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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第四章  僕に〈命令しないで〉と強がる光の戦士編

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第二十話  売り言葉に買い言葉(レイ視点)

前回のあらすじ:


公女の覚えめでたきを得ようとする卑怯者のエルドラに、しかしベリー姫はレイこそが自分の騎士だと言い放つ。

 エルドラは一瞬、まるで敗北者のような表情になった。

 しかし、すぐに怒りと意地で顔を赤黒く染めると、


「レイ如きに心して対せだと!? できるものかよ!」


 認めてたまるかとばかりに怒鳴り散らした。


「エ、エルドラ卿っ……」

「少しお言葉がすぎますぞっ」


 たちまち取り巻きの若手騎士たちが、主君筋の姫君に対する言葉遣いを窘めた。


 ところがベリーは挑発的な態度のまま、


「まあまあ、言葉遣いなどなんでもかまいませんことよ? どうせわたくしのエルドラ卿への評価は、もう下がりようがないほど底を突いておりますもの」

「ベ、ベリー、もうその辺に……。あんまり煽るのもどうかと思うんだ……」

「レイは黙ってなさい! わたくし、あなたをバカにされて、怒ってるんですのよ!」


 さっき寛容がどうとか聞かなかったことにするとか言ってたじゃーん!

 ――というツッコミは、ベリーにじろりと横目でにらまれて、呑み込んだ。

 

「ハッ! ずいぶんとまた、そいつにご執心のようですな、姫」


 エルドラがまだ赤黒い顔のまま、鼻を鳴らした。


「でも、そんなポッと出の田舎者が『ベアトリクシーヌの騎士』だなどと、誰も認めませんよ? 認められるわけがない!」

「まあまあ、わたくしも舐められたものですわね。そんな政治(けいさん)もできない箱入りだとでも? レイは光の戦士として、“魔弾将軍”を討つのです。道半ばで逃げた誰かさんと違って、国中の賞賛を集めることでしょう。わたくしの騎士に相応しいと、誰もが認めるでしょう」


 反論できないのか、エルドラはギリッと歯軋りをした。


「エ、エルドラ卿」

「どうも雲行きが怪しゅうござるぞ」

「ここは一度退いて、作戦を――」


 取り巻きたちが、不安げな顔でエルドラにとりなした。

 しかし、エルドラはそれらの忠告を突っぱねるようにして、


「取引がございます、ベアトリクシーヌ姫」

「あらあら、公女相手に取引とは、不遜ですこと。でも、よろしいですわ。仰いなさいな」

「大公殿下や諸侯のお歴々の御前で、私とレイが決闘をするご許可を。それでレイが見事な武者働きを見せれば、“魔弾将軍”を討つまでもなく、姫の騎士だと認める方も出てくるでしょう。私は喜んで友の引き立て役となりましょう」

