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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第五章  皆が〈命令無視する〉と嘆く将軍編

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第八話  ネビュラのキース

前回のあらすじ:


マグナスが連れてきた、魔法使いの部隊を大絶賛するシャロン。

その部隊は、かつてパウリの海賊商会で戦慣れした、百戦錬磨の集団だった。

 パウリのテーブルには、もう一人座っていた。

 顔色が病的に青白い、二十代半ばの女。

 パウリの片腕、レベル21の〈魔法使い〉、ネビスであった。

 今は酒が入っているせいか、いつもより血色がよくなっている。


 彼女には、魔道火力支援部隊の隊長を、引き受けてもらっているのだが――


「我々はいつまでこんなところにいなくてはならないのですか、マグニャス殿っ」


 ……酒が入っているせいか、わずかに呂律が回っていないな。


「無論、“魔炎将軍”を討つまでだ。事前にそう伝えておいたはずだな?」

「わかっている、わかっているのだが、私はこんな町の空気を一秒たりと吸っていたくはないのだ、マグニャス殿!」


 ……んんん?

 ネビスの言葉の意図がわからない。

 それを俺に訴え、どうしたいのだろうか?

 カジウに帰るための交渉か?


 俺が難しい顔になっていると、パウリが笑いながら説明してくれた。


「悪いね、マグナス殿。彼女は酒が入ると、少しワガママになってしまうんだ」

「ああ。なるほど」


 普段が理路整然とした、聡明な女性であるため、まさかただのワガママだと思わなかった。


「ネビス殿はこの町に、嫌な思い出があるわけか」

「ええ、そうですよ! 頼まれたんじゃなければ、二度と来たくはありませんでしたよ!」


 彼女の、「ネビス」というのはあだ名である。

 本名は「キース」というのだ。

 そして、この魔法都市出身だから、「ネビュラのキース」で「ネビス」になったというあらましだった。


「私はですね、〈魔女〉って奴らが大嫌いなんですよ、マグニャス殿!」


 それをこの町で、声を大にして言わないで欲しい。


「でも、君も魔女なんだろう、ネビス殿?」

「端くれですよ! 落ちこぼれですよ! 小動物を使い魔にできる程度のね!」


 魔法使いとしては、滅多にいない高レベルの彼女だが、魔女としてのレベルは低い。

 要するに、“始まりの魔女”の血を濃く引いていなかったというわけだ。

 片方の才能しかなかったというわけだ。


「私はですね! 魔法使いとしてなら、シャロン先輩にだって引けを取らないんですよ! この国でだって屈指の域なんですよ! でも魔女としてヘナチョコだから評価をされない! 先輩のバカ弟子どもにも侮られる始末なんですよ!」

「わかった。よくわかったから」


 ジョッキを俺の頬へグリグリ押しつけるのをやめてくれ。


「でもおかげでネビスのような優秀な人材を、遥々カジウまでスカウトできたんだけどね」


 パウリはそれが幸運だったとばかりに、酒を舐めながらほくそ笑んだ。


「ふと思ったんだが」

「なんだい、マグナス殿?」

「そんなにこの町が嫌いなら、『ネビュラのキース』というあだ名は、不服じゃないのか?」

「ああ、それはね。彼女はこう見えて、コンプレックスだらけなんだよ。『キース』ってまるで男みたいな名前だろう? それが昔から嫌だったみたいで、僕が『ネビス』なら可愛いじゃないかって名づけたんだけど……この町のことも、ここまで嫌いだったって知ったのは、後の祭りだったのさ」

「わ、私はっ、パウリ様がくださった名前を、とてもとても気に入っておりますっ」


 ネビスが頬を酒精以外の原因で染めて、訴えた。

 惚気るなら、二人きりの時にやって欲しいんだが……。


「ネビス殿の事情はわかった。でもだったら、ものは考えようじゃないか?」


 俺は彼女の説得にかかる。


「君と君の部隊が戦争で活躍し、魔女ではない魔法使いの有用性を証明できたら、この国の価値観に凝り固まった連中に、一泡吹かせてやれるじゃないか。しかも、君と君の部隊が活躍することは、戦争の早期解決につながる。君はそれだけ早くカジウに帰ることができる。これはまさに一石二鳥だろう?」

「な、なるほど! マグニャス殿は口が巧いですねっ。美人の恋人とメイドを両キープしているだけのことはありますっっっ」

「おい。ちょっと表に出ろ」


 さすがの温厚な俺もカチンと来たぞ?


「ははは、楽しいな! よし、今度からマグナス殿と会う時は、ネビスを酔わせてからにしようぜ!」

「面白がるなパウリ!」


 クソ。なんて面倒な主従だろうか。

 しかし、こんな奴らでも、遥々来てくれたのはうれしいのだから、仕方がないな。


    ◇◆◇◆◇


 翌日。

 俺は朝食をとるために、ショコラと宿の食堂へ向かった。

 そこで先客を見つけた。

 パウリとネビスだ。


「おはようございます、マグナス殿。ショコラさん」


 ネビスがわざわざ席を立ち、昨日の酒乱が夢幻だったような、折り目正しい挨拶をしてきた。

 俺もショコラもそれに応える。


「せっかくだし、一緒に食べない?」


 パウリにも勧められて、同席する。

 俺たちの分の皿が、運ばれてくるのを待つことしばし――


「あの……変なことを訊ねるのですが、マグナス殿」

「何かな、ネビス殿?」

「私、酔って変なこと口走ったりしませんでした?」


 憶えてないのかよ。


「いや、特には?」


 女性に恥をかかせる趣味はないので、俺はそら惚けておく。

 横でパウリが堪えきれないように忍び笑いを漏らすが、オイそこ! おまえが部下に恥をかかせてどうする。


「そうですか。ホッとしました。でも――」


 ネビスは一度胸を撫で下ろした後――一転、急に暗い愉悦に溢れた笑顔になると、


「私と私の部隊にご期待くださいね、マグナス殿。私、がんばりますから。一刻も早くこの腐れた町を出ていくためにも。私を嘲った連中に一泡吹かせるためにも」

「た、頼もしいな……」


 俺は引きつり笑顔で応える。


「それで軍師殿。次はどんな作戦で行くのですか?」

「シャロンが了承してくれるかどうかにもかかっているが――“異界の門を叩く者(ケイオスノッカー)”の城を攻めたい」

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