月光 S.アルミラ
謎のイイネ数急増加。何が起きたのかの答えを持ってきたのは、ちょっと意外な人物でした。
『聞こえているかな、アルミラくん、ヒノワくん?』
「タクト?」
『タクトさんですか?』
『うん。ゲブラーを撃破してくれたようだね。助かるよ。ちゃんとイイネは届いたようだ』
『あ、ありがとうございます。……イイネが届いた?』
「最後、こちらにイイネが集まったのはあなたの差し金ですか?」
『そうだよ?』
「……イイネを他プレイヤーに送るなんて、どうやって? そんなシステムも装備も実装されていないはず」
『単純な話だよ。いま私の配信を見ている視聴者は2万人ほどいるのだがね。彼らにチームASPの配信に行ってイイネを送ってくれと呼びかけたのさ』
「…………あ、あー! そっちの配信からこっちの配信に流れてきた視聴者が一気にイイネボタンを押して、それでいきなり数百イイネも増加したと!」
『あ、アリなんですかその手段!?』
『ゲームシステムとして可能になっているのだから仕様なのだろう』
人気配信者ともなれば、自分のところの視聴者を動かして特定のプレイヤーにイイネを補給する、なんてことも可能と。しかし2万の視聴者を動かした割に集まったイイネは数百程度? 一瞬悩みましたが、ちょっと考えたら答えが出ました。
配信者は視聴者たちの王様ってわけではありません、言葉ひとつですべての視聴者を操れるわけではない。
だから、配信者が誰かの配信でイイネボタンを押してこいとお願いしたところで、推しの配信から目を離してまでわざわざ従ってくれる人はごく少数。タクトの場合、2万人のうちの数百人を動かすのが限界ってことなのでしょう。
奇跡の種明かしをしたところで、タクトは私たちに要請します。
『つまり、キミたちがゲブラーを落とせたのは私のところの視聴者の支援もあってのもの。よければ彼らに礼を言ってやってほしい』
「私、お礼とか言うキャラじゃないんですけど!」
『ははは、配信中にギャン泣きなんてキャラ崩壊しておいてなにを今更』
「ぎゃああああああああああ見られてたあああああああああああああっ!? 恥ずっ! めっちゃ恥ずっ!? 配信が終わったら動画を消しとかないと!? ああでも動画的に映える戦闘が撮れちゃってるし消すのは惜しいし……うぎゃあああああ!?」
『なんだか掲示板とかでも話題になっているようだよ、キミたち』
「おぎゃあああああああああああああああ!?」
『うぐっ、配信するにはなんか恥ずかしいやり取りしてしまってた気がする……』
《今日の博士たちは表情がコロコロ変わってかわいいなぁ》
《泣き顔でちょっと興奮した》
《この子たち、好きかも……》
「うるさいですよ視聴者どもめええええええっ!?」
『アルミラちゃん、助けてもらったんだからダメだよ、ちゃんとお礼しないと』
顔を抑えてしゃがみこんでいる私の代わりに、ヒノワが視聴者たちに対応してくれました。
『えーと、タクトさんのところから来てくれた皆さん、おかげで助かりました。ありがとう!』
《我らの役割はタッキーのデータから論理的に導かれし高度な戦術によって動く手駒ですからなwww》
《指揮者の指揮に従ってこそなのですなwww》
《例えるならば将棋の歩wwwチェスのポーンwww人生ゲームの火災保険www》
《んんwww火災保険はなんか違う気がしますぞwww》
《あっちから来た視聴者、なんか濃いな……》
『ほら、アルミラちゃんもちゃんとお礼』
「……うぐぅ」
視聴者に反感を持たれても困るし……ぐぬぬ。
「……助かりました、ありがとう」
《ちゃんとお礼が言える子だ》
《えらいっ》
《んんwww良い子なのでこちらのチャンネルもフォローしておきますかなwww》
今日は厄日です、私の仮面がズタボロです。
……けれど、それほど悪い気分ではない、かもしれません。まったく。
『さて、ゲブラーが撃破されたことでマステマの連携が乱れた。あとは残敵を掃討し戦力ゲージを削りきればこちらの勝利だ』
『ごめんなさい、アトラクナクアはもう動けません。最後の一撃でENが尽きちゃいましたし、機体もぼろぼろですし……』
『問題ない。残る敵はわずかだ、キミたちの戦力がなくとも――うわっ!?』
タクトの悲鳴が音声チャットに混じりました。
「どうしました? 機体をコケさせてコンソールに頭でもぶつけましたか」
『いや、違う! これは……!』
焦るタクトの声に私が西へと視線を映せば、彼方より襲い来るEDAが数十機。それはプレイヤーが乗っているはずの機体群。
しかしプレイヤーであるはずの連中は、リブ・キャッスルを守るプレイヤーたちへと攻撃を仕掛けています。
セフィラに味方し、プレイヤーを攻撃するプレイヤー。彼らは俗にこう呼ばれています。
「セフィリスト!?」
見回せば、東西南北すべての方角からセフィリストのEDAが集まってきていました。
そしてその中に、見覚えのある機体が――東の空を飛ぶ、三日月のエンブレムを掲げたEDAの姿が見えたのです。
ミカのファルケディルナ!
「……あの女! こんなタイミングで!」
《えらい数の増援がキタ――――ッ!》
《せっかくゲブラーを落としたってのに!》
《ミカのファルケディルナ、マリークラーラのラスヴェイト、忌薔薇さまの赤異屠……ランカーのセフィリストがゾロゾロ来てるぜ!》
《あれ? これヒノワちゃんヤバくね? アトラクナクアはEN切れで動けないんだろ?》
「あわわ、敵がこっちに来てる……」
そうだ、ヒノワ!
このままだと動けないあの子はなぶり殺し! 救援要請……は、いまの戦況だとどこも余裕がなさそうですし、助けに行けそうなのは、
(……私?)
私が戦って、あの子を助けないと? いま使える機体は、よりにもよってアレしかないのに?
……ええい、友達の! 友達のためなら!
「…………しかたないですねぇまったく! ええと、配信設定からイイネの分配設定を変更、一時的に全てのイイネが私の方に集まるようにして!」
《む!? 博士がなんかしとるぞ!?》
《イイネの分配設定の変更……まさか!?》
《やるんですか!? いまここで!?》
「そうしないとアトラクナクアが危ないのでね! ……まだイイネを送れる方がいたら、少しだけ力を貸してください」
《任せろ! ……つってももうイイネ送っちまったしな》
《フレに頼んで来てもらうか……》
《サブアカウントの方でイイネを送るとしますかなwwwんんwww》
《えっ? えっ? っていうかアルミラさん操縦できるの?》
《アルちゃん博士はソロ時代、自分で作った試験機を自分でテストしてたッスからね》
《戦闘用の機体も持っていましたし。まあ金策の時にちょっと乗って以降は使ってないッスけど》
《なんか乗りたくない理由があるとかで……》
「ええ、ほんと! アレは使いたくないんですけど!」
私はリブ・キャッスルの屋上から飛び降りると、フィギュアモードの『アレ』を手に取り、落下しながら叫ぶのです。
「ライブスタート! ……来なさい忌々しき傑作機! キアロディルナ!」




