第十話 VS“異界の門を叩く者”
よりにもよって年末年始に体調を崩し、更新を滞らせてしまいました。
復活まで時間がかかり、申し訳ありません!
前回のあらすじ:
アウターと呼ばれる異界の怪物たちがひしめく城への潜入作戦に成功し、マグナス・ショコラ・グラディウスは、その元凶となる魔女リアンラーの元までたどり着いた。
無理やり例えれば、コウモリの羽を持って空を飛ぶ、巨大な鯱のようなアウター。
そいつの突進を、グラディウスが真っ向から受け止める。
重量級同士での力比べ。
その間にも、羽持ちシャチは大きな顎門を開いて、がじがじとグラディウスにかじりつく。
だが、極めて硬いミスリルゴーレムの体表には、擦り傷一つつきはしない。
逆に羽持ちシャチの、ノコギリみたいな歯の方がボロボロになっていく。
そして、アウターの巨体をつかんで離さないグラディウスが、その真価を発揮する。
バカデカい右手が赤熱を始め、左手は逆に冷却を開始。
〈魔拳将軍の魂〉を合成したグラディウスならではの、属性攻撃。
羽持ちシャチは半身を焼かれ、もう半身を凍てつかされて、悶え苦しんだ。
無理やり例えれば、針金で作った奇怪な前衛的芸術のようなアウター。
もはや生物なのか否かも判然としないが、自我を持つかのように動き回る。
触手のように伸びる八つの針金の先から、怪光線を放って戦う。
ショコラはちょこまかと動いて、その怪光線をかいくぐり、どうにか針金アウターに接近。
手刀と蹴りを鋭く見舞い、針金めいたその体を寸断していく。
果たして効いているのかどうかは未知数だが、少なくともそいつが怪光線を放つ頻度、勢いは激減していった。
無理やり例えれば、巨大な脳みそとイソギンチャクが融合したようなアウター。
その口から絶え間なく溶解液を垂れ流し、吐きかけてくる。
〈武道家〉としての〈レベル〉を上げる前の俺であれば、その範囲攻撃をかわすことは、難しかっただろう。
しかし今の俺は、その口がこっちへ向けられる前に、既に動いてその場にはもういないという、機先を制す歩法を用いて、回避を続ける。
そうしながら、〈大魔道の杖〉を鈍器に滅多打ちにし、同時に呪文を唱えて〈ファイアⅢ〉で攻め立てる。
“異界の門を叩く者”の手駒の中では、最強格のアウター三体を相手に、俺とショコラ、グラディウスはそれぞれを圧倒した。
三体とも撃破するまで、五分とかからなかった。
「おのれ……おのれぃ……っ。いったい何者であるか、貴様ら……」
魔女リアンラーが愕然となって問う。
自分の手駒の強さに、よほどの信頼を置いていたのだろう。
それがあっさりと屠られ、よほどにショックなのだろう。
実際、〈攻略本〉情報によれば、この三体のレベルは22から24。
俺たちでなければ、太刀打ちできなかったに違いない。
『“魔王を討つ者”の名、聞いたことはございませんか?』
ショコラがキメ顔になって答えた。
ふふ。まったく、このお調子者め。
「そうか……! 貴様らがあの……!」
リアンラーが得心顔になって唸る。
そんな彼女に俺は降参を勧めた。
「抵抗を諦め、投降しろ。命まではとらんと、シャロンが約束した」
このリアンラーら、黒の魔女の陣営の者たちは、“魔炎将軍”と協力関係にある。
だが誰一人として、まだ魂まで売っていない。
さすが魔女たちは、この手の契約に慎重なのだ。
まだ人間として引き返せるうちに、引き返すべきだと俺は思う。
そしてシャロンや“善なる魔女王”ロザリンは、戦争の早期終結のためなら、謀反人たちにある程度の慈悲をかけることを確約している。
だが――
「命はとらんだと? 代わりに妾の魔女としての力を全て、封印するというのであろうが!?」
“善なる魔女王”ロザリンは、そういう魔法の使い手なのだという。
「それは妾にとって死にも勝る屈辱! 絶対に降伏などするものかよ!」
リアンラーは覚悟を決めた者特有の、毅然たる態度で言い放った。
同時に、彼女は凄絶なる最期を迎えた。
“異界の門を叩く者”の腹に、突如として風穴が空く。
かと思えば、そこから肉がめくれ、内臓から頭や手足の先へと全身が裏返っていく。
エゲつないほどに、グロテスクな光景だ。
『ふぇぇぇ……』
と、ショコラなどキメ顔はどこへやら、涙目になっている。
風穴を中心に、リアンラーの体全てがついに裏返り、肉でできた輪となった。
“異界の門を叩く者”は命を賭して、己自身を門に変えたのだ。
生涯最後にして最大の魔法を使ったのだ。
そしてその門を通り、強大なるアウターがやってくる。
無理やり例えれば、広がり続ける闇そのもの。
その暗中に、無数の巨大な目玉が浮かんでいる。
「こいつのレベルは33だ! 充分に気をつけろ!」
俺は〈攻略本〉情報を思い返し、警告を叫んだ。
だが言うが早いか、そのアウターは攻撃してきた。
闇とともに来る無数の目玉が、一斉にその瞳を明滅させた。
各個がてんでバラバラに瞬いては消えるように見えて、実際は一定の法則性が存在する。
俺たちが呪文を唱えることで魔法を行使するように、こいつはこの瞳の明滅で魔法を駆使するのである!
〈ファイアⅡ〉、〈フリーズⅡ〉、〈サンダーⅡ〉、〈ストーンⅡ〉、〈ウィンドⅡ〉、〈シェイドⅡ〉、〈パラライズⅡ〉、〈ポイズンⅡ〉、〈ブラインドⅡ〉――等々に相当する、異界の原理で働く魔法が一気に撒き散らされる。
一つ一つはⅡ系止まりの威力だが、このアウターはそれを十六発、一度に放つことができるのが厄介だった。
しかも、状態異常魔法を織り交ぜてくるのが、いやらしい。
『ま、マグナス様っ。ワタシ、体が痺れて気分が悪くて目の前が真っ暗に……!』
その影響をモロに受けたショコラが、泣き言を叫ぶ。
それでいて彼女は、前に出たまま決して退かない。
己の身を盾にし、囮にし、俺に攻撃魔法の集中をさせてくれようとしているのだ。
なんと健気な奴だろうか!
さらには、グラディウスがそのショコラよりも前に躍り出る。
寡黙に、だが頼もしく、その巨体で一つでも多くの攻撃魔法と状態異常魔法を、受け止めようとする。
〈魔法耐性〉に優れたミスリルゴーレムは本来、魔法によるダメージを激減させ、〈バッドステータス〉の大半を寄せ付けない。
しかし、“この世ならざる混沌のもの”が使う魔法は、グラディウスに効果的なダメージを与え、また〈毒〉や〈麻痺〉を引き起こした。
俺たちが使う魔法とは厳密には似て非なる、異界の法則による魔法だからだ。
攻撃魔法により、グラディウスの分厚いはずの肉体がどんどん削り取られていく。
状態異常魔法により、グラディウスの動きがどんどん重く鈍くなっていく。
それでもグラディウスは寡黙に、雄々しく、俺やショコラの盾となって戦ってくれる。
この献身に応えずにいられるものか!
「フラン・イ・レン・エル……」
俺は〈ファイアⅣ〉の呪文を唱える。
と同時に、〈大魔道の杖〉を脇に置く。
そして、魔法の発動媒体を別に用意する。
この右手にはめた、〈魔弾将軍の腕輪〉をだ。
カリコーンからドロップしたこいつは、掛け値なしに世界で唯一つきりの、ランクSSS装備。
その特殊効果はユニーク且つ、多岐に渡る。
内の一つが、魔法の発動媒体として使用した場合、必要〈魔力〉を本来以上に要求され、その分、充填まで時間がかかり、代わりに威力が激増するという効果だ。
ざっくばらんに言ってしまえば、俺がよくやる魔法のヘヴィカスタマイズ――あれのもっと強力な増幅効果を、術者の技量に依ることなく行使できるようになるのだ。
俺は異界の門から溢れ続ける闇へと向けて、右の掌を向ける。
そこから灼熱の爆炎を一直線に、放射する。
闇の中に浮かぶ無数の目玉どもを、片端から焼き払っていく。
発声による言語を持たないアウターは、眼光を激しく明滅させて苦しみ悶えた。
だけではない。
奴の使う異界の魔法が、こちらの世界にはない原理や法則で、金属でできたグラディウスを麻痺させたように、俺の使う魔法は、奴を構成する闇の部分までを焼き尽くしていく。
〈攻略本〉情報によれば、こいつは放っておくと、無尽蔵に門からこちらの世界へと溢れ出る――つまりは〈HP〉も無限に回復させることができる、危険極まるアウターだった。
しかし、時間当たりに奴が回復できる量を、俺の与えるダメージ量が圧倒した。
結果、俺の増幅〈ファイアⅣ〉は、この強大なアウターを討ち滅ぼしたのだった。
『こんなワケワカンナイ魔物も斃してしまわれるなんて、マグナス様! ワタシもうカンドー!』
「戯言はいいからさっさと退散するぞ」
魔女リアンラーが自決した以上、こんな城にはもう用はない。
ショコラの治療やグラディウスの修繕こそが最優先。
俺は遅滞なく〈タウンゲート〉の呪文を唱えた。




