説得 S.ヒノワ
「ごめんなぁ、作戦失敗やわぁ」
「ミカの妹。技術、良い。感心」
「私の妹ですからね!」
戻ってきた忌薔薇さんたちにアルミラちゃんを褒められて、ミカさんはふんすと胸を張った。
「けれど、また仲直りはできずじまいです……」
「話しかけるタイミングすらもなかったね……」
「うーん、なにがアカンかったんやろなぁ?」
「不明」
「忌薔薇さんたちがいい人すぎたのが敗因じゃないかなぁ?」
「うふふ、そんないい人やなんてぇ。照れますわぁ」
「マリィに。惚れるなよ?」
「惚れません。……他に仲直りのアイディア、あります?」
「ないで」
「皆無」
このふたり、役に立たないな……。
「うーん、人数が増えても状況は打開できず……」
「……どうすればいいのでしょう?」
「…………やっぱり、妙な作戦で動くより、ストレートに行った方がいいのかも?」
「ストレートに、ですか?」
「ん。ちゃんと正面から向き合って、お互い思ってることを真剣に話して……アルミラちゃん根は良い子だから、誤解さえなければわかってくれると思う」
「…………思ってることを」
「一応、私が仲介します。約束だし。……でも、結局はミカさん次第になっちゃうと思う。私にできるのはお手伝いだけ。それで、どうかな?」
「…………そう、ですね。それがいいかもしれません」
というわけで、ミカさんとアルミラちゃんを真正面からぶつけることになった。私はミカさんと一緒にアルミラちゃんの元へと向かう。
……私とミカさんが知り合いだったと伝えたら、彼女は怒るかもしれない。私を疑うかもしれない。友達じゃ、なくなっちゃうかも。怖い。だけど、実のお姉さんと仲違いし続けて、泣いてしまうほどの劣等感を抱えて、ずっと苦しむ彼女を見るよりは。
怖いけど、がんばる。
「アルミラちゃん?」
「どこ行ってたんですかヒノワ、いま作ってる機体に関してあなたの意見を聞きたかったんですから――――」
こちらを見上げたアルミラちゃんは、私の隣に『宿敵』がいることに気がつくと、表情を凍らせる。
「……なんであなたがヒノワと一緒にいるんですか」
「……えっとね、アルミラちゃん、私とミカさんは現実でのクラスメイトでね、実は面識があってね、それで私は彼女に頼まれて」
「待った。……あなたとミカが、現実での知り合い?」
「ん」
「ヒノワ、ひとつ聞かせてください。あなた、もしかしてミカの指図で私と一緒にやってたんですか? ミカの差し金で動いていたんですか? ミカの……ミカに言われて!」
アルミラちゃんが今まで見たこともないほどの怖い顔をして、私に怒声をぶつけてきた。泣きそうにもなっている。感情を処理できていないのだろう。
慌てて言い訳して、なんとか慰めてあげたくなるような、そんな顔、そんな声。
けれど、ここで言い訳や慰めの言葉を重ねようものなら、きっと彼女は私を信じてくれなくなる。
だから私は真剣に、正直に言葉を紡いでいく。
「違うよ。私とミカさんがお互いクラスメイトだったって知ったのは、火星での戦いのあと。あの時、アルミラちゃんは自分たちの名字とか、ミカさんの本名とか、泣きながら口にしてたでしょ? 私はそれではじめて気がついた」
「……そうでしたっけ」
「そうだよ。忘れているならよく思い出して」
「……そうだったかもしれません」
「ん。それにね、最初に私を誘ってくれたのはアルミラちゃんだよ? 私がミカさんに言われて組んだんじゃない。アルミラちゃんが私を見つけてくれたんだよ」
「……それも、そうでしたね」
「だから、私とアルミラちゃんがやってきたことにミカさんは関係ない」
まっすぐに見つめて、伝えた。
アルミラちゃんは言葉を受け取ると、顔を伏せて何秒、何十秒と考え込む。
考えて、考えて、考えて――そして、次に顔を上げた時、彼女はいつものいじわるな笑顔を浮かべているのだ。
「…………そうですね。私があなたを見つけて、私から声をかけたんでした。そこにミカの謀略が挟まる余地はない。そもそもミカが私に嫌がらせするなら、回りくどい手を使わず真正面から殴りに来ればいいだけですし」
「信じてくれる?」
「あなたのことは信じますよ。パートナーですし。ひひひ!」
……よかった、と、私はほっと胸をなでおろす。
「……しかしそこの女とクラスメイトだなんて、なんたる不幸。かわいそうに」
「いやー、ミカさん、そんなに悪い人でもないっていうか……」
「騙されてます、騙されてますよヒノワ。その女は自分の出来損ないな妹を見下し、すきあらば嫌味を言ってくるような性悪ですからね」
「……うぐっ」
あ、ミカさんがショックを受けている。彼女の変化に乏しい表情から、なんとなく感情を読み取れるようになってきていた。
「で、その女になにを言われたんですか?」
「えっとね、ミカさん、アルミラちゃんと仲直りしたいんだって」
「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁ? なーかーなーおーりぃぃぃ?」
「ん。ミカさんね、ここ数年ほどアルミラちゃんと仲違いしてることを悩んでたみたいなの。それで私に、アルミラちゃんとの仲を取り持ってほしいってお願いしてきて」
「やっぱ騙されてます! その女が私と仲良くしてぇなんて思ってるわけがねーんですよ! 目を覚ましてヒノワ!」
「うぐぐっ」
あ、またミカさんがダメージを。無表情のまま悲しむミカさんはひとまず置いて、私はアルミラちゃんを説得するべくがんばる。
「ほ、本当なんだって! ちょっと気持ち悪いくらいのシスコンっぷりを見てきたから間違いないよ!」
「き、気持ち悪い……っ!?」
「うーそーでーすー! その女、この前なんか私に下着を買ってきたんですよ!? 子供っぽいやつ! お子様はこれでも履いてろといわんばかりに! んなもんを勝手に人の部屋のタンスにねじ込んでいきやがって!」
「ちょ、直接、手渡そうとしても受け取ってくれないでしょうし。それにあの下着を着ているところを想像したらとても似合っていたから。ね、ヒノワさん? 姉として普通ですよね?」
「ごめん勝手にタンスに下着を入れてくのはさすがにちょっと引く」
「そんなっ!?」
この姉妹、本当に仲直りさせて大丈夫なのかな……?
なんだかやる気がガリガリ削れていきます、でもがんばる。
「…………み、ミカさんがちょっとヤバい人であることは認めましょう! でもほんと悪い人じゃないと思うから! その、だから……」
「……だから?」
「とりあえず、ミカさんじゃなくて、私の言ってることを信じて……少し話しあってみない?」
「……あなたを信じて、ですか」
その言葉で、アルミラちゃんはまた考え込む。
考えて、考えて、そして導き出した答えは、
「……………………わっかりましたよ! わかりましたー! その女じゃなくあなたを信じて、すこーしだけ話してやることにします! すこーしだけ!」
「あ、ありがとうアルミラちゃん! ……ミカさん、あとはミカさん次第だからね?」
「わかっています。ここまで道筋を整えていただいたのですから、必ずや……!」
と、ようやく話が進みそうだったのに、なんだか周囲が騒がしくなってきた。
いや、もとより仮想海水浴客で騒がしかったのだが、その騒がしさの『質』が変わったというか。楽しくはしゃぐ声から、困惑と混乱のざわめきに。
「おい! 緊急配信だってよ!」
「マジカヨ!? 今度はなんだ!?」
「ケテルってことは海王星!? ここか!」
どうしたんだろう? いまいいとこなんだけど……。
「ヒノワさん! アルミラさん! これ!」
首を傾げていたら、ライカちゃんが大慌てで駆け寄ってきた。
彼女はメニュー画面を操作して、誰かがリアルタイムで行っている動画配信をホロウィンドウに表示させる。
そこに映るのはセーラー服姿、黒髪長髪の女の子で。
『やあ、劣等種の諸君。セフィラのナンバー1、海王星の管理者・ケテルだ。いきなりですまないが、襲撃を予告させてもらう』
彼女は物静かに、けれどハッキリと、プレイヤーたちに宣戦を布告するのだ。




