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サンアンドムーン S.ヒノワ

 イェソドさんを倒した後、私はアルミラちゃんの指示でクレーター内に散らばった残骸を回収していた。


「対戦モード以外で撃破されると機体がロストするって話はしましたっけ?」


「うん、火星で」


「その際、撃破された機体は残骸のオブジェクトとなってその場に残ります。それに接触すると、その機体に使用されていたパーツや資源アイテムを回収できるんですね」


「それを売ればお金になる、ってコト?」


「そゆこと。……ひひひ、イェソドがこのあたりにいたプレイヤー機をぜんぶふっ飛ばしてくれましたからねぇ。生き残ったのは私たちだけ、残骸漁り放題です! うめぇ!」


《その姿、戦場跡で死体から金目の物を奪う盗賊のごとし》


《死肉を漁る肉食鳥類にも見えますよ……》


《ああ、だから鴉《カラス》……》


 鴉という名に不名誉な意味が付加されてしまいそうだった。


 ともかく残骸からアイテムを回収し尽くして、ティファレトさんの元へ。彼女の機体(ミカエル)は持ち前の炎熱装備で氷を溶かし切っていた。穴だらけになってはいるが、どうやら自力で動けはするみたい。


『ほんと、イェソドの相手は苦手ですわ……と、おかえりなさい、ヒノワさん、アルミラさん。回収作業は終わりましたか?』


「はい」


「バッチリですよ。ついでに敵キャラが落としたルナミスリルも大量です。ひひひ」


『それはよかった。……今回は助けられてしまいましたわね。ありがとうございます』


「いえ、こっちはトドメを持っていっただけですし……」


『謙遜なさらず。ガブリエルのスペル弾幕をしのぎ切るなんて、なかなかできることではありませんよ。……そうそう、これはお礼です、受け取ってくださいな』


「これ?」


 ティファレトさんからアイテムが送られてきたとのメッセージ。メニュー画面から受け取ってみる。


【EMOリアクター『炎陽(えんよう)』を取得しました。ストックします】


「……炎陽?」


 私が首を傾げていると、アルミラちゃんが驚きの声を耳元で。


「炎陽ですって!?」


「うわぁビックリした!? 耳元で怒鳴らないで!? ……なんなの、これ?」


 先に答えたのはコメント欄の有識者。


《炎陽リアクター! リアクターパーツの一種ッス!》


《イイネの変換効率が1万を越える超高出力EMOリアクター! 1基で一般的高性能リアクターの3倍以上のENを生み出せるッスよ!》


《これを使ってEN不足に陥ったら人気不足を嘆くしかないっていうほどの一品!》


《その変換効率と引き換えに発熱量は通常の2倍! 発熱対策があまいEDAだと一瞬でオバヒ! 死!》


《なによりセフィラのナンバー6、ティファレトのミカエルを倒した際の低確率ドロップを狙うしかないっていうレアっぷり! 入手難度の高さが最大の敵!》


《いまんとこゲーム内で4つしか流通してないってくらいッスからね!》


「解説どうも有識者! その炎陽が我が手にってぇことですよ、ヒノワ!」


「す、すごいんだ、よくわからないけど」


「……ティファレト、これあなたを倒した時のドロップパーツでしょう? こんな簡単に渡して良いんですか?」


『ええ。私は私の認めた相手にそれを送ることにしていますの。私の視聴者……じゃなくて劣等種さんたちもそれは理解しています。ゲームシステムでも認められていることですし、あとは受け取る側が了承すればなんの問題もありませんわ』


「ならありがたく受け取っておきましょう。ね、ヒノワ?」


「そ、それならありがたく?」


《炎陽を手に入れちゃったかー》


《あの小型サイズで変換効率1万オーバーは破格だからな。EDAの設計の幅が大きく広がるぞ》


《いいなーいいなー、俺もほしいー》


《がんばってティファレトに認めてもらうんだな!》


《あんな脳筋灼熱格闘機に勝つのムリ~》


 羨ましがられるほどのレアモノなんだ。うれしい。……ん? セフィラもアイテムをドロップする?


