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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編1【赴任から最初の一年間】
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祭りの後始末

 そう思ったのも束の間、五月は任地を空けることが多かったせいか、四月にようやく前進し出したかのように見えた現地の教員達がまた逆戻りしているようだった。何十年もやって来たやり方はそんなに急に変えられないことも理解していたが、いざ、目の当たりにするとショックが隠せなかった。


 あれだけ、一生懸命やったとしても、ちょっと手を抜くと全てが台無しになると身をもって感じだ。


 一方で藤木君は八月に任地で算数オリンピックと日本文化紹介を行うために着々と計画を進めている。以前の成功を受けて、任地の有力者と教員の後押しも受けているようである。この差は一体何だろうかと思わずにはいられなかった。


 一言で言えば、細やかなフォローをしたかどうかの差である。彼はアビエカ・カルナバルの準備期間も副委員長をしながらも、きちんと授業観察や仲のいい先生との勉強会をしていた。一方で私はお祭り騒ぎの成功ですっかり油断していた。


 私も負けじと算数オリンピックと日本文化紹介の企画書を作って、サンホセの市長・地区教育事務所長・活動校校長の三者とかけ合ったが、三人とも難色を示した。そのため、話は全く進まなかった。とにかく苦しかった。またしても、活動は停滞してしまった。


 唯一の救いは、この頃ようやく自宅でインターネットができるようになったことである。これまではバスで一時間かけてアソラナスのネット屋まで行って、集団事務所からの連絡を受けていた。本来、どの隊員も自分の任地にあるネット屋で用が足りるようになっていた。


 だが、私の場合、不幸なことに着任一ヶ月後に町で唯一のネット屋がつぶれてしまったのだ。それから、八ヶ月は本当につらかった。本来、入るべき情報がすぐに入らないことほど、つらいことはない。


 さらに運が悪いことに、この時期にレッセソ・デ・アカデミコと呼ばれる学期休みが一週間ほどある。その休みが私の所属しているナコク県だけ休みがずれていたのだ。


 他の隊員がいる県では六月の第二週に学期休みなのに、私のいるナコク県は第四週となっている。そのため、みんなで一緒にエビラック海の孤島へ行って、スキューバダイビングでもやろうかと言う話になっていたのに、それを泣く泣く断らなければいけなかった。


 こう言う時、「集団事務所から呼び出された」などと嘘ついて、ちゃっかり旅行に行く人もいるが、私はそれをやらなかった。こう言う時だからこそ、地道に仕事をするべきだと思ったのだ。もちろん、真面目な藤木君は愚痴一つ言わずに、みんなと休暇の時期が違うと分かっていても黙々と働いていたようである。


 ただでさえ、つい四ヶ月ほど前に精神的に病んで、仕事がほとんどできなかった時があったのだから、今は仕事を休むべきでない。そう自分に言い聞かせた。


 しかし、一度悪い流れがやってくると、それを再びいい流れにするのに、莫大なエネルギーを使う。しかも、周りの風向きも向かい風となれば、なおさらのことである。


 この悪い流れをどうにかして変えるために、六月の第三週に首都で行われる算数隊員の会合で二月から進めて来た活動の成果と問題点をまとめることにした。残念なことに、四月に感染症対策の隊員とコラボして行った啓発劇と算数指導法の講習会を開催できたことをのぞけば、あとは問題点だらけであった。


 やっぱり、お祭り騒ぎはいけない。大切なのは日々の地道な活動にある。いぜんとして、カンディダ先生をのぞけば相変わらずだし、未だに算数の授業観察から活動を広げられずにいる。


 もう一つ、活動校を増やしたものの、交通事情の悪さから月に一度しか行けないので、こちらも活動が進まない。突っ込み所満載である。しかし、現実を直視しないと、展望が開けないことは明らかなので、あえて会合で全てをさらけ出した。


 また、これまで私達を引っ張ってくれた先輩隊員が二年間の任期を終えて帰ることになるので、これまでの二年間を振り返った話も聞けることになっていた。気がつけば、私達もサルドノに来てから一年を迎えようとしていた。折り返し地点を迎え、また先輩隊員と入れ替わりで来る後輩隊員を迎える前に、今一度自分を見つめ直さないといけないと思った。


 もう、これまでのように誰かに頼ってばかりもいられない。むしろ、これからは私達が引っ張っていかないといけない…。そう思うと、気が重い。今こそ、同期だけで腹を割って話し合う必要があると感じた。


 会合の中で正直に現状をさらけ出したところ、多くの先輩隊員や同期がいろいろアドバイスをくれた。


「隊員活動と言うのは、何かをやったからと言って、そこからどんどんうまくいくものではない。むしろ、何かやっても失敗することの方が多い。ただし、それにもめげずに何度も何度もいろいろやっていくことで、それが気付いた時に形になっていくものだと思う」


 言い方こそ違えど、先輩達はみんな同じことを言っていた。私はいまいちピンとこなかったが、もしそうだとすれば、「来年の今頃、私もそう思えたらいいな」と思うのが精一杯であった。


 会合が終わった後は同期だけで集まって、


「もっと、隊員同士のコラボを増やしていこう」


と、四月にやった保健分野との連携を引き合いに出して、柄にもなく熱く語ってみる。しかし、活動を始めて一年が経ち、それぞれが自分の活動を軌道にのせている時期だった。活動が軌道にのり、うまくいっている人にとっては、かえって迷惑な話だったに違いない。


 それに隊員活動と言うのは、それぞれの任地の実態に応じて、それぞれの判断で進めていくべきものである。連携もいいけど、まずは地に足をつけて、地道に活動を進めていくべきではないかと言われた。最もな意見である。


 結局、何一つ答えを見つけることはできなかった。そんな中、一人だけほかの人と違った時期に休暇となったので、一人旅をすることにした。私はエスペランサにいる里子の所を訪ねることにした。


 やはり、同期でタメ年だと気兼ねなく何でも話せるので、楽でよかった。それに職種が違うと、どこか客観的に話が聞けるし、また聞いてもらえるので、それもよかった。

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