第十六話 実戦テスト
前回のあらすじ:
レイが強力なスキルをたくさん会得。さらに騎士のスキルを会得するため、マグナスとは一旦別行動に。
「GURURUAAAAAAAAAAA!」
「GOOOOOOOOOOOOOOON!」
「GAAAAO! GAAAAAAAO!」
竹林の中、猛獣どもの咆哮が木霊する。
虎という、本来は遥か東方に生息する生き物だ。
この竹林同様、カジウ海域・バロンボ島では、その姿を見ることができる。
また本来、虎という生き物は群れをなさない。
にもかかわらず今、何十匹という奴らが、次から次へと俺やショコラに襲いかかってくる。
つい先ごろこの島に誕生したボスモンスター、ツインテールタイガーに統率される兵隊どもである。
俺は迫り来る虎どもを、蹴り飛ばして撃退し、拳の一撃で頭蓋を粉砕し、手刀を喉に突き入れて絶命させる。
竹林の中、〈武道家〉として鍛えた肉体を武器に、大立ち回りを演じる。
本来、虎の〈レベル〉は3から8ほど。
しかし、ツインテールタイガーに統率される群れは、ボスの魔力を与えられることで、レベルが12から18に達する。
徒党を組まれると、決して油断ならぬ相手だ。
しかし、俺もただの武道家ではない。
〈ストレングス〉や〈クイックネス〉、〈アジリティ〉などの強化魔法であらかじめ、〈ステータス〉を増強している。
さらにウーリュー派の〈気功〉スキルを駆使し、戦う。
『マグナス様! なんだかきりがございません!』
「よく見ろ。ツインテールタイガーが、群れに回復魔法まで使っている」
『ふぇぇモンスターの分際で小賢しいです……っ』
ショコラは泣き言を言いながらも、襲い来る虎どもを見事に捌いている。
さすがは古代魔法帝国の粋を集めて作った殺戮メイド、その戦いぶりにはまだ余裕が見える。
「余裕があるうちに、攻めに転じるぞ!」
俺は左右移動を繰り返しつつ、〈疾風朧々の長衣〉の特殊効果を用いる。
たちまち虎どもが狼狽する気配が伝わる。
長衣の効果で、奴らには俺の残像がいくつも見えていることだろう。どれを狙えばいいのかわからず、弱っていることだろう。
今までは、多対一の戦いでは、この残像効果はあまり有効ではなかった。
仮に敵が十いれば、俺が九の残像を生んだところで、一人が一人を狙えばすむ話だからだ。
しかし、俺が武道家としての修業を積み、体捌きが各段に鋭くなったことで、一度に生み出せる残像の量も激増した。
虎どもが戸惑っている間に、俺は助走をつけて跳躍する。
奴らの頭上を跳び越し、さらに竹を蹴ってもう一度ジャンプ。
しなりのある竹は、跳躍台に使うのに、ちょうどよい塩梅だった。
俺は竹から竹へと蹴っては跳んでを繰り返し、群れの後方で偉そうにしている、ツインテールタイガーの元へとたどり着く。
なお、〈魔嵐将軍の靴〉を使って空を駆ければ、もっと簡単だろうという話はナシだ。
これはマルムとリャヌー、両商会共同の竹林業を邪魔する、モンスター退治であると同時に、レベル19武道家となった俺の、戦闘力テストでもあるのだから。
『ええい、忌々しい人間めが!』
ツインテールタイガーが、吐き捨てるようにして言った。
猫も百年生きれば化けるというが、こいつは百年生きて化けた虎だ。
人語もしゃべれば、妖しげな魔力を持ち、なんなら簡易な魔法まで使いこなす。
「そういう貴様のその辟易した表情、まさに人間臭いぞ?」
『黙れ! 愚弄するか!』
ツインテールタイガーが激怒し、前肢の鋭い爪で引っかこうとしてくる。
こいつ自身はレベル23のボスモンスターであり、近接戦闘能力は決して侮れない。
俺はその爪を、時にステップワークで回避し、時に〈硬気功〉を宿した素手で受け止め、あるいは〈化勁〉スキルを用いていなす。
武道家として培った技術を駆使して、防御に専念する。
なぜなら攻めは、別の手段があるからだ。
「フラン・イ・レン・エル!」
俺は魔獣の爪牙をいなしながら、呪文を唱えた。
近接距離から〈ファイアⅢ〉をお見舞いした。
回避困難、距離により威力減衰ナシのⅢ系魔法が、ツインテールタイガーを焼く!
「GURUOOOOOOOOOOOOOOOO!?」
化け虎が喉を鳴らして苦しむ。
俺は畳み掛けるように、両手両足に〈気功〉をみなぎらせ、蹴って殴って打ち据える。
ツインテールタイガーは堪らず跳び退り、俺から距離をとった。
俺――〈魔法使い〉マグナスから、奴自ら距離をとったのだ。
「フラン・イ・レン・エル!!」
俺はもう一度、呪文を唱えた。
先ほどよりも集中して、先ほどよりも魔力を練って、Ⅲ系よりも遥かに強力な〈ファイアⅣ〉を、ツインテールタイガーに叩きつけた。
『おのれ、人間めええええええええええええっ』
ツインテールタイガーは断末魔の叫びをあげて斃れた。
統率されていた虎たちは、その結末を見て、俺を見て、恐れおののいて逃げ散っていった。
『お見事でございます、マグナス様!』
「見事かどうかは知らんが、魔法と武術を駆使して戦うテストは、上出来だな」
俺は確かな手応えを感じて言った。
本来、レベル39魔法使いである俺は、元のステータスが高すぎて、武道家のレベルを少々上げたところで、元の数値から微動だにしなかった。
しかし、武道家のレベルも今や19まで成長し、一部のステータス――魔法使いが伸びづらく、武道家がよく伸びる〈力〉や〈生命力〉――には上昇が見られた。
さらには、数値上は現れない魔法と武術のシナジィ。
その有効性はたった今、ツインテールタイガーとの戦いで実証されたばかりだ。
「とはいえ、喜んでばかりもいられない。反面、わかったこともある。武術を駆使し、近接戦闘をしている最中、Ⅳ系魔法に必要なだけの集中力を捻出できない。Ⅲ系が限度だ」
『マグナス様が魔法使いとして存分に真価を発揮なさるためには、やはり誰かに護衛されながらでなくてