第二十一話 決闘開始(レイ視点)
前回のあらすじ:
ベリーが見事にエルドラを口車に乗せ、レイと決闘することになったが――
僕たち〈光の戦士〉がまだ、四人全員そろって旅をしていた時のことだ。
元騎士見習いだったエルドラは、図抜けて強かった。
戦いの「た」の字も知らない、不甲斐ない僕らに代わって、獅子奮迅の戦いぶりで魔物たちを蹴散らしていた。
そのせいか、〈レベルアップ〉もエルドラが飛び抜けて早かった気がする。
同じ光の戦士といえど、僕たち四人が神霊プロミネンスから授かった力は、バラバラだった。
そして、そもそもエルドラはリーダー向きというか、個人で完結した能力を持っていた。
前衛職として近接能力が高く、さらに強化魔法で自己の〈ステータス〉を増強し、また回復魔法まで使うことができる。
まさに反則的な能力。
魔法が一切使えない僕や、支援向きの能力しかないテレサ、壁役がいないと困るラッドたちとは、大違いだよね……。
そんなエルドラと、僕は決闘しなくちゃいけないことになったんだから、
「なんでかなあ……。なんでこんなことになっちゃったのかなあ……」
って、ぼやきたくなるのも当たり前だよね……。
「いい加減、覚悟をお決めなさい、レイ。男でしょう?」
僕をこの事態に巻き込んだ元凶が、のたまった。
お城の前庭にある閲兵場が、今日のコロシアム代わり。
設置された観覧席のあちこちをベリーが指しながら、
「ほらほら、あそこで父上が見てますわよ? あちらには兄上方。ほら、叔父上たちもほとんどそろってますし、大臣たちや貴族たち、騎士団の主だった者たちの顔ぶれもあります。最強騎士デイン卿もいらっしゃるわ。皆様の前でよいところを見せて、わたくしの騎士に相応しいところを証明してちょうだい、レイ!」
「……恨むからね、ベリー」
僕がジトッとした目を向けると、
「ええ、どうぞ。恨んでくださってけっこうですわ」
ベリーは堂々たる態度で受け止めた。
「レイが晴れて『ベアトリクシーヌの騎士』となった後、ゆっくりと時間をかけて、なってよかったとあなたを喜ばせてあげる自信が、わたくしにはございますもの。恨みなんて、すーぐ忘れてしまうこと請け合いですわ」
返事に困っちゃうような台詞を、臆面もなく言ってのけた。
勝気にもほどがあるけど、ベリーのこういうところ、好きなんだよなあ。
僕は弱いんだよなあ。
「……わかったよ。覚悟決めた」
「それでこそ、わたくしの騎士ですわ!」
ベリーは満面の笑みで褒めてくれた後、
「わたくしも覚悟はできております」
一転、眦をキッと結んだ。
僕と一緒に、決闘場に進み出た。
「よお、レイ。てっきりこのオレに怖気づいて、逃げ出すかと思っていれば、よくぞこの舞台に立てたものだ。そこだけ称賛に値するぞ?」
エルドラは先に来て、中央で待っていた。
彼もまた、二十歳くらいの女の人を伴っていた。
どちらがより「ベアトリクシーヌの騎士」に相応しいかを決める闘いなんだから、女性を守りながら剣を交えるのが筋だってエルドラが主張して、ベリーが認めたんだ。
「まあ、レイ! 聞きまして、あの男の生意気口。あなたも何か言い返して差し上げなさいな」
「そ、そういうの、僕はいいから」
「なるほど。口ではなく剣で語り、あの不遜な男に思い知らせてやる、と。立派ですわね」
「そんなことも言ってないから!」
僕はベリーの軽口にツッコみながら、感心させられていた。
決闘の最中、ベリーにも危険が及ぶかもしれないのに、丸腰の彼女が軽口を叩く。それだけの胆力がある。
決闘場の中央にいた最後の一人、審判役の騎士が改めてルールを説明する。
観覧席のお歴々にも聞こえるような大声で、
「双方の合意の下、決闘には訓練用の刃引きした剣を用います! 降参、あるいはいずれかが戦闘不能になった時点で決着です! また、各々が守るべき貴婦人に、かすり傷一つでもついた時点で敗北が決定します! 如何なる状況からも、貴婦人を守り抜いてこそ騎士! 双方、改めて異存はございませんね!?」
「は、はい!」
「誓ってございませぬ」
