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第三十六話  目は口ほどにものを言うか

前回のあらすじ:


レイがエルドラと一騎討ちを演じ、圧倒しかけるが――

 俺――〈魔法使い〉マグナスは、呪文を唱えた。


「フラン・イ・レン・エル」


 掲げた杖の先に燃え盛る〈ファイアⅣ〉を顕現させ、撃ち放つ。

 上空目がけて、だ。

 それで天をも焼き焦がすような爆炎が、俺たちの頭上に広がった。


 そして、飛来する五本の矢を、まとめて焼き払った。


 否――焼き払おうとしたが、矢の威力、速度があまりに凄まじく、一本通してしまった。

 レイを狙ったその一本が、前庭に炸裂する。

 そう、弓矢にあるまじき破壊力で地面を爆砕させ、深々と抉りとってしまったのだ。


「わわわっ」


 レイは間一髪のところで跳んで、その爆発範囲から逃れていた。

 俺と旅を続け、様々な経験を積み、危機察知能力や咄嗟の判断力が磨かれた証拠だ。

 自ら受け身をとって、跳ね起きる。


「助けてくださってありがとうございます、マグナス! そして、ごめんなさい! てっきり一騎討ちに横槍入れるつもりかと、びっくりしてました」

「おいおい、俺は魔法使い――合理の徒だぞ? 横槍入れねばならないほど、君の戦いぶりに不安があったら、最初から一騎討ちなぞ勧めんよ」


 そんなことよりもと、俺は振り返ったレイに、〈大魔道の杖〉の先で指し示した。

 城のあちこちから建つ、高い尖塔。

 その一本の屋根上に陣取った、不気味且つ魁偉なる姿を。


 ひどく大ざっぱに分類すれば、人型のモンスターである。

 ただし、弓を構える左腕は異常に太く大きく、逆に矢をつがえる右腕は五本も存在している。


「あ、あれは……ま、まさか……っ」

「そのまさかだ」

「“魔弾将軍”カリコーン!」


 最高峰ボスモンスターの登場に、敵も味方も騒然となった。

 前庭に集まった一同の、そんな様子を“魔弾将軍”は睥睨しながら、


「おうおう、よくぞ迎撃してみせたものよ! よくぞかわしきったものよ!」


 遥か高所からもよく通る声で、まさしく高笑いしてみせる。

 

 跳び上がって喜んだのはエルドラである。


「助太刀感謝いたします、カリコーン様!」


 レイにボロクソにやられ、ひっくり返っていた奴が、俄然勢いづいた。


「待って、エルドラ! 一騎討ちって約束でしょ!?」

「甘えたことを抜かすなよ、レイ。戦場に約束もクソもあるか。おまえの脳ミソお花畑か?」

「君って奴はどこまでも卑怯者だね!」


 温厚なレイがこれには怒り心頭で、再びエルドラと斬り結ぶ。


 一方、俺は尖塔の上に陣取る、“魔弾将軍”とにらみ合っていた。


「デルベンブロ……ジャムイタン……バーラック……立て続けに破ってきたそうだな?」

「然りだ」

「ふはは、この私の魔弓を前にして、その豪胆なる態度。見事なものよな! “魔王を討つ者”……か。貴様が真実、陛下を弑しえるとはとうてい思わん。しかし貴様が真実、強大な魔法使いであることは、疑いようがない!」


