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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編1【赴任から最初の一年間】
10/55

アボガド売りの少年(2)


 さらに教員になった後も、組合の活動にばかり明け暮れて、授業そっちのけで連日のストが続く。ロベルトはその犠牲者に思えた。私が何とかしなくては…。意味もなく、気負ってしまう私がいた。気がつくと、長期休暇に入ってからもしばらくはロベルトとの二人だけの勉強会は続いた。


校長が

「休暇中、学校は明けられない」

と言ったので、場所を私の部屋に移して行った。ロベルトは今までの遅れを取り戻すのに必死だったのだ。


 昼過ぎ、ロベルトとの勉強会を終えて、家でぼんやりしていると、ロベルトがアボガドを売りにやって来た。


 彼は学校が終わった後、家計を助けるためにいつもアボガドやマンゴーを売っている。彼の話によれば、家にはまだ小さな弟や妹がたくさんいるため、父と母とロベルトの三人で果物を売って生計を立てているらしい。


 この町にはそんな子ども達がたくさんいる。それでも、ロベルトはまだ学校に行けるからマシな方かもしれない。もっとひどいのになると、学校にも行けずに朝から晩まで働き詰めになる。


 そんな彼がアボガドを売りに家まで来てくれたのである。私は迷うことなくアボガドを買った。一個二ピーラ(約十円)であったので五個買った。下宿先では料理を作ってもらっているので、買う必要は別に無かったのだが、ロベルトを見ると何かをせずにいられなかったのだ。すると、ロベルトは


「いつも、算数を教えてくれてありがとう」


と言って、一個おまけしてくれた。


「そんなことはしなくていいから…」


 もちろん、一度はおまけのアボガドを突き返した。しかし、彼は頑として受け取らなかった。仕方なく、私はおまけも含めた六個のアボガドをもらった。すると、彼は満面の笑みを浮かべて、私の家から去って行った。私はとても複雑な心境になった。


 私はボランティアとしてサルドノに来ている。しかし、私はボランティアでありながら、月に四〇〇ドルの現地生活費をもらっている。ここでは一ドルが一八・八五ピーラと固定されているため、おおざっぱに考えると約二〇ピーラとなるので、約八〇〇〇ピーラをもらって生活していることになる。


 事実上の給料である。ところがこの国の物価は日本の五分の一〜四分の一ぐらいであるため、贅沢をしなければ三〇〇〇〜四〇〇〇ピーラで十分生活できる。


 首都や大都市で暮らしているなら、お金もそれなりに必要となるだろうが、山奥の小さな町ではお金を使う場所がない。お金を使うのはせいぜい食費ぐらいか…。後は交通費であるが、そんなに頻繁に私用で首都まで八時間もかけてバスで行く必要もない。


 そんな訳で何もしなくても、もらったお金の半分は貯金できる。さらに日本の口座に月約五万円が将来の生活積立金が振り込まれる。これは二年間の任期が満了した後、再就職するまでの生活に困らないよう、支給されるお金である。


 もし、ロベルトやこの町の人々がこのことを知ったら、私のことをどう思うだろうか。きっと、もう二度と「遠い国からわざわざやって来てくれた立派なボランティア」として見てくれないだろう。国際援助を食い物にするうす汚い奴に成り下がることは目に見えている。


 しかし、何ももらわずに、このような慈善事業をすることは、とてもじゃないが、ある程度蓄えでもない限り不可能である。


 生活費が支給されるから、ボランティア活動ができるのである。このジレンマは、後に私を少しずつじわじわと苦しめていくことになった。


 あの頃の私はあまりにも若過ぎて、ウブだったのだ。ボランティア集団協力隊に行ったのが、三〇ぐらいの時だったらまた違っただろう。

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