双月 S.ヒノワ
ゲブラー撃破後、いきなり現れた敵の増援。エネミーに味方するプレイヤー、セフィリストというらしい。
たくさんのEDAが、動けないアトラクナクアへと攻撃を仕掛けてくる。
『噂の超大型機か! こんなところで立ち往生とはあわれな!』
『好都合だ! セフィラの脅威となるであろうものなど討たせてもらう!』
『関節部を狙わねば装甲が厚いぞ!』
「ど、どうしよう……」
残りのENだとアトラクナクアも鴉も動けない。なにもできない。敵の攻撃でアトラクナクアがどんどん損傷していく。残り耐久値は20%以下。
「ごめんアルミラちゃん、やっぱり壊しちゃうかも……!」
半泣きで謝りそうになった、その時。
『各機へ。超大型機は無視した方が良いかと。動けない敵を相手に弾薬を消費するべきではありません』
聞き覚えのある声が音声チャットに流れた。
『それもそうか』
『いいのか?』
『ま、まああんたほどの人がそう言うのなら……』
『まだバルバラのテルミナートルやタクトのストレージも落とせてないみたいだしな。デカブツ解体に弾とENを使う余裕もないか』
その声に従って、セフィリストたちはアトラクナクアから照準を外し、こちらを無視して進軍していく。助けられた? というか、この声は誰だっけ?
えと、確か、
「ミカ、さん……だったっけ」
かつて私とAS01TAUが敗北したランカー。三日月のエンブレムを肩に描き、大鎌を肩に担ぐ彼女の機体『ファルケディルナ』が、こちらの真正面へと降りてきた。
『……あの子、また新しい機体を作ったのですね』
冷たい印象の声。ともかく、私はとりあえずでお礼を言っておく。
「あ、あの、助かりました。ありがとう」
『む、あなたは確かあの子のパートナーの……ヒノワさん』
「アルミラちゃんとは知り合いなんですか?」
『……まあ、そんなところです。礼をする必要はありませんよ、私は敵拠点を攻略するに最適なアドバイスを味方に対して行っただけですので。それでは失礼しま――――』
ミカさんは話を打ち切って、ファルケディルナがくるりと背を向ける。背中の推進器を稼働させ、黒いウサミミの機体が再び空に戻ろうとした、その寸前。
『そこを動くなミカァ――――ッ!』
「アルミラちゃん!?」
彼女の声が聞こえたと思ったら、1機のEDAが突っ込んできた!
その機体は跳躍し、両手のハンドガンで眼下のファルケディルナに弾丸の雨を浴びせていく。そして自由落下の勢いを乗せての――キック!
『くっ!?』
完全に油断していたのであろうファルケディルナは、もろに蹴りを食らって数十メートルほどふっ飛ばされた。それに変わってアトラクナクアを守るよう真正面に立ったのは、こちらもウサミミっぽい頭部アンテナが特徴的な――白いファルケディルナ?
いや、あちらより細身で身軽そう。肩のエンブレムも『三日月』ではなく『ツノの生えた兎』。両手のハンドガンをくるくると回してから、ビシッと構えてポーズを決めて、『ツノウサギ』の機体は、アルミラちゃんの声で吠えるのだ。
『あなたにアトラクナクアは落とさせません!』
対し、起き上がったファルケディルナはミカさんの冷たい声で敵対者の名前をボソリ。
『キアロディルナ。……アルミラですか。まだ私の作った機体を使ってくれているのですね』
『ちっ! 私がいまだコレを使っていることが……私の機体製作技術がいまだあなたの作品を越えるEDAを作り出せていないのがそんなに嬉しいですかよ!』
『いえ、そういうわけでは』
『余裕ぶって! 不本意ながらこの機体で、あなたを叩き落としちゃりますから!』
叫んで、アルミラちゃんは機体を――キアロディルナを跳躍させた。推進器をふかしながらの大ジャンプ、その跳躍力は標準的なEDAよりもはるかに上。
そして上から敵機を見下ろし、ハンドガンを連射!
ファルケディルナは銃撃を回避し、反撃にガトリングガンを上空へ向ける。回転する銃身から放たれる無数の弾丸、射線上にはキアロディルナ。
『危なっ!』
回避。キアロディルナは、空に見えない壁でもあるかのように宙を蹴ると同時、推進器を稼働させて横方向へと跳んだ。空中での再ジャンプだ。
それを繰り返してしばらく空中を跳ね回ったあと、重力に引かれて着地、そしてすぐさま再跳躍。
《うーむ、久々に見たッスねぇ、アルちゃん博士のバッタ戦術》
《バッタ戦術?》
《バッタみたいにジャンプを繰り返し敵を撹乱しつつ攻撃を仕掛ける、そんな戦い方ッスよ》
《ENを消費するのはジャンプする一瞬だけ、ずっと飛行し続けるよりはるかに低燃費で低空での戦闘が可能ッス。人気のないプレイヤーにもオススメ! まあちょっと扱いが難しいッスけど》
《で、アルちゃん博士のキアロディルナは脚部と推進器を徹底的に強化し高い跳躍力を得た機体》
《まさにバッタするためのEDAッスね。副産物で格闘戦でのキックも強力!》
《あの機体をミカが作ったってのは初めて聞いたッスけど》
視聴者のコメントで知識を得て、争う二機のウサミミ機を見て首を傾げる。
「仲が良いのかな……? いやでも仲良さそうでもないし……」
なんてことを考えている間に、拮抗していた二人の戦いに動きが。
『くっ!? EN切れ!?』
キアロディルナの推進器が沈黙、空中制動が不可能となった機体がバランスを崩して落下していく。
今回の私たちの配信は、もうすでにギリギリまで視聴者からイイネを送ってもらっている。だからキアロディルナはごくわずかなイイネしか集められなかったのだろう、あっという間にEN切れ。
空から落ち、地面に叩きつけられた白ウサギ。その無防備に対して、黒ウサギのカメラアイが輝いた。
『ファルケディルナ、ブースト』
大鎌を振りかぶり、ファルケディルナは一直線。キアロディルナを両断しようと空を進んで――、
『やばっ……!?』
「アルミラちゃん!?」
アルミラちゃんの息を呑む声。しかしその声が悲鳴に変わることはない。
相手を砕く直前で、ファルケディルナは大鎌を寸止めしていた。
『……え?』
『EN切れのようですね、アルミラ。ここまでです』
再び大鎌を肩に担いで、ファルケディルナはキアロディルナに背を向ける。その背中に、アルミラちゃんが叫んだ。
『ま、待ちなさい! 私なんて倒す価値もねえとでも!?』
『いえ、そういうわけでは。……腕を上げましたね、アルミラ』
『くっ!? また嫌味ったらしいセリフを……!』
『そういうわけでもないのですが。ともかく、ここまで。私は戦列に戻ります』
ミカさんはそう言い残し、ファルケディルナに荒野を走らせる。遠ざかっていく”三日月”は、やがて戦いの最前線へと到達し、戦場を荒々しく踊り始めるのだった。
残されたアルミラちゃんは、泣きそうな声で叫ぶ。
『くそっ、くそっ、くそっ! またあの女に負けるなんて……………………!』
けれど、しばらく沈黙したと思ったら、彼女はいつもの声色であっけらかんと話すのだ。
『……………………ま、私は戦闘要員じゃないんで勝てずともしゃーなしですかね。なんにしろアトラクナクアが大破せずに済んでなによりです。あはは』
~今日のEDA~
●キアロディルナ
HP:3200 EN:120
装甲値:900 運動性:110 移動力:7
特殊能力:EMOリアクター(中)
空:不可 陸:S 海:不可 宇:不可 機体サイズ:M
操縦者:アルミラ
●武装
・ハンドガン
攻撃力2800 射程3 弾数24
・キック
攻撃力3200 射程1 EN消費5
操縦者コメント
「ミカが作ったEDA。ムカつくくらいに私向けの良い機体ですよ。……それだけです。評価しなくてもいいです。ごめんやっぱして。ブクマも」