「よろしい! ではこれも改めて、大公殿下の御前で誓っていただきます、ベアトリクシーヌ姫! たとえエルドラ卿が、御身のいと尊き肌に傷をつけてしまったとしても、これは決闘のうちのことであり、エルドラ卿に如何なる咎も及ぶことはない! 異存ございませんね!?」
「無論のことですわ! そのような卑怯な振る舞い、誓っていたしません! 父上、兄上、そして、お集まりの皆様におかれましても、よくよくご理解のほどをお願い申し上げますわ!」
ベリーが気丈に宣言をして、観覧席では大公殿下が一同を代表してうなずいた。
「もっとも、わたくしはレイが絶対に守ってくださると、信じておりますけれども」
「責任重大だなあ……」
小声になって気楽に言ってくれるベリーに、僕も小声で返す。緊張で声が震える。
そしてその時、エルドラもまた〈光の号令〉を使って、僕たちにしか聞こえない心の声で話しかけてきた。
“よお、レイ。オレがつれてきた女を見てくれよ”
釣られて僕は、エルドラの背中に隠れている女の人を、まじまじと見つめる。
なんだろう。ドレスは着てるんだけど、貴婦人って感じがしない人だ。
そして、エルドラの陰でひどく震えていた。
“こいつはな、我が伯爵家に仕える侍女だ。可哀想な女でな、病気の両親を支えるため、健気に奉公してくれている。今回も、おまえの剣で害されるかもしれない可能性を、承知の上で決闘に参加してくれた”
“ぼ、僕はそんなひどいことしないよ!”
“ほう。言ったな?”
反射的に答えた僕に、エルドラはニタリと下卑た笑みを浮かべた。
“おまえはこの女を狙わないんだな? オレはこいつを守る必要はないんだな? 自分で言った言葉には責任を持てるよな?”
“…………っ”
“ちなみにこの女には、もし手傷を負ってオレの敗北になろうものなら、クビにすると言ってある。わかるか、レイ? おまえのせいで、病気の両親ともども路頭に迷うかもしれないんだ。もはや花でも売るしか、食いつなぐ道はないだろうな。くく、可哀想な話だよなあ?”
“エルドラ……。君って奴は……どこまで卑怯なんだ!”
僕は強い怒りを抱かずにいられなかった。
普段はそんなこと絶対にできない僕が、にらみつけずにいられなかった。
だけどエルドラは余裕の態度で、小馬鹿にしたような笑みを浮かべたまま、
“言っておくが、オレは遠慮なくお姫様を狙うぜ? それも骨の一本や二本ですませる気はない。オレがその女の騎士になった後のことを考えて、躾けておく必要がある。オレの怖さを体で覚えてもらわなくちゃな”
“…………させないよ”
“あ?”
“させないって言ったんだ! 僕は君を正面から堂々と打ち負かすし、ベリーには毛筋一本ほども傷つけさせない!!”
“……吠えるようになったじゃねえか、レイ”
エルドラが気に食わなそうに、すっと目を細めた。
にらみつけてきた。
でも、もう気おくれなんてしてられるか! 僕だって負けじとにらみ返す。
視線と視線で火花が散り、決闘場のキナクサい臭いが立ち込めていく。
「それでは双方、ご準備を!」
審判役の騎士が、右手を高々と掲げた。
僕は訓練用の剣を両手で構える。
エルドラは右手に剣。左手に盾。
〈鉄の胸当て〉しか装備してない僕と違い、物々しい甲冑姿。
さらには――
「神霊プロミネンスよ、我に加護を与えよ!」
自分自身に強化魔法をかけて、〈ステータス〉を上昇させたり、〈防御力〉や〈回避力〉を高めていく。
それも「準備」のうちに入れていいわけ? って思うけど、もう今さらこの程度の卑怯じゃ、腹も立たないな……!
「準備完了だ、審判殿」
「それでは――決闘開始!」
審判役の騎士が、掲げた右手を振り下ろした。
僕とエルドラは全く同時に、互いに向けて突撃した――
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そして、ついに4章も21話に突入いたしました!!
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