「もし、あなたが勝った時は?」

「その場で私を、姫の騎士にしてくださいませ」


 挑発的な態度を崩さないベリーへ、エルドラは挑戦的な眼差しを向けた。


「いいでしょう! その取引、受けて立ちますわ!」

「僕はいいって言ってないよベリー!?」

「ハハハ、けっこう! この場の一同が証人です。約束、忘れたとは言わせませんからな?」

「だから僕を無視して勝手に決めないでよエルドラ!?」


 僕は二人に向かって全力で抗議したけれど、二人は僕を完全に無視して、決定してしまった。


「そんなバカな……」


 どうして僕がエルドラと決闘なんかしなくちゃいけないのかと、愕然とさせられた。


    ◇◆◇◆◇


 エルドラが取り巻きたちを引きつれ、高笑いしながら去っていく。

 僕の方を一顧だにしない。勝利を確信した態度だ。

 実際、元々が騎士見習いだったエルドラは、僕たち光の戦士の中でも図抜けて強かった。


「恨むよ、ベリー……」


 僕はそう言わずにいられなかった。


「どうしてあんな約束しちゃったのさ? 口車に乗せられちゃったのさ?」

「あらあら、レイもまだわたくしのことがわかってはいませんわね」


 ジト目になった僕に、ベリーは心外とばかりに胸に手を当てた。


「わたくしが口車に乗ったのではありませんわよ? エルドラを乗せたのです」

「……えっ?」

「エルドラが得意げに取引を持ち出した時、まさに我が意を得たりと、内心でほくそ笑んでいましたわ。顔に出さないよう苦労しましたわ」

「……君って割と腹黒だよね」

「宮廷で生きるということは、そういうことですわよ?」


 ベリーは艶然と微笑んだ。

 とても同い年くらいとは思えない、大人びた笑顔だった。


 僕は対照的に憮然となりながら、


「僕なんかを騎士にするって本気? 第一、何も聞いてないんだけど?」

「だって、いきなり言いましたもの」


 ベリーは悪びれもせずに言いきった。


「……どういう風の吹き回し?」

「レイこそが、わたくしの騎士に相応しいと思ったからですわ。ようやく巡り合えた」

「……どの辺が?」

「実はわたくし、光の戦士という輩が嫌いでしたの」


 また恐ろしいことを平然と言い出すベリー。


「神霊プロなんとかに選ばれたのだかなんだか知りませんが、さして努力もせずにいきなり強い力を得て、英雄気取りで城を出立していくレイたちの背中に、わたくしはこっそり舌を出してましたのよ? 『どうか失敗して、ひどい目に遭いますように』って!」

「ホントにひどっ!」

「ええ、ひどい話ですわ。謝罪いたします、レイ。どうか、お許しくださいな」


 ベリーはいきなりしおらしくなると、深々と頭を下げた。

 お姫様が! 平民の僕相手に!

 ベリーは顔を上げると、申し訳なさそうな顔つきのまま、話を続けた。


「わたくしが己の不明に気づいたのは、つい最近のことですわ。レイが城に出戻ってきたと聞いて、どの面下げてと笑って差し上げようと思って、覗きにきたんですの。でも、わたくしが見たのは、この裏庭で独り鍛錬に励むあなたの姿。周りに辛く当たられても決してめげない、ひたむきで精悍な横顔」


 ベリーはそう言って、僕の頬に手を伸ばし、その形を確かめるように撫でた。


「わたくし、一目惚れをするほど安い女ではありませんけど、二目惚れをしてしまう程度には乙女だったみたいですわ」

「えええええええええっ!?」

「まあ、驚くなんてひどい! それを教えてくれたのは、他ならぬあなたですのに」


 ベリーは拗ねるように、僕の頬を軽くつねった。


「そういうわけですの。ご理解いただけたかしら?」

「…………」


 僕はにわかに返事できなかった。

 ここで「はい」と言っちゃうと、彼女の好意を認めてしまうことになるから。

 僕たちの関係が抜き差しならなくなっちゃうから。


「ふふ、まあそこは今はいいですわ」

「ホッ」

「でも決闘には勝ってもらわなくてはなりませんことよ!」

「うわあそうだったあ!」


 僕は思わず頭を抱える。

 でも、ベリーは全く容赦してくれず、腰の両脇に手を当て、のたまった。


「あの不遜な男がぬけぬけと言った台詞は、憶えてますわよね? レイのことを『友』と呼び、『喜んで引き立て役になる』とまでぬかしやがりましたのよ! ああ、悔しい! バカにするにもほどがありますわ!」


 その場で地団駄を踏みかねるほど、いきり立つお姫様。


「だったら、エルドラには道化になってもらいますわ! いい、レイ? このわたくしが公女として、その騎士たるあなたに最初の命令をいたします。絶対に、圧倒的に勝って、あの男に吠え面かかせてやりなさい!」


 最後には無茶な要求とともに、ビシッと僕に指を突きつけてくる。


 断る……わけにはいかないだろう。

 それくらい、僕だってわかる。考えるまでもない。

 ああ、なんでこんなことになっちゃったんだ。

 僕は叫ばずにいられなかった。


「僕に命令しないで!」

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