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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編2【後半の1年間】
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悔いの残らないように

早いもので、何もかも思い通りに行かずに感情を爆発させてから、もう一年が経っていた。残された任期も四ヶ月足らずとなり、カナは活動の仕上げについて考えていた。

 二月に入ると毎年恒例の全国一斉教員研修が行われた。今までは全国研修がサルドノ国立教育研修センターで行われていた。これの講師は国立教育研修センターの所員が講師を行う。これが第一段階である。


 次にセンターで全国研修を受けたものが県研修の講師をやる。つまり、各県の教育事務所から算数教育のエキスパートが国の研修を受けて、各県で講師を行う。これが第二段階である。


 最後に県研修を受けたものが地区研修の講師をやる。各地区のエキスパートが各地区でそれぞれの学校の教員を前にして講師を行う。これが第三段階である。


 こうやって、三段階で全国全ての教員が研修を受けられるように工夫されていた。一方でこのやり方は時間とお金がかかるし、全国研修で伝えられたことがうまく地方まで伝わらないと言う欠点があった。


 そこで今回からサルドノ国立教育研修センターの講師がサルドノ全国十六県を順番に回って、地方研修の講師に対して直接研修することになる。こうすることで研修センターの職員には負担がかかるが、研修内容がより確実に末端まで伝わることが期待された。


 しかし、地方研修担当者を集めて行われた研修は去年の夏に行われたので、すでに半年以上経っていた。すぐに地区研修が行われていたら、効果がそれなりにあったはずだが、国家予算の都合で半年もブランクがあいてしまったのである。そのせいか、担当者は分数のかけ算や割り算などの高度な内容をうまく教えられなかった。その穴は私が埋めることとなった。


 サンホセ地区にはたまたま私がいるからいいが、隊員のいない他の地区ではこのようなときにどうしたものか。


「隊員がいないと何もできないし、何も変わらない」


と言うのでは困る。時々、ふと「私達のやっていることは底のないバケツで水を汲もうとしているのと、同じぐらい無駄なことをやっているのでは…」と思うことがある。


 それに対して、ある人は

「一滴でもすくえたらそれでいい」

と言う。


 またある人は

「そんなことなら、お金の無駄だから止めてしまえ」

と言う。


 私に言わせてもらえば、どちらも正しくもあり、またどちらも間違っている。でも、双方を納得させるためのいい言葉が見つからなかった。


 善悪だけで物事を判断するのは危険だ。また、日本人の感覚だけで物事を判断するのは危険だ。旧・国際協力事業団時代も含めれば、約半世紀かけて、国際協力事業は少しずつ前進してきたのだ。


 それは現地の人々の「前に進みたい」と言う思いがあってこそだ。それがなければ、どんな援助や支援も必ず失敗するだろう。


 活動を始めて一年半が過ぎ、ようやく現地の人々が何を求めているのかを、落ち着いて考えられるようになった。それが分かった上で、うまく自分の思いや考えを伝えること。それこそが隊員活動をうまく進めていくコツだと、今さらながらに気付いた。


 全国一斉教員研修が終わると、いよいよ新学期が始まる。三ヶ月ぶりに見た子ども達はみんな元気だった。去年は最後の最後でデング熱で倒れ、中途半端に終わってしまった。その分まで「算数オリンピック」に思いをぶつけて、有終の美を飾りたいと強く願った。


「カナ、去年やっていたミニ研修会を今年はやらないの? あれはとてもよかったから、今年もぜひやって欲しい。この前の全国一斉教員研修は内容が多いし、説明が分かりにくかったから、もう一度分かりやすく教えてくれないかな…」


 カンディダ先生、カレン先生、ベレン先生の三人から頼まれたので、またミニ研修会を再開することにした。二月の間は「小数のかけ算」、「小数の割り算」、「分数の足し算」、「分数の引き算」の四回を一回ずつ丁寧に説明した。


 結局、「分数のかけ算」と「分数の引き算」は三月に持ち越しになった。


 始めてみると、またほぼ全員が参加してくれた。スヤパ先生は私のスペイン語での説明があやしくなると、うまいタイミングで入って来て、私の代わりにうまく説明してくれた。本当はスヤパ先生が全部説明したほうが、みんなにとって分かりやすいのではと思ったが、そうでもないらしい。


 私はスペイン語があやしいので、その分、図や絵をたくさん使って説明する。どうやら、それが好評らしい。なるほど、まずは図や絵から入るのか…。これは普段の授業にも十分応用できそうである。そう言った発見も気付くたびに教員達へ伝えた。


 すると、カンディダ先生、カレン先生、ベレン先生の三人の授業内容が少しずつ分かりやすくなってきた。そうか、教員の知識向上も大切だが、それと同じぐらい指導法の向上も大切なんだと改めて気付かされた。


 教員の知識向上にばかり気を取られてすっかり忘れていたが、実は教員の指導法改善もとても大切なことである。私は目からうろこが落ちる思いであった。

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