第三十五話 エルドラとの死合い(レイ視点)
前回のあらすじ:
エルドラの反乱を鎮圧するため、ベリーを助けるため、レイはマグナスたちとともに城へと馳せ参じ――
「ぜぃ……ぜぃ……ぜぃ……」
城門前にいたモンスターたちを皆殺しにした僕は、肩で息をしていた。
無駄な力みが入りすぎていた証拠だ。
「行きましょう、マグナス。ショコラ。皆さん」
僕は剣を杖にして休む誘惑を振り払い、仲間たちに声をかけた。
せっかく城門を突破できたんだ。
このまま前庭を突っ切って、城内へ雪崩打つべきだ。
そして、僕一人でも別行動をさせてもらって、ベリーを捜しに行きたい。
そう思っていたのに――
「まったく露払いにもならん連中だな!」
呆れ声が聞こえたかと思うと、なんとエルドラの方から、城の玄関口に姿を現した。
取り巻きの若手騎士たちをゾロゾロと引き連れて、前庭へと出てきた。
「レイ! オレの決起をどうやって嗅ぎつけたかは知らんがな。まあ要するに、オレとおまえには、切っても切れない因縁があるのだろうな」
「勝手なことを言うな、エルドラ! 因縁があるとすればそれは、僕たちが〈光の戦士〉に選ばれたっていう、それだけだ! 後のことは全部、君が勝手に企んだことで、僕がその企みを見過ごせない、許せない、ただそれだけのことだ! 運命なんかじゃない、ただの人為だ! 君の悪意が招いた結果だ!」
「フン、まあ別にそれでもいいさ。とにかくオレにとって、おまえは目障りすぎる。ゆえにここでおまえを討つ」
エルドラは剣を構えて、宣言した。
見たこともない、きらびやかな剣だった。
恐らくは城内で略奪した、大公家秘蔵の宝刀とか、そんな類だろう。
「今度こそ決着をつけよう、レイ。そこで提案があるんだが、オレとおまえの一騎討ちと洒落込まないか?」
横柄な口調で、エルドラがそう言った。
僕としては、そりゃ自分の手で懲らしめてやりたい。
でも、それはあくまで僕の私情だ。今はそんな場合じゃないだろう。
そう思っていたのに――
「構わんぞ、レイ。君がそれを望むなら、受けて立つといい」
マグナスがひそめた声を、僕に背後からかけてくれた。
「将軍から借りた兵を三つに分けて、別方向から攻め込ませている。エルドラをここで釘付けにできるなら、悪くない戦況だ」
ベリーが心配で、僕が一人突出していた間に、マグナスは仕込みをすませていたらしい。
さすが冷静というか、抜け目がないというか。
でも、ありがたい!
「わかりました。でしたら、見届けてください」
「ああ。大船に乗ったつもりで、観戦させてもらうよ」
『あんな奴、ブッ飛ばしちゃえですよ、レイ様!』
マグナスやショコラたちに見送られて、僕は単身、前庭の中心部へと進んでいく。
エルドラも取り巻きたちを玄関口に残して、僕の方へと向かってくる。
「この間までと、同じオレだと思うなよ?」
エルドラが肩で風を切りながら、傲慢に告げた。
「ああ。知ってるよ」
惨い手を使って、〈レベル〉が36まで上がったって言いたいんだろ?
そんなのはマグナスから聞いている。
「……強がるなよ。おまえがいったいオレの何を知っていると――」
「エルドラこそ、決闘の時と同じ僕だって思わないでよ?」
「なんだと?」
怪訝そうにするエルドラに、僕は答える代わりに剣を打ち込んだ。
〈ファストムーヴ〉。
一瞬で間合いを詰めて斬りかかる、〈剣士スキル〉だ。
ロレンスさんから会得した技だ。
マグナスのおかげでレベル34になった、今の僕がこれを使えば、本家本元のロレンスさんだって見切るのは難しいだろう、それほどの早業だ。
「ぬう!?」
エルドラはすんでのところで、宝剣で受け弾きながら、刮目した。
「レイ! おまえ、いつの間にこれほど腕を上げた!?」
「お互い見ない間に決まってるでしょ!」
僕は〈ブラッククレイモア〉を、薙ぎ払うように振るう。
エルドラは、僕の初撃を咄嗟に受け弾いた代償に、刀身ごと両腕が跳ね上がり、胴ががら空きになっていたのだ。
そこへすかさず漆黒の大剣を打ち込む。
「クソがああああああああぁっ!」
エルドラは十メートル以上吹き飛んでいくと、庭の石畳の上を何度もバウンドして転げ回る。
決闘の時とは僕のレベルも違えば、使っている武器も違うんだ。
あの時は訓練用の、刃引きした剣だった。
今用いているのは、強力無比の呪いの大剣。
覚悟してくれよ、エルドラ?