 カリコーンは笑っていた。

 喜んでいた。

 望んでも叶わぬ好敵手に巡り合うことができた、武人の如き顔つきとなっていた。

 そして、勇んで五本の矢を弓につがえる。


「ムウラ・ア・ヌー・ア・ベイン・オン・レン・ティルト!」


 俺も素早く呪文を唱える。


 そして同時に、互いへと撃ち放った。

“魔弾将軍”は尖塔の上から、遥か眼下の俺へと五本の矢を。

 俺は前庭から、遥か高所に陣取るカリコーンへ、魔力できた六本の矢を。


 そう、必中効果のある〈マナボルトⅣ〉を、〈大魔道の杖〉の特殊能力で範囲攻撃と変え、カリコーンの五本の魔弾全てを空中迎撃させつつ、本体へも攻撃を見舞ったのだ。


 結果、純然たる魔力でできた漆黒の矢は、五本の魔弾のうち、四本を迎撃した。

 しかし、やはり魔弾の威力が強すぎ、相殺できず、撃ち漏らした一本が、俺を目がけて飛来。


『マグナス様!』


 すかさずショコラが、半ばタックルするように俺の体をさらい、魔弾の爆撃範囲から逃がす。


 一方、俺の〈マナボルトⅣ〉の一本は、カリコーンに直撃し、ダメージを与えることに成功していた。

 が、相手はそもそも〈HP〉量が、人間とは比べ物にならないボスモンスターだ。

 軽傷にすぎないだろう。

 ゆえに互いに撃ち合ったこの初撃は、いいとこ痛み分け。


「魔王様を例外とし、この私と遠距離戦で互角の者がよもやおろうとはな! いや世界は広い! 誠に広い!」


 尖塔の上で、呵々大笑する“魔弾将軍”。


 本当に互角だといいのだがな……。

 俺は自惚れてはいない。

 レイに再三警告した通り、こと戦闘能力に関して、俺たち人類というものは、繊細にできているんだ。

 例えば彼我の〈HP〉量の差一つとっても、殴り殴られ痛み分けを続けていれば、最後に立っているのは魔物(あちら)となる理屈。


「ショコラ、しばらく俺のガードを頼むぞ。魔法に集中したい」

『お任せください!』


 ショコラは毅然と答えつつ、さらに預けておいた〈魔神の壺〉を取り出した。


『出てきてください、グラディウスさん!』


 壺の中に入れて運んでいた、頼もしきミスリルゴーレムの巨体を顕現させた。


「カジウに続き、本当に待たせてしまったな。しかし、おまえの出番だ、グラディウス!」


 レイを鍛えるため、ここまで敢えて用いなかったが。

 ついに“魔弾将軍”との決戦だ。出し惜しみはもはやナシだ。


「ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン!」


 俺の〈サンダーⅣ〉と、カリコーンの魔弾の応酬。

〈大魔道の杖〉の先端から撃ち放たれた電撃が、“魔弾将軍の腹に刺さり、少なくない火傷を負わせる。

 一方、カリコーンが射放った五発の魔弾は、立ちはだかったグラディウスMk-Ⅱが、その頑健な巨体で受け止める。

 極めて硬質なミスリル製のボディに、亀裂の走る音。

 しかし、それだけだ。砕ける音までは聞こえなかった! さすがはバゼルフ謹製の傑作ゴーレムだった!


 頼む、グラディウス。

 苦しいだろうが、耐えてくれ。

 その間に、俺が“魔弾将軍”を討つ!


「シ・ティルト・オン・ヌー・エル!」


 俺は気迫を込めて呪文を唱え、尖塔上のボスモンスターに〈ストーンⅣ〉を見舞う。

 カリコーンも魔弾を連発し、激しい撃ち合いが繰り広げられる。


 俺の頭の中にある、当初の予定表では、ここにレイが加わってくれるはずだった。

 もっと確実性の高い戦いになるはずだった。

 しかし、エルドラという不確定要素に、俺の計算は狂わされた。

 レイは奴との戦いにかかりきりにさせられている。

 ならば俺は、レイ抜きで、“魔弾将軍”を斃すしかない。


 そう腹を括ったのに!

 嗚呼!


 レイがチラリと、俺の方を振り返った。

 エルドラと剣を交え、右に左に目まぐるしく位置を入れ替え、立ち回るその最中で。

 確かにアイコンタクトを送ってきたのだ!

 もう短くない時間をともに旅し、すごし、ともに難敵と戦ってきた俺は、その合図を決して見逃さなかった――

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