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545:涅槃からの帰還


 トラップ地獄と化した遺跡の通路を、がむしゃらに駆け抜けてゆく。相変わらず気絶したままのリネスを両手に抱えて走る走る。

 先へ進むごとに、左右の壁からは真っ赤な炎が噴き出し、ナイフや矢羽や鉄槍がびゅんびゅん飛んで来る。石床はぱかぱかと開閉して落とし穴へ誘い、天井からは銅やら真鍮やらの大きなタライが降ってくる。走ってても浮いてても同じようにトラップが発動するため、いっそ地に足をつけておいたほうが、咄嗟に瞬発力を発揮できるぶん、まだ罠もかわしやすい。


 この階層に下りてから、もう半日も駆け通し――なにせ足を止める間もないほど次から次へとトラップが襲ってくる。今また天井がガコンと開き、ちょうど俺の行手にぶち当たるタイミングで、銀のタライが降ってきた。

 ええい鬱陶しい!


 俺は左足で床を蹴りつけ、宙へ飛びあがりつつ、右足を大きく振りあげた。落ちてくる銀のタライを鮮やかなオーバーヘッドキックで蹴り飛ばす。メギョン! と、妙な音を響かせ、タライは遥か後方へとすっ飛んでいった。そのまま着地。耳をすませていると、ほどなく、かなり遠くのほうから、バゴンガランゴロンと騒々しい金属音が聴こえてきた。たぶん、さっき俺が飛び越えてきた床の落とし穴に転がり落ちたんだろう。

 俺はいったんその場に足を止め、小さく息をついた。この近辺には、いまの銀のタライの他に、罠は仕掛けられてないようだ。無論、少しでも先に進めば、また別の罠が襲いかかってくるだろう。


 俺はリネスをそっと床に寝かせ、気付けがわりに治癒魔法をかけた。さっきの亜音速スピンの衝撃に耐えられず気絶しただけで、毒ガスは吸ってないはず。解毒は必要なかろう。


「……んにゃん?」


 リネスは、ふにゃーと頬を緩めつつ、瞼を開いた。ぽそりと呟く。


「ここは……西方極楽浄土?」

「違うわ」


 どうやらこいつも涅槃に召されていたらしい。あの亜音速スピンがもたらす超感覚の彼方にこそ、悟りへの道程が開けているのかもしれない。べつに悟りたくないけど。





「……ふぅん? 何もしてないのに、勝手にトラップが?」


 二人、地べたに座り込んで向き合いつつ、手短に事情を説明する。リネスは首をかしげた。


「そういえば、さっきのあの煙、ボクたちがまだリフトから離れる前に噴き出してたよね」

「他のトラップもだいたい同じだ。近付くだけで引っかかるようになってるらしい。それはなんとか回避できるから、まだいいんだが」

「ようするに、罠をかわして進んでる間に、現在地がわからなくなったんでしょ」


 リネスがズバリ指摘する。まったくその通り。ここが第六層なのはわかってるが、あまり闇雲に通路を走ってきたため、俺たちがいま第六層のどこらへんにいるのか、サッパリ把握できなくなっていた。


「どれどれ……」


 リネスはザックから例の地下マップを引っ張り出して石床に広げた。

 ざっと見てみると、この第六層というのは、遺跡全三十七階層の中でも特にトラップが多いようだ。ボッサーンが遺した註釈もかなり詳しいもので、トラップの位置と種類について、びっしり書き込まれている。


「んー……」


 リネスは何か気付いたように、俺のほうへ顔を向けた。


「ここまでに、何回タライが落ちてきたかわかる?」


 そんなん数えてねーよ!


「い、いや……わからん」

「もー、しょーがないな。じゃあさ、色とか材質はどう? リフトを離れてから、ここに来るまでに、銀のタライは何回落ちてきた?」

「ん? ……おう、それならなんとか……たしか、さっきので三回目だな。ここでちょうど、その三度目の銀のタライを蹴飛ばしたとこだ」

「ふんふん、なるほど。すると……」


 リネスは周囲を軽く見渡し、大きくうなずくや、地図上の一点を指さした。


「リフトから……銀のタライに引っ掛かった回数と、周りの地形から考えて……現在地はたぶんここだよ。多少外れてるけど、方角自体はかなり最短に近いルートを辿ってきたみたい」


 リネスが示した地点は、第六階層の南西部。下層へと続く階段は、比較的近いところにある。なるほど、無我夢中だった割に、方角的にはだいたい正解だったようだ。野性の勘ってやつかねえ。


「でも……この先がちょっと厄介かも」


 リネスが呟く。マップに書き込まれたボッサーンの註釈によると――。


「超古代に製造されたと思しき動く人形……ゴーレムに似た巨大な存在が、長い直線路の真ん中を塞いでいる。きわめて強固な金属製の外殻を持つ。外殻の素材はヒヒイロカネに酷似しているが、おそらくヒヒイロカネのオリジナル、すなわちオリハルコン製と思われる」


 オリハルコン製のゴーレムだと?

 オリハルコンというのは、超古代に魔族が発明したという魔法金属。地上最高の硬度を誇り、いかなる衝撃にも傷ひとつ付くことがないといわれる。すでにその製造法は失われてしまっているが、エルフが見よう見真似でオリハルコンの構造をコピーして再現し、そっちの製造技術は現代に残っている。それがヒヒイロカネだ。


 そのオリハルコンの外殻を持つゴーレムとは。フィンブルが作ったヒヒイロアームみたいなもんか?


「いかなる手段をもってしても、破壊は不可能。一定のエリア内に侵入すると動き出し、攻撃してくる。対処法は……自分で考えるように」


 ……ってコラ、ボッサーン! 死んでからまで喧嘩売ってんのか貴様ァ!



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