011 至宝を護る為に……
「それでは、これからの方針を改めて伝える」
グリフィスはそう大声を張り上げると、思索に入っていた魔法使い達も我に返り、瞬時に列を整えた。
「まず、レンジ魔法の開発者は、この私、グリフィス・ユーメイルとする」
その発言に僅かに魔法使い達の表情が揺れる。
「父として娘の功績を奪うことには屈辱すら覚えるが、しかし、この領地を治める私が発案し、この領の魔法部隊である諸君らが伝達した方が、よりスムーズに浸透するだろうという、娘サラの言を採用することとする」
発案にサラが関わっていると聞いた魔法使い達に否やはなかった。
むしろ、素直に受け入れてしまったことに、グリフィスの方が複雑な思いを抱いてしまう。
だが、伯爵として一度決めた道を引き返すことは出来ないと、決定事項の宣言を続けた。
「王国への報告も、同様のものとする……その上で、領民に対しても同じように報告を行うが、サラに肯定的な者には真実を告げ、だがその真実が王国に伝わることになれば、サラが不幸になる可能性を伝えよ」
グリフィスの言葉に疑問を呈したのはロンデルである。
「それでは姫様の意向とは違いませんか?」
その指摘に、グリフィスは苦笑するしかなかった。
正しくサラの意向通りにするなら、領民が恨みやすいように真実は伏せるに限る。
最早、伯爵よりもサラに心酔してしまっているロンデルは、そこが彼女の意思に反していると不服を申し立てたのだ。
対して、グリフィスは「ロンデル、お前はこの段階に来て、あれほどの逸材をこのユーメイル伯爵が手放すとでも思っているのか?」と挑発するような言葉を放つ。
その言葉に、ロンデルは目を見張った。
「父として、娘には自分の想像の枠を越える者もいると、しっかり教育せねばならん」
そう言い放ったグリフィスの顔には深い笑みが浮かんでいる。
「まずはこの地で生きることこそが、人々の恨みを受けて犠牲になるより価値があることをわからせる! 二度と己の身に領地の不満を受け止め散ることが領地にとって最良などと思わせぬように、きっちりと外堀を埋めてやる!」
「はっはっは、良いぞ、グリフィス。そうよな、アレはもう我が領の宝となったのだ。なればこそ王国に奪われぬ為にも、手を尽くさねばならんな!」
グリフィスの言葉に、同調したローティスは、現役の頃を思わせる鋭い眼光を放ちながら居並ぶ面々を見渡した。
そうして、ローティスが見渡した皆がやる気に満ちた表情をしているのを確認したところで、執事ウィグルスが口を開く。
「家内の者には私から今回の件を説明しておきます。それと合わせて、姫様が何かお考えになられたことがあれば都度報告を挙げるように通達しておきます」
ウィグルスの言葉を受けたグリフィスは、眉を寄せて頭を掻いた。
それから感情を込めて「その報告は聞きたくもあり、聞きたくなくもあるな」と苦笑する。
直後、部屋全体を震わせるほどの大きな笑いが巻き起こった。




