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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
18年後の世界
54/55

大懇親会(1)

 話は多少前後するが、ボランティア集団協力隊の大懇親会が盛大に開催された。久しぶりに同期の五人が、サルドノ共和国から帰国後十六年ぶりに再会した。


 十六年の歳月の流れはこうも残酷なものかと…さえ思えた。初めて会った時三八歳だった本山茂吉は五六歳となり、あの頃はフサフサだった髪もすっかり薄く白くなっている…。サルドノにいた頃の油が乗った感じはもはや欠片もない。


 一番若い藤木文生も四〇歳となり、かつての若々しさはもうない。ちなみに五人の中では唯一の独身のままである。今はボランティア集団協力隊事務局にて、ボランティア集団協力隊・青年隊員およびシニアボランティアの派遣受付業務と、海外からの職務研修員を受け入れる仕事をしている。


 若葉(健軍)圭子と秋津(佐土原)里子、糸島(金村)カナの三人は、それぞれが結婚して家庭に入り、子育ての毎日を送っている。


「金村…じゃなかった糸島さん、この前、サルドノから新しい研修員が来ましたよ」


「藤木君!」


「何?」


「そんなに改まらなくていいから…。昔のように、カナと呼んでちょうだい!」


 カナは久々の再会に、変にぎこちない藤木に対して、昔と同じように話しかけるように要求した。男と言うのは、こう言うのがうまくできないらしい…。


「その研修員は、日本の算数教育指導法を学ぶために来ていて、名前はロベルト・エルナンデス・カスティージョ・セラヤと言うんだ」


「えっ、何ですって?」


 まさか、今頃になって、その名前を聞く事になろうとは思いもよらなかった。


「知っているも、何も、その名前を忘れるはずがないでしょう! だって、その人は私がボランティア集団協力隊時代に、他の誰よりも時間をかけて、算数を教えた少年だから…」


 こんなことってあるのだろうか…。少なくても、藤木君から名前を聞く瞬間まで、そんな事があったらいいな…と思っていても、実現する事はきっとないだろうと思っていたこと。それが現実となった!


 初めて会った時はまだ十二歳の少年で、かけ算九九もろくに覚えていなくて、それなのに小学五年生の算数進級テストを合格するために分数のかけ算・割り算まで駆け足で教えないといけなくて大変だった。結局、あの時は再試験も合格できずに、ロベルトは結局留年してしまったけど…。


 あれから、ロベルトは誰よりも算数を勉強していた。分からない事があると、よく質問をしに私の所まで来た。時には家まで来る事もあった。家に帰ると、家計を助けるためにアボガドを売って回っていた。そして、教えてくれたお礼と言っては、いつもアボガドをおまけしてくれたっけ…。


 その翌年はロベルトに時間をかけてじっくりと算数指導をすることができたので、問題なく進級テストに合格させる事ができた。それから、フェルナンド先生は授業を理解できない子に対しても、見捨てる事なく個別指導するようになった。何をきっかけにして人が変わるかなんて、案外分からないものである。


 あの時はつらいこともたくさんあったけど、今となっては、全ていい思い出である。

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