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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第四章  僕に〈命令しないで〉と強がる光の戦士編

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第十九話  とびきりのいたずら(レイ視点)

前回のあらすじ:


公女ベリーのおかげで、王宮暮らしが楽しくなったレイ。

しかしそこにエルドラが現れ――

「レイ。おまえ、“魔弾将軍”討伐の旅はどうしたんだよ?」

「エルドラ。君は、ポスティアン伯爵の跡取りになったんじゃなかったの?」


 僕とエルドラはお互い、同時に質問した。

 一瞬、気まずい空気が僕たちの間にわだかまる。

 でもすぐに、エルドラが顎をしゃくってみせた。

 僕から先に答えろという、ジェスチャーだ。


 ひどく横柄な仕種だった。

 そりゃエルドラは、元々パーティーを組んでいた時から、強引で周りに指図ばかり出す奴だったけど。でもそれは、戦いに関してズブの素人だった僕たちを、引っ張っていくためのリーダーシップの裏返しだった。

 今は違う。ものすごく傲慢さを感じさせる、ただただ嫌な態度だった。

 人が変わって見えた。


 僕はムッとなりつつも答える。


「旅は続けてるよ。ただ、〈騎士スキル〉を習得したくて、しばらく王宮(ここ)で暮らしてるんだ」

「ハハハ! 何をやってるんだか! 首都(ふりだし)に戻っていたら世話はないな」


 エルドラがせせら笑った。


 僕は、〈タウンゲート〉があるから決して後戻りじゃないと言いたかったけど、がまんした。

 悔しかったけれど……そんなのは所詮、感情の問題だ。

 マグナスの持っている力を、わざわざ吹聴しちゃいけない。

 自分で考えて、そう判断した。


「レイ、おまえは最初から要領の悪い奴だったよ。オレがいなければ、何もできなかったな」


 エルドラの嘲笑が続く。

 周りの若手の騎士たちまで、一斉にお追従笑いをする。


 僕たちが〈光の戦士〉として大公殿下の御前に集まる前、エルドラは騎士見習いだった。

 だから、周りにいる若手の騎士たちの方が、立場は上だったはずだ。

 でもエルドラが、ポスティアン伯爵の一人娘と結婚しちゃったから、今や立場逆転ということなんだろう。


 そんなエルドラが、今度は俺が答える番だとばかりに言った。

 ただし、僕の方なんか見向きもせず、僕の隣にいたベリーに向かって、


「ベアトリクシーヌ姫。今度の狩猟会ですが、我ら一同を随伴にご指名いただけるよう、お願いに参りました」


 エルドラたちは恭しい仕種で一礼した。


 対してベリーは、


「まあ! 抜け駆けご苦労様!」


 と、鼻白んだ態度で皮肉を返す。

 ぎょっとなったエルドラに、さらに畳み掛けるように、


「レイを裏切って伯爵令嬢にすり寄ったお次は、このわたくしですか。さすがエルドラ卿は、他人を出し抜くことだけに関しては一流ですわね」


 ベリーの嘲笑を浴びせられ、エルドラたちの間に動揺が走る。

 僕のことをせせら笑っていた彼らだけど、自分たちが笑いものになる耐性は全くないらしい。


「神霊プロミネンスに選ばれておきながら、私欲のために使命を捨てたエルドラ卿が、よくぞおめおめと顔を出せたものですこと。お父上は口八丁で誤魔化せても、わたくしには通じませんわよ? わたくし、はっきりあなたを軽蔑しておりますの」

「そ、それは誤解でございます、姫! 私は“魔弾将軍”を討つことを諦めたなどと、一言も言っておりませんぞ!」


 言ったじゃん、僕やテレサやラッドの前で!!


 僕は全力でツッコもうとしたけど、エルドラはそれより早く、よく回る舌でいけしゃあしゃあと続けた。


「私はこのレイたちと旅を続け、強力なモンスターどもを討つたびに、痛感したのでございます。これは如何に光の戦士といえども、たった四人で敵う相手ではないと。ゆえに私は権力(ちから)をつけ、今この場にいる彼らのような、私の志に共感してくれる勇者たちを集め、“光の騎士団”を設立せんと奔走しているところなのです!」

「そ、そんなの初耳だよ、エルドラ! 僕たちにはそんな説明しなかったじゃないか!」

「いいや、オレはおまえたちにも、ちゃんと相談を持ちかけたね」


 エルドラはぬけぬけと嘘をついた。


「でもレイ、おまえたちはオレの提案を突っぱねた。光の戦士四人だけで“魔弾将軍”を討てば、褒美も名声も思いのままだと。仲間を増やして手柄をわけてやる必要はないと。おまえたちはそう主張して、国家の大事より目先の欲望に走ったんだ!」

「そんなバカげた話はなかったよ!」


 僕は大声で反論しようとした。

 でも――


「なんと!? それは誠でございますか、エルドラ卿!?」

「ええい、欲の皮の突っ張った奴らよ!」

「唾棄に値いたしますな!」

「エルドラ卿と違い、我ら騎士の力に頼らぬというのならば、貴様は何をしにここにおる?」

「どの面をさげて、我ら騎士の培ってきた技を盗みに来たのか!」

「この痴れ者が!」


 取り巻きの若手騎士たちが一斉にわめいて、騒いで、僕一人の声はかき消されていった。


 僕に対する、耳を塞ぎたくなるような悪罵、痛罵はしばらく続いた。

 僕は歯を食いしばって、その言いがかりに耐えた。

 そんな中、不思議な声が聞こえてくる。


“レイ。レイ。聞こえているだろ? オレだ。エルドラだ”


 エルドラの心の声が、僕の心に直接的に訴えかけているんだ。

 光の戦士でもエルドラだけが持っていた、〈光の号令〉というユニークスキルだ。

 それを使ってエルドラが続ける。


“王宮がおまえみたいな田舎者にとっちゃ、どれだけ場違いか理解したか?”

