと先を急ぐという手もあった。俺の腕力ならその程度は可能だし、そうして遠くへ引き離し、次の階層への階段を降りてしまえば、もう追いかけてはこないだろうし。
この不思議なゴーレムの残骸、リネスはさぞ興味を抱くだろうと思ったが――そうでもないらしい。
「んー、動力源だけはちょっと興味あるけどさ。でもボク、キカイってあんまよくわかんないから」
えらい淡白な反応だ。魔法マニアではあっても、メカとかロボとかには特に魅力を感じないようだ。もっとも、女の子は大概そんなもんだろうけど。俺も正直よくわからんし、放っといてよかろう。先を急ぐか。
続く第七階層は、これというアクシデントもなく踏破できた。トラップが勝手に発動しまくる点は相変わらずだったが、さすがに、もう慣れた。リネスと二人、襲い来る罠の数々をアスレチック感覚で避けたり防いだり受け止めたり。途中、マップの註釈に従って、トラップの無い中間地点でキャンプを張り、水とパンと干し肉で食事を摂って、そこで一泊。
リネスはやけに安らかな顔して眠ってた。後、一睡から覚めたリネスがいうには――夢の中で全身金色に輝くパンチパーマの優しそうなおにいさんに説教されたそうだ。それ多分パンチパーマじゃなくて螺髪だと思うぞ。寝てる間にまた極楽浄土に行ってたようだな。あのおにいさんは立川でバカンス中のはずだが、たまたま里帰りでもしてたんだろうか。
第七階層から、リフトでさらなる下層へ。かなり長い時間かかってリフトが辿り着いた先は、いきなり第十二層。
俺とリネスは、床へ第一歩を踏み出すや、まったく同時に驚嘆の声をあげていた。
通路の規模そのものは、上の階層とほぼ同じ。大型馬車二両が並んで通れるほどの幅があり、床から天井までは十数メートルの高さがある。魔力球の照明は相変わらず点々と一定間隔で天井から通路内を照らしている。
だが、それら以外の様相が、これまでと一変していた。まず、石造りじゃない。鏡のような床と天井。床は表面こそ鏡面加工されてるが、踏みしめた感触や音から、おそらく鋼鉄製だ。天井も同様だろう。いっぽう左右の壁は、深く鮮やかな青色の半透明な材質になっている。表面はつやつやしていて、一見、色付きのガラスのようだが、そんな脆い代物ではなさそうだ。あるいはまったく未知の材質かもしれない。
「はー……なんだろうこれ。今までと全然違うね。ピッカピカだよ」
リネスが嘆声を洩らす。たしかに随分と様変わりしている。上下が鏡面というのも驚きだし、壁の材質も謎だ。ただ、今はそれをいちいち気にしてる場合でもない。ボッサーンの註釈によれば、この階層には新手のトラップがひしめいてるらしい。従来のようなタライや落とし穴のたぐいではなく、冷気のガスや、雹のような氷つぶて、槍ぶすまのような氷の刃――なんとも寒そうなトラップが目白押しだ。
「念のために、物理結界を張っておいたほうがよさそうだな。リネス、任せる」
「ん。まかせてー」
むにゃにゃー……とリネスが呪文を唱え、結界を張り終えるのとほぼ同時に。
俺たちの眼前で、眩い閃光が炸裂した。
最初の一閃に続き、二度、三度……白い光芒が、ぱぱぱっと閃き瞬く。光量自体はさほどでもなく、視界を覆うほどのものでもないが……これは何かの攻撃か?
「アーク、あれ! 天井!」
リネスが顔をあげて叫ぶ。つられて俺も顔を上げた。
天井の一角に、何か大きな物体が吊り下がっている。さっきまで、そんなものは見あたらなかったが……銀色の、細長い筒のようなものが、天井から機械のアームっぽいものと繋がってぶら下がっている。そのアームがぐいんぐいん動いて狙いを定め、筒の先端から白い光線を閃かせる。光線はリネスの物理結界に阻まれて、俺たちの手前に炸裂しては消える。
え。なんだこりゃ。もしかして、レーザー砲? またやけにSFチックなのが出てきたが。どうなってんだ。