「そういえば、さっきイェソドさんを倒した時にもアイテム入手ってシステムメッセージ出てたような」


「マジですか」


《イェソドのガブリエルのドロップアイテム……たぶん触手砲じゃないかな?》


《ハイパーフリーズスペルかもしれんぞ?》


《あの辺はその辺のザコからも入手できるからなぁ。店でも買えるし。ありがたみねえんだよ》


《レアドロップくらいしかめぼしいもんないよな》


《ドロップ率5パーセントだろ確か? キッツ》


 メニュー画面から手持ちアイテムの一覧を表示。リストの下の方に目を通して……、


「……あった、これだ。EMOリアクター『氷輪(ひょうりん)』っていうの」


「ふーん、氷輪ですか…………氷輪リアクター!?」


「うわぁ耳元で怒鳴らないで!?」


《氷輪だと!?》


《まじかよ!?》


《ドロップ率5パーセントだぞ!?》


《一発ツモ!? タンヤオ!? 国士無双!?》


「なんだかアルミラちゃんもコメント欄も大興奮なんだけど……」


《氷輪はイェソド撃破時に低確率でドロップする、炎陽と対をなすリアクターパーツッス》


《変換効率は1万オーバー、サイズも小さめ。この辺は炎陽と同じッスね》


《ただ唯一違うのは発熱量。氷輪の発熱量は『マイナス』なんスよ》


「発熱量がまいなす?」


 有識者の説明を、アルミラちゃんが乗っ取った。


「ふつうのEMOリアクターは起動させると発熱し、機体に熱量を蓄積させるでしょう? ところがこの氷輪は、起動させると機体の熱を奪う」


「起動すると発熱ではなく冷却するリアクター……え、それって冷却装置がいらないってこと? すごいのでは?」


「……それだけならすごい装備に聞こえるんですけどね。このマイナス発熱のリアクターをふつうに使おうとすると、熱を奪われた機体が凍ってしまうんですよ。なんらかの手段で機体を温めないと、リアクターを稼働させただけで凍結状態に陥り機能停止ってことですね」


「マイナス発熱はメリットってわけじゃないんだね?」


「ええ。冷却性能を確保しなければならない通常のリアクターとは逆に、マイナス発熱のリアクターは発熱量を確保しなければならない。そして氷輪は、このマイナス発熱量が極めて高い。まともな構成のEDAに積んだら一瞬で凍ります」


「ひぇぇ……」


「使うにはバカみたいに発熱するEDAにでも搭載するか、もしくは高温の砂漠系エリアで使うか……なんにしろ運用の難しいリアクターってことですね」


「なんとなくわかった。……ん? 『炎陽』と『氷輪』って、対なんだよね?」


「ええ」


「炎陽の発熱と、氷輪のマイナス発熱の数字って」


「……氷輪の方にマイナスがついただけで、同じ数値です」


「……これ、炎陽と氷輪をひとつの機体に搭載したらどうなるの?」


「…………あなたのような勘の良いパートナーは嫌いじゃないです。ひひひひひ! 炎陽と氷輪、同時に搭載したら炎陽のバカ高い発熱量を氷輪のバカ低いマイナス発熱量が相殺! EMOリアクターに起因しての熱暴走(オーバーヒート)も凍結も発生しなくなります!」


《炎陽と氷輪を1機の機体に積み込むの、理論上最強の構成と言われているんだぜ》


《なんで理論上なん?》


《炎陽と氷輪を両方入手したプレイヤーがいないから。入手が難しいからな》


《やろうと思ってもできない、机上の空論ってやつだ》


《……あれ? 炎陽と氷輪を両方入手したプレイヤー、目の前にいませんか?》


《ほんとだ》


《うおー! 日月(にちげつ)リアクターセット! 変換効率2万もアップした! サーバー初!》


《んんwwwwwありえないwwwww》


《とんでもないことになりましたわね!》


「……ひひひ。これでまた注目を浴びそうです! ひひひひひひえへへえへひひ!!」


「アルミラちゃんがちょっとおかしなテンションに!?」


 と、聞くに徹していたティファレトさんが会話に混じる。


「……まさかイェソドの氷輪まで入手しているとは。運も実力のうち、ということにしておきましょうか。私の太陽とイェソドの月、両方の力を駆使し、さらにLDOを盛り上げてくれることを期待しています」


「が、がんばります……」


「……それと! この私との決闘に関してもお忘れなく! いずれ闘争(やり)ますわよ!」


「ひぃぃ」


 そういえば、そのためにティファレトさん手伝ってくれてたんだっけ。あの熱い機体といずれ戦うことになるのかぁ……不安!!!


 ……ところで、ひとつ疑問があるのだけれど。

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― 新着の感想 ―
[一言] マジですか、なんという幸運。 いやしかし、ちょうどアルミラと二人乗りの時に手に入るとは、タイミングさんいい仕事してる。太陽と月、日輪と深月。これは二人の力で手に入れた、ある意味記念のアイテム…
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