柴崎高尚の証言(一)①
分かった。なるべく詳しく話せば良いんだな。
名前? 俺のか? 柴崎だよ、柴崎高尚。高尚な名前だろう。はは。
時系列? ああ、最初から順を追って話せってことか。
俺? 住所? 都内だよ。大田区。知り合いに誘われて宇和島へやって来た。そいつが大金持ちから別荘の招待を受けたんだ。だからこんなところまでやって来た。
宇和島港からクルーズ船に乗った。
クルーズ船なんて初めてだから、亜由美のやつ「こんな豪華な船で船旅が出来るなんて最高!」と大喜びしていた。ああ、知り合いの名前が亜由美だ。内村亜由美。「豪華ねえ~」なんて喜んでいたが、港を出港して暫くすると「もうダメ。島はまだ?」と船酔いで根を上げてた。
船の名前? なんだったかなあ・・・ニューなんたらという名前だったと思う。調べてくれよ。立派な船だったから直ぐに分かるはずだ。
まあ、良い。亜由美が「気分が悪い」というので、「だから言っただろう。船旅は大変だって。俺、子供の頃に船に乗って、ひどく酔った記憶があるんだ」なんていう話をしながら甲板に出た。海風に当たると酔いが覚めると思った。
暫くすると海面に僅かだか島影が見えて来た。「ほら、見ろよ。島が見える。それに、ほら、あそこ、変な塔みたいなものが見える。だろう?」
俺の声が聞こえたのか、船室から村田のやつが姿を現した。村田? 港で一緒に船に乗り込んだやつだ。何を考えているのか分からない不気味な男さ。
船室で会った時、こんにちは~って亜由美が挨拶したんだ。そしたら、あいつ、パーカーのフードを頭から被って返事もしなかった。他人と係り合いになりたくない様子だった。
どんなやつだったかって?
三十代かな。鼻筋の通ったイケメンだったが、ボクシングでもやっていたのか顔に幾つも傷跡があった。ちょっと、やばいやつに見えたね。あった時から嫌な予感がしていたんだ。こいつとは、いずれやり合うんじゃないかって。それがまさか、あんな形でやり合うことになるなんてね・・・
ん? クルーザーの乗客?
俺と亜由美、それに村田の三人だ。ああ、それに船長がいた。
海風を浴びて、少しは元気が出たようだった。亜由美に聞かれた。「ねえ、どこ? 島なんて見えないわよ。それに塔なんて、何処にあるのよ」ってね。
「あそこだ。ほら、島が見えるだろう。島の真ん中からやや右側の辺りに何か建っているのが見えるだろう?」と指さすと、村田のやつもつられて俺の指さす方向に目を凝らしていた。亜由美同様、村田のやつも目が悪いみたいだった。目を細めて見ていた。
その内、島影が目の前の海面からそそり立つかのように大きくなって行った。襖のように立ち塞がった。亜由美と村田の目にも島が見えたようだった。
「ああ、見えた! 島ね。確かに塔みたいなのが建っている。ねえ、なんだか、先っぽが、ぎざぎざしてない?」そう亜由美が言ったよ。
確かに、屋根の先がぎざぎざしている塔が建っていた。
「蟹みたいだな。茹でると旨そうだ。はは。あんなデカイ蟹、食いきれないけどな」
「あはは。どうやって茹でるのよ?」
「まあな。ドデカイ鍋が要るな」
二人でそんな話をした。
直ぐに港が見えて来た。波を切って進んでいたクルーザーのエンジン音が途絶え、惰性で暫く進んだ。
操舵室から髭面の船長が出て来た。
うん? 船長かい? そうだな~背丈は俺より、頭ひとつ低いが、海の男らしく筋肉質の体をしていたな。真っ黒に日焼けしていて、白い歯が目立っていた。そうそう。宇和島港で声をかけられた時、「俺のことを黒髭と呼んでくれ」と言っていた。髭に白いものが混じっていたが、肌が黒いので黒髭なのだそうだ。
その黒髭が言った。「悪いが、ここからボートに乗り換えてもらうよ」と。
わざわざボートに乗り換えなくても港は目の前だ。「このまま船で行けば良いじゃないか。黒髭のおっさん。ケチケチするなよ」って言うと「ケチケチしている訳じゃない。この前の地震で埠頭の一部が崩壊しているのだ。海底に埠頭の残骸が転がっている。このクルーザーでは危なくて港に近づけない。迂闊に近づくと座礁してしまう。悪いが、ここからはボートに乗り換えてもらう」と有無を言わせない口調で言われた。
そう言われると仕方ない。
「嫌だ。ヒールで大丈夫かしら。海に落ちたりなんかしないよね」って、亜由美のやつは最後まで、そんなこと心配していた。
黒髭は「海に落ちたら拾ってやるよ」と錨を降ろすとボートを海面に降ろした。
先に荷物を積み込んだ。亜由美が持って来た大型のスーツケースを降ろすのに手間取ったよ。荷物を積み終わると「さあ、乗った、乗った」と、先ずは黒髭がボートに乗り移り、最初は亜由美、俺、村田の順でボートに移った。ボートはクルーズ船に固定してあったが、足をかけると、ゆらゆら揺れた。
黒髭がオールを漕いだ。
港は島で最も低地となっている部分にあった。港を挟んで両側は切り立った崖だ。島全体が切り立った崖になっている。ボートで港に向かうと、巨大な鳥の翼に包み込まれるような錯覚に陥った。
「なんだか島に襲われるみたい」と亜由美が怯えた顔で言った。
そう言えば黒髭が言っていた。昔、この島で、海賊とその家族が皆殺しになったと。海賊の横行に手を焼いた時の政権が兵を派遣し、島民を皆殺しにしたという言い伝えがあるそうだ。




