第七話 軍師直轄魔道火力支援部隊
前回のあらすじ:
キマイラの軍勢と戦い、膠着する中、マグナスが用意していた魔法使いの部隊が活躍して勝利!
「なんとお詫びをしたらいいか! そしてお礼を! アンリ! 私たちが戦に勝てたのは、あなたが紹介してくれた〈魔法使い〉部隊のおかげだわ!」
シャロンが盛大な掌返しをした。
“魔獣狂いの軍勢を撃退し、皆で魔法都市に凱旋した直後のことである。
ずっと連敗街道を驀進していたシャロンは、初めて戦に勝つことができて、大喜びであった。
それはもう、抱きついてこんばかりの喜びようで、俺は牽制するのに大変だった。
一方で、真面目な話もしなければならない。
「礼はちゃんと報奨金という形で、彼らに支払っていただきたい。謝罪の方は必要ありません。シャロン、あなたは魔法使いの部隊による火力運用に懐疑的でありながら、俺の進言に耳を傾け、実戦でのテストを許可してくれた」
俺はその彼女の度量、将としての器量を、おためごかし抜きに褒め称えた。
世の人間の、なんと頭の固いことか。
過去の成功例や保守的な意識に凝り固まって、新しい風を取り入れようとしないことか。
そして往々にして、地位や権力の高い人間ほど、その傾向が強い。
彼らに理屈は通じないのだ。提案をされると「生意気だ」と感じ、旧弊を指摘されると「バカにされた」と受けとるのだ。プライドといえば聞こえはいいが、ただの傲慢である。
俺がこの旅を始めて、何度も痛感したことである。
比べてシャロンの、なんと柔軟なことか。
かつて出会ったアラバーナ皇子ヘイダルや、海賊商会のパウリに比べれば、凡庸の域に入るかもしれない。
しかし、救い難い愚物では決してない。
彼女という将軍がいたことが、きっとこのヴィヴェラハラを救うことになるだろう。
『まあ、マグナス様のご提案だったから受け容れたんでしょうけどね。愛の力は偉大ですね』
ショコラ、黙ってなさい。
あと皮肉はやめなさい。
「それとシャロン。彼らの部隊は今後も継続的に運用していくということで、よろしいか?」
「ええ、もちろん! こちらからお願いしたいくらいだわ。もちろん報酬だって――」
「お待ちください、お師様」
上機嫌で契約しようとするシャロンを、冷ややかな声が遮った。
イザベッラである。
ズッチ、ティナといった他の弟子たちも、不服そうな顔をしていた。
「世の中には『余計なお世話』という言葉がございますわン、お師様」
「今日の戦は、魔法使いたちなんかいなくても、勝ってたんだぞ」
「二人に同意」
な、傲慢が邪魔するだろう?
「どこをどう判断したら、魔法使い部隊なしで勝てたというのよ!」
シャロンが弟子たちの不見識を窘め、眉を吊り上げた。
「あの魔法一斉射がなかったら、グリフォン部隊に本陣を強襲されていたでしょ!?」
「でもまだ、ティナのシルバーゴーレム部隊が予備に残っていましたわン」
「地上に降りてきたグリフォンなんて、恐くないんだぞ」
「二人に同意」
「後からならなんとでも言えるわよ!」
シャロンがガミガミと叱る。
でも、これは彼女が正論だ。
にもかかわらず、イザベッラたち三人はまだ不服げにしていたが――
「あ、あの~」
シャロンの高弟たちの残り一人、一番気弱そうなケイトが、まさに「おずおず」という様子で声をかけてきた。
なぜか、俺に。
「……どうした?」
「あ、あの、あのあの、わたし、お礼が言いたくって……」
あきらかに人見知りするタイプのケイトが、勇気を振り絞った様子で訴える。
「お礼? 俺にか? なんの?」
「グラディウスさん、とっても頼もしかったです~。おかげで、わたしの部隊が救われました~。そのお礼を~」
ああ。なるほど。
「いや、礼には及ばない。勝つために必要な措置をとっただけのことだ」
「じゃ、じゃ、じゃあ、次も勝つために、お知恵を貸してください、軍師様~」
頬を真っ赤にしてそれだけ言うと、逃げるようにして駆け去り、シャロンの背中に隠れた。
『メモ、メモ……と。あらあら、まあまあ、アリア様にご報告すべきことがこんなに分厚く』
今すぐそのメモを燃やすからよこしなさいショコラ。
「とにかくです! 今後とも魔法使いの皆さんには、『軍師直轄魔道火力支援部隊』として、参陣していただきます。これは決定よ! いいですね?」
シャロンはそう宣言し、弟子たちに念押しした。
イザベッラたちは返事をしなかった。
ケイトだけが一人、「いいと思います~」と賛成していた。
まだ先が思いやられるな。
それでも俺は、彼女らを勝たせてみせるが。
◇◆◇◆◇
その後、俺とショコラは改めて、遥々ヴィヴェラハラまで駆けつけてくれた魔法使いたちを、ねぎらいに行った。
シャロンが手配し、深夜営業もする広い酒場を貸し切って、飲み食いしてもらっていたのだ。
「皆、よく来てくれた。そして、よくやってくれた。さすがの実力、さすがの実戦慣れ、さすがの呼吸の合った一斉射、全て申し分なかった」
「やめてくださいよ、マグナス様!」
「そうですよ。あんたたった一人にやられた俺たちが、そのあんたに褒められたらムズ痒いってもんです」
「事情は聞きませんが、実力を出せないってのは難儀ですな」
彼らは早や赤ら顔で、俺を取り囲んで、ジョッキを持たせた。
魔法使いといえど、この彼らはお行儀のよい人種ではない。
古黴た書庫にこもって、一日中読書をしているような、一般的な魔法使いたちとは違うのだ。
九つの海を股にかけ、その攻撃魔法を以って海戦に明け暮れる、そんな連中なのである。
そう、かつては海賊商会に属し、今はカジウ海洋警察の一員として贖罪の日々を送る、連中だった。
俺は彼らの乾杯に一、二度つき合った後、酒場の奥の席に向かう。
そこで高い酒をちびちびやっている、頬に傷のある青年と同席する。
「遥々よく来てくれたな、パウリ」
「なに、〈タウンゲート〉を使えば一瞬ですよ」
「相変わらず口の減らない奴だな」
そういう意味で言ったわけじゃないのは、わかっているだろうに。
「では僕も真面目な話を。あんたには返しても返しきれない借りがあるんでね。呼ばれれば、魔王との決戦だって協力しますよ」
「そうか。神霊サイレンもおまえを見直すんじゃないか?」
「あ、それ言う!? そういうこと言っちゃう!? 口が減らないのはどっちだよ!」
いつも人を食ったパウリが、このネタになると覿面に狼狽を見せる。
俺は笑いながらも、改めてパウリと乾杯した。
酒は苦手だが、今日はなぜか楽しく飲めた。