“か、関係ないでしょ。少なくともベリ――ベアトリクシーヌ姫は関係なく、僕に接してくれている!”


 それが心の支えだと、僕は力強く反論した。

 ところがすると、エルドラは我が意を得たりとばかりに、にんまりして、


“騎士スキルを習得したいんだったな? 一日でも早く会得して、旅を再開できるように、オレが協力してやってもいいぞ? 無論、全力でと約束する”

“……どういう風の吹き回し?”

“おいおい、オレみたいな優しくて友人想いの男をつかまえて、なんて言い草だよ!”

“君みたいに意地汚くて我が身大事な男、僕は生まれて初めて会ったけどね”

“……おまえがいつまでも王宮にいると、目障りなんだよ。だからとっとと出ていけるように協力してやってもいい。ただし――”

“そこまで本音言っておいて、まだ条件ふっかけるつもり!?”

“ただし、おまえからもそこの姫に、とりなしてくれよ。オレが使命を捨てただなんて、誤解も誤解だって説得してくれよ。おまえ、妙に覚えがめでたいみたいだし、可能だろ?”

“よくもそんなゲスいこと、咄嗟に思いつくね、君ってやつは!”


 僕は呆れて言ったが、エルドラは痛痒も感じた様子はなく、交渉を続けた。


“知っているか? ルクスンの公女様はな、一人が一人、側近となる騎士を抱える風習がある。オレは『ベアトリクシーヌの騎士』になりたいんだよ。狙ってるんだよ”

“ええっ!?”


 エルドラがまさかそんな大それたことを考えていたとはと、僕は驚きを禁じ得なかった。

 僕も王宮暮らしを続けて、ちょっとは事情に通じたから、公女様のお抱え騎士制度? 風習? のことは小耳に挟んだ。

 普通は婚約者が、お飾りの騎士になるのが通例。

 それがいない場合は、実力のある騎士がその座に就く。その場合、公女様と男女の仲になっちゃわないように、妻帯者が望ましいらしい。


“だからな、オレは姫にいつまでも嫌われているわけには、いかないんだ”

“そ、そりゃそうだろうけど……”

“悪くない取引だろ? おまえは別に何も失うことなく、騎士スキルを習得できるんだ。ほら、早くしろよ。それともおまえにとって、“魔弾将軍”討伐ってのはその程度の覚悟なのか?”


 エルドラのささやき声が毒のように、僕の胸に注ぎ込まれる。

 じわじわと浸透していく。


“お断りだ!”


 僕はそれを突っぱねた。

 以前のまま僕だったら、きっとよく考えもせず、エルドラの言いなりになっていただろう。

 でも、今の僕は違う。

 僕やエルドラの目先の利益のために、ベリーをだますなんてダメだって、ちゃんと自分で考えて、決断を下すことくらいできる!


“テメエ、自分が何を言ってるのか、理解できてんのか……?”


 たちまちエルドラの形相が歪んだ。


“あらゆる手を使って、王宮にいられなくしてやろうか……?”


 僕に向けて、はっきりとした憎悪を向けてきた。

 なんて卑劣な奴だろうか!

 どこまでも見下げ果てた奴だろうか!


 僕は何か言い返してやろうと思って、でも咄嗟に言葉が出てこない。


 ()()()()()()()()()()()()()()


「言いたいことはそれだけですの?」


 雄々しく腕を組んで、啖呵を切るように。

 僕とエルドラの心の声が聞こえていたわけはないから、未だに罵声を叫んでいた、取り巻き一同に向かって喝破したのだ。


 若手とはいえ騎士ともあろうものたちが、ベリーのその迫力に、気圧されたように押し黙る。


「わたくしは常日頃から、寛容さを心がけておりますわ。同時に、あなたたちの大公家への忠義を疑ったことはありません」

「もちろんです、姫!」

「我々は大公家に全てを捧げる者です、ベアトリクシーヌ姫!」

「ですから今の――私の騎士への罵倒は、聞かなかったことにして差し上げますわ」


「「「え……?」」」


 僕は思わずポカンとなった。

 エルドラも唖然となっていた。

 取り巻きたちも呆然となっていた。


 い、今、ベリーが何かとんでもないことを、するっと口走らなかった!?


「あら? 聞こえませんでしたの?」


 ベリーはほくそ笑みながら、僕の肩を持って言い出した。


「でしたら、改めて言って差し上げますわ。このレイこそが『ベアトリクシーヌの騎士』です。皆、これからは心して対するように。よいですわね?」


 勝気に彼女によく似合う、とびきりのいたずらを成功させたような、そんな笑顔だった。

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大変ありがたいことに2025年は三作品もコミカライズしていただきました。
どちらもぜひご一読&応援してくださるとうれしいです!
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