ナンパ S.ヒノワ
宇佐神さん――こちらの世界ではミカさんと呼ぼう――は、アルミラちゃんへのアタックに見事失敗、肩を落として歩き去っていった。
私はアルミラちゃんに見つからないようミカさんと合流、砂浜の端っこの岩陰に隠れて作戦会議を開始する。
「……なにがよくなかったのでしょうか」
「い、言い方とか、言葉の選び方とか、かなぁ……?」
「喋り方などの練習はしてきたのですが……どうも人との交流は不得意で……」
「私もそっち側なのでわかる……けど、このままだといつまで経っても仲直りできないし……」
私はアルミラちゃんデザインのちょっといかがわしいデザインの水着、その腰の紐を指でくるくる弄りながら頭を抱えた。海に来れば上手くいくような気がしたんだけどなぁ。
ミカさんもそのつもりで来たのだろうに、まさかこうも上手くいかないとは思わなかったのだろう。眼鏡を抑えてうつむいた。
「「はぁ……」」
と、ふたり揃ってため息を吐いていたら、
「なにくらーいお顔をしてはりますのん?」
「うわぁ!?」
ぬっと、いきなり背後に知らない人が!?
和洋折衷なデザインの水着に、髪を飾る薔薇のアクセサリー、ミカさんにも見習ってほしいくらいに柔らかな表情をして、私の背中にくっついてくる知らない人。
その頭上に浮かぶプレイヤーネームは、PvEエリアで他のプレイヤーを数多く撃破している『敵対的プレイヤー』を意味した赤色で。
「忌……? 忌……薔薇さん?」
「忌薔薇、やでぇ。ミカさんのお友達の。そんでこの子が……」
目線を下げた忌薔薇さん、私もあわせて下を見る。
露出の少ない白の水着を着た、真っ白い肌の女性が、トカゲみたいに這いつくばっていた。
「死体!?」
「誤解。生存。虫の息」
「……この子がマリークラーラさん。まあマリィさんって呼んだって?」
「よろしく」
「よ、よろしくお願いします。……えっと、ミカさん?」
私が確認すると、ミカさんはこくんと頷く。
「間違いなく、彼女たちは私のフレンドです。友人に誘われて海に来た、ということにしているので……」
「友人役として誘ったと」
納得。私が納得したところで、忌薔薇さんは両腕でがしっと私に抱きついてくるし、マリィさんは怨霊みたいに足首を掴んでくるし。
「ひぃぃ」
「ヒノワさんかぁ、たしか噂の超大型機んとこの操縦者。そんな子がミカさんとなーに悪巧みしてはりますの?」
「解答。求む」
「わ、悪巧みというか……えっと、ミカさん、これ話しちゃってもいいですか?」
「彼女たちになら、構いません」
ということなので。
私のパートナーであるアルミラちゃんとミカさんは姉妹である、ふたりの仲が上手くいってない、改善のため手を貸すことになったのが私、海に来たのも仲直りのため――っと、経緯を説明。
ふたりはふむふむ頷くと、ニコッとミカさんに笑いかける。
「なるほどなぁ。……ミカさん、水臭いやないのー。そういうことならウチらも協力するでー?」
「右に同じく。三人寄らば文殊の知恵」
「忌薔薇……マリィ……ありがとうございます。ヒノワさん、そういうことで良いでしょうか?」
「あ、大丈夫です。ふたりで考えてても打開策は思いつかないだろうし……」
チーム仲直り結成。
「それじゃさっそくウチの考え、お話しますなぁ? こういうのってアニメや漫画に習うのが一番やと思うんよ」
「具体的には、どういう風に?」
「夕暮れの川辺で殴り合い――は、ちょっとオトコノコすぎますしぃ…………ヒロインが不良に襲われとるところに主人公が颯爽登場、ぱぱっと助けて惚れさせる! みたいなんでどうやろ?」
「なるほど!」
それは仲直りじゃなくて少女漫画の恋愛テンプレな気がする。
「……しかし、忌薔薇。そう都合よくアルミラを襲う不良が現れるでしょうか?」
「そこもアニメや漫画にならってなぁ? こういう展開の時って、主人公の恋路を手助けするため、その友人が不良に扮してヒロインにちょっかいをかけるんよ。な、マリィさん?」
「マッチとポンプ」
「で、ウチらがその不良役をやったってもええでー?」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「ええってええってー」
話がとんとんと進み、かくして「不良役の忌薔薇さんたちがアルミラちゃんに絡んでいたところを偶然通りかかったミカさんが救出して姉妹仲改善作戦」が開始される。
アニメや漫画でこの手の展開が上手くいってるの見たことないのだけれど、はじまってしまったものは仕方ない。
まずは第1段階、忌薔薇さんたちがアルミラちゃんに接触するところから。
私とミカさんは人混みに隠れつつ、状況を見守る。アルミラちゃんはタツキちゃんと一緒にサマーベッドに腰掛け、サイドテーブルの上でEDAを組み立てていた。
「海に来てまで機体製作してる……気分転換に来たのに」
「あの子は昔からどこへ行くにもプラモデルの箱を抱えていく子でしたから。遊園地なんかでも乗り物そっちのけで何かを作っていましたし。そしてプラモデル製作の息抜きにプラモデルを組み立てる子でもあります。ふふっ、変わりませんね……」
「やっぱり個性的だなぁ。うらやましい……」
と、平和にロボオタタイムを過ごしていたアルミラちゃんにちょっかいをかけるのは、薔薇のアクセの女と真っ白い女。
顔をサングラスとマスクで隠し、どこから持ってきたのか木刀を引きずって――なんだろうあのテンプレな感じ。
「へいへーい。彼女ー、ウチらとお茶せーへん?」
「おごる。酒」
うわ、いまアルミラちゃんものすごい「は?」って顔をしてた……。
「断る。私は見ての通り忙しいんですよ。この直径3ミリのパーツを等間隔に24個ほど設置しなければならないので……タツキ、そっちの設置は……?」
「ふ、ふぬおおおおおおっ……いま7個めぇ……腕がぷるぷるしてくるぅぅぅっ……」
「む、放熱板の設置かぁ。細かくて大変やからねぇ」
「そうなんですよ……あっ、しまった落とした!? こんな砂地獄であんなちっちゃいパーツ落としたら行方不明になっちゃう!?」
「探索。手伝う。マリィ、目は良いから」
「あ、アルミラさんはあんま動かんといてー? 足元に風を吹かすとパーツ飛んでってまうからなぁ」
……忌薔薇さんたち、EDAのパーツを一緒に探し始めている。
「あった」
「さすがマリィさんやわぁ。地面を這い回ることにかけて並ぶもんなし」
「ふふふ」
「た、助かりました……その放熱板パーツ、結構な高性能品なので高いんですよ」
「これ確かアレやろー? バルチカテクノロジーズ製のハロードヌィTYPE4放熱フィン。マリィさんの機体も使っとったよね?」
「一応は。砂漠や密林、高温環境対策」
「冷却性能を高めとかないと熱でやられますからねぇ」
「ふ、ふぐおおおお!? あ、アルミラー! ちょっと手伝ってー!?」
「あ、ウチが手伝ったるよー」
「助かる! そっちは任せます!」
「それにしても。機体。巨大」
「私の友達が好きでしてね、こういうの。ふふふーん♪」
……いつの間にか忌薔薇さんたちも加わって、夏の浜辺での機体製作は順調に進んでいく。
「話が違うような? ねぇミカさん?」
「……アルミラにまた友達ができました。うれしいです」
「…………ま、まあミカさんがそれでいいのなら」




