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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編2【後半の1年間】
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ロベルトの小さな喜び

「カナ、クラセ・アビエルタのおかげでお母さんが初めて学校へ来てくれたよ。そして、『ロベルトは算数が得意になったのね』ってほめてくれたよ。これも今まで丁寧に算数を教えてくれたカナのおかげだよ」


 クラセ・アビエルタが終わった日、いつものようにアボガドを売りに来たロベルトはうれしそうに語っていた。この日はアボガドを買う予定はなかったのに、ロベルトはお礼だと言って、アボガドを三つも置いていった。


 お母さんにほめられたことがよほどうれしかったようである。算数ができずに留年した少年が、「算数が得意になったのね」とほめられたのだから…。


 このことをブランカさんの所へ遊びに行った時に話したら、自分のことのように喜んでくれた。そして、一言


「カナのおかげで一人のサルドノ人の運命が変わったのよ。ロベルトがもしカナと出会わなければ、ロベルトはきっと算数ができなくて、小学校を中退していたでしょうね。算数ができるようになれば、きっと小学校はもちろんのこと、中学校も卒業できるでしょうね。それぐらい算数は進学をする上で大切な教科なのよ」


 ブランカさんがあまりにもほめちぎるものだから、背中がむずむずして仕方なかった。それに恥ずかしくて体が少しだけ熱くなった。でも、こうやって認めてくれる人がいることで、活動に対するやる気が増すから不思議である。


 そこで十月から、活動校の教員と一緒に小さな勉強会をやることに決めた。この話にカンディダ先生、カレン先生、ベレン先生はすぐのってくれた。他の先生達はとりあえず様子見と言ったところである。今回は校長が


「やる気がある人から、新しいことをどんどんやってもらうことはいいことだ」


と珍しく背中を押してくれた。以前なら、「みんなの足並みを揃えてからでないと、新しいことはできないよ」と言っていた校長が態度を変えたのである。これもクラセ・アビエルタ成功の思わぬ余波である。ありがたい話だ。


 活動期間も残り九ヶ月となった。多くの先輩達が言っていたある言葉をふと思い出した。


「最初の一年間は、隊員活動を成功させるための長い長い準備期間だ。たまたまうまくいくこともあっても、多くの場合はうまくいかない。しかし、一年を過ぎるとこれまでやってきたことが、いろんな形で芽生えてくる。そして、急にすくすくと育ち出すのである。そうなったら、しめたものである。あとは芽が大きく育っていくのを、暖かく見守ればいいのである」


 今までこの言葉を何度も聞かされたが、一度も信じることができなかった。しかし、今ならこの言葉を信じることができる。ようやく、みんなに追いつくことができた。そう思わずにはいられなかった。ほんの少しだけだが、肩の荷が軽くなったような気がした。


 十月から試験的に同僚との小さな勉強会を始めた。もともと土曜日は休業日なので、教員が来るかどうか不安であった。しかし、ふたを開けてみると、ほぼ全員が参加してくれた。


 私は「割り算」、「小数」、「分数」、「平面図形」の四つの分野について、毎週一個ずつ説明することにした。どの分野も概ね好評であった。また、どう言う風の吹き回しか、今まであまり私に関心を示さなかった教員も、この勉強会の話だけはしっかりと聞いていた。中には


「どうして、もっと早くこの企画をやってくれなかったのか?」


と言うので、逆に面食らった。


 また、数学が専門のスヤパ先生は、私の説明がうまく伝わらない時に代わりにうまく伝えてくれた。スヤパ先生はもともと数学が専門なので、下手に口出しすると彼女のプライドを傷つけてしまうのではと思い、一定の距離を置いていた。 


 しかし、彼女はそんなことを全く気にしていないようである。それどころか、今まで数学や算数の話をまともにしても、誰も相手してくれなかったので、私みたいに数学や算数が分かる人と、算数について熱く語り合いたかったようである。私はこれまでの引っ込み思案な行動パターンを反省した。

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