ラスヴェイト S.マリークラーラ
私たちは『セフィリスト』と呼ばれるプレイヤーだ。
ゲームのボスキャラ、本来ならば倒すべき敵である『セフィラ』たちに味方して、他のプレイヤーと刃を交えるPK。襲撃クエストが発生すれば、とうぜん私たちはセフィラ率いる『マステマ』の側につく。
さて、私の機体は空を飛んでいる。モルガノイド系EDAストームルーラーを私用に調整した愛機、名前は『ラスヴェイト』。ラスヴェイトを見て、恐らく私の配信を初めて見るのであろう視聴者が質問のコメントを書き込んだ。
《なんだこの機体!? プテラノドンみたいな!? ロボの!?》
《おっとお客さん、マリィちゃんの配信は初めてかい?》
《ようこそマリィちゃんハウスへ。このウォッカはサービスだからまず飲んで落ち着いてほしい》
《LDOの配信を見るのも初めてです……》
《ふむ、ならばモルガノイド系EDAも知らんだろうな》
《もるがの……?》
《LDOの世界には10の惑星があり、それぞれの環境にあわせて異なるEDAが使用されている。モルガノイド系は木星のEDAだ》
《モルガノイド系をひとことで表すなら『機械の動物』だな》
《機械なのに動物?》
《設定から話そう。木星に存在していたある種の『金属生命体』が、人類の持ち込んだ機械に取り付き『機械生命体』となった》
《機械生命体はテラフォーミングされた木星の環境にあわせ、多種多様な進化を遂げていった。陸には獣型、海には魚型、空には鳥型と、それこそ地球の生物と同じようにな》
《その機械生命体を手なづけ、改造し、人類の扱う兵器としたのが動物型EDA『モルガノイド』というわけだ》
《なんとなくわかりました! ありがとう!》
《まあもっと話を聞いていけ。ウォッカもっと飲むか?》
《モルガノイド系EDAはLDOでもっとも異質なEDAと呼ばれている》
《まずバリエーションが豊富でな。他の惑星のEDAは基本的に人型ばかりだが、モルガノイド系はさっきも言った通り多種多様だ》
《四足歩行だったり、魚型だったり、鳥型で空を飛んだり。性能も千差万別。各機種の間に『動物の形をしている』以外の共通点はないと言っていい》
《それからモルガノイド系のEDAには本物の動物みたいに意思があり、個体ごとの性格がある。同じ機種でもおとなしい性格だったり、凶暴な性格だったりな》
《性格や意思があるので、操縦者がなにもせずとも勝手に動いたりするんだ》
《現実の動物が飼い主の思う通りに動かないのと同じだよ》
《なのでモルガノイド系の操縦者は自分の愛機と交流し、言うことを聞いてくれるよう懐かせる必要がある。これはモルガノイド系独自の仕様》
《あの、わかったんでそろそろ配信に集中したいんですけど》
《まあまあそう急ぐな。もうちょい聞いてけ。ウォッカ飲むか?》
《マスター。ウォッカおかわり!》
……私の配信の視聴者は、喋るのが苦手な私の代わりにコメントでよく喋る。おかげで私がほとんど喋らずともコメント欄は盛り上がる。チャットルームみたいなものだ。たすかる。
《で、どこまで話したっけ新人? そうだ、モルガノイドの特徴についてだな》
《忘れちゃいけない仕様が、モルガノイド系のカスタマイズ自由度の低さだ》
《モルガノイド系は原型がわからなくなるほどの魔改造ができない。魚型を四足歩行の狼型にしたりとか、二本足をつけて二足歩行の人型にしたりとかは不可能ってことだな》
《背中にキャノン砲を背負わせる、爪の部分にビームソードを仕込むなど、原型を留める程度のカスタマイズしかできないんだ》
《手もないからな。人型EDA用の手持ち武装も使用不可能だぜ》
《しかしカスタマイズ自由度の低さと引き換えにモルガノイド系は基本性能が高めに設定されている》
《例えば、四足歩行のオオカミ型は人型EDAより陸を走る速度が早い。魚型は人型EDAより水中戦能力が高く、鳥型の空戦機動も標準的な人型EDAを上回るものだ》
《人間が身体能力で野生動物に勝つことはできないんだな》
《個体ごとの意思の存在、カスタマイズ自由度の低さ、その独自仕様ゆえに扱いは難しい。だが野性に溢れた性能に惚れて愛用するコアな操縦者も一定数存在する》
《あの》
《ウォッカ飲めウォッカ》
《ちなみにマリィちゃんが使っているのは翼竜型……プテラノドン型のモルガノイド『ストームルーラー』をマリィちゃん仕様にカスタマイズした機体だ。『ラスヴェイト』ってのはマリィちゃんのストームルーラーの個体名だな》
《ストームルーラーっていうのが種族名、現実で言うなら『犬』とか『猫』みたいなもんだ。そしてラスヴェイトが『ポチ』とか『タマ』にあたるお名前》
《配信に集中できないんですけどぉ!?》
《ウォッカだ。ウォッカをキメろ》
《ラスヴェイトはマリィちゃんがβテスト時代から一緒にいるEDAでなぁ。次はその思い出から語っていこうと――――…………
……コメントを盛り上げるのは視聴者に任せ、私は仲間たちに音声チャットを送る。
「忌薔薇。視聴者。そっちは。集まった?」
返ってくるのはどこかの方言であろう変になまった声。
『まだまだやなぁ。やっぱ緊急やと視聴者さんの集まり悪いわぁ。……ミカさんの方は?』
忌薔薇が調子を問うた相手は、三日月エンブレムの黒ウサギ、ミカ。いつもなら事務的で冷静な声がすぐに返ってくるのだが、
『…………』
「……ミカ?」
『……はっ!? なんでしょう!? なにか言いました!?』
『視聴者さん、集まってはります?』
『えっと……まだ3000人程度です。普段なら配信開始時点で5万人、最終的に10万人から20万人ほど集まることを考えると』
「少ない。困る。イイネ。不足」
『私たちの機体は最低5万以上のイイネを得ることを前提として設計されていますからね』
『イイネが少ないとなぁ、戦える時間も短くなってまうし、機体性能もフルに発揮できんしでなぁ』
『そうですね。これからどれだけの視聴者が集まるかもわかりません。ひとまずEMOリアクターは使わず、ENを温存して戦いましょう』
「了解」
『はいなー。……なぁ、ミカさん?』
『なんでしょう?』
『妹さんのこと、大丈夫? 話の途中やったのに襲撃クエはじまってもうたからなぁ』
『だ、大丈夫です。セフィリストとしての役目は果たします』
『……あんまり気負わんでもええからね』
「家族。大切に」
『……ありがとうございます、ふたりとも』
ミカの声に元気がない。仕方ないか。
ともかく、私たちも戦闘開始だ。
『そんじゃウチはいつもどおり地上担当するわぁ』
『では私は海を』
「空」
私のラスヴェイトは空戦が得意な翼竜型EDA。遙か上空に舞い上がり、そこから眼下の海岸線を見下ろす。
忌薔薇の機体――鎧武者みたいなEDA『赤異屠』が、刀を手に敵軍と剣戟開始。ミカの機体は海中へ潜っていった。
私は空からふたりを……特に忌薔薇を援護する。地上の敵を次々とロックオンし、
「ラスヴェイト、フリーズミサイル」
ラスヴェイトに搭載されていたミサイルを斉射。小型の弾は地上へと降り注ぎ、ロックした敵に着弾。その瞬間に発生したのは爆発ではなく、
《うお、ミサイル当たったところが凍りついた!?》
《ラスヴェイトに搭載されているのは月の工房と地球の企業が共同開発した半魔導兵装、フリーズミサイル》
《これは着弾地点を凍結させてしまうミサイルでな。相手の動きを封じるに絶大な効果を発揮する》
そう、相手の動きを封じるための武器。これに当たって凍りついた敵を、
『マリィさん、おおきになぁ』
赤異屠が一刀で切り裂き葬っていく。連携。
もう一度。私は再度の凍結爆撃をラスヴェイトに命じた。どんどん地上は凍りつく。凍った敵は切り裂かれる。死のさっぽろ雪まつり。
『ぎゃああああああ凍ったあああああああ動けねえええええ!』
『うわぁカタナ持ったやつが近づいてくるうううううううううう!?』
『コワイヨー!』
敵の音声チャットは阿鼻叫喚だ。かわいそうだけど死んでもらう。それが私たちセフィリストの役目であり、私たちの視聴者が見たがっている光景なので。
『あー、あー、ミカ、マリークラーラ、忌薔薇さま、聞こえてるか? 援護に来たぜー』
『緊急で始まったもんで遅れちまった!』
『ザコ敵は任せな!』
私たち以外のセフィリストも戦場に到着。戦況は一気にこちらが優勢に。今日も私たちは勝つのだろう。その点では何の心配もない。
……むしろ心配なのは、ミカのことで。
『……忌薔薇、マリィ、ごめんなさい』
「えっ?」
『ふえ?』
戦いの最中、突然、彼女の謝罪が私たちに届いた。
●ストームルーラー・マリークラーラ仕様『ラスヴェイト》
HP:5500
EN:280
装甲値:900
運動性:110
移動力:7
特殊能力:EMOリアクター(天) 性格・温厚
空:S 陸:不可 海:不可 宇:B
機体サイズ:L
操縦者:マリークラーラ
●武装
・対空バルカン
攻撃力3200 射程1~3
・格闘用クロー
攻撃力3400 射程1
・フリーズミサイル
攻撃力4000 射程1~6 凍結付与
操縦者コメント
「マリィのEDA。以上。ブクマ。評価。よろしく」