「勘違いするなよ、レイ! 今のはただの、オレの油断だ!」
エルドラは跳ね起きると、宝剣を構えて突撃してきた。
「……それさ、逆に恥ずかしくない?」
僕は〈ブラッククレイモア〉を油断なく構え直して、応戦した。
「神霊プロミネンスよ、我に加護を与えよ!」
「ア・ウン・レーナ!」
エルドラは彼の固有魔法で、僕はマグナスから習得した〈練気功〉で、互いに自己バフをかけながら五合、十合と斬り結ぶ。
激しく打ち合いながら、エルドラが調子に乗って話しかけてくる。
「どうした、レイ? 強くなったオレの剣を受けるので、いっぱいいっぱいか?」
……は?
なにそれ? どうやったら、そんな思考にたどり着くの?
「オレがどうして決起したか、知りたいだろう? 普通は訊くもんだろう?」
ああ、そのことか。
「別にどうでもいいよ」
「……は?」
「もうわかったんだ。君はやることなすこと動機が浅い。だから正直、興味ない」
「ンだとレイの分際で生意気なぁ!?」
頭に血を上らせたエルドラが、上段から思いきり宝剣を叩きつけてくる。
僕はそれを冷静に、刀身を横に寝かせて受け止める。
「君こそ、いっぱいいっぱいなんじゃない?」
受け止めたと同時に、右足に〈硬気功〉を漲らせ、痛烈な膝蹴りをお見舞いする。
このカウンターがエルドラの腹にモロに決まって、エルドラは堪らずその場にうずくまり、ゲエゲエと胃の中をぶちまける。
「なんでだ……なんでだ……オレはレベル36だぞ……?」
「そうだね。凄いよね。僕より高いし」
うずくまったまま悶えているエルドラを、僕は剣を構えたまま見下ろし、答えた。
「じゃあ、なんでおまえに通用しねえ!? なんでオレの方がいいようにあしらわれてる!?」
「だって君は、単調に斬りかかってくるだけじゃないか。僕に見様見真似されるのが嫌なのか、スキルさえ使ってこないし」
僕は今までずっと、自分より格上の、しかも人間に比べて暴力的に〈ステータス〉の高い、ボスモンスターとばかり戦ってきたんだ。
奴らはいやらしい特殊能力を山ほど持っていて、僕は常にその対処を心掛けてきたんだ。
わかるよね?
レベルが二つしか違わない相手の、単調な力技も見切れないようなら、僕はとっくに命を落としている。
「ふざけんな! ふざっっっけんな!」
衝撃から回復したエルドラが立ち上がり、剣を振り回してくる。
僕はそれを一つ一つ丁寧に捌き、いなし、〈ファルコンブレード〉でカウンターをとる。
「オレは! オレは光の戦士だぞ!! レベル36だぞ!!」
エルドラが激昂してわめき散らした。
「〈プロミネンスブレード〉!」
出し惜しみしていたスキルを、なりふり構わず叩き込んできた。
恐らくエルドラ専用の、レベル30台で習得できる超高等技。
宝剣の刀身が、まばゆいばかりの烈光を宿し、大上段から縦一文字に振り下ろされる。
僕がバックステップで回避すると、空振りした剣が勢い余って地面を打ち、石畳を焼き融かすほどの熱量を発揮する。
凄まじい威力のスキルだ。
「いいね、それ。こうかな――」
「死ねええええええええええ!」
僕は見様見真似で〈プロミネンスブレード〉。
エルドラも二発目の〈プロミネンスブレード〉。
それが真っ向からぶつかり合い――
エルドラが一方的に後方へと吹き飛んだ。
また地面で何度もバウンドしながら、転げ回るエルドラ。
僕の〈プロミネンスブレード〉の威力の大半は、彼の同スキルの威力で相殺されていたから、その程度の衝撃ですんでいた。
「ごめん、エルドラ。今のは単に武器の差だね」
僕は〈ブラッククレイモア〉がどれだけ優れた武器か、改めて痛感し、マグナスとバゼルフさんに心の中で感謝しながら、エルドラに謝った。
一方、エルドラはひっくり返った体勢のまま、呆然となっていた。
今の〈プロミネンスブレード〉が、彼の切り札なのだろう。
それすら通用しなくて、ショックを受けているのだろう。
「本当にごめん、エルドラ」
僕は容赦なく、剣の柄をにぎり直した。
投降を呼びかけても、無駄だから。
これほどのことをしでかして、エルドラが死罪を免れるわけがないし、エルドラもわかっているから、降参なんか絶対にしないだろう。
だったら――と、僕が歯を食いしばったのと、
フラン・イ・レン・エル――と、マグナスが呪文を唱えたのは、
同時だった。
「どうしてですか、マグナス!?」
僕は思わず、振り返って叫ぶ。
彼が一騎討ちの邪魔をするなんて、そんな卑怯なことをするなんて、とてもじゃないけど、信じられなくて――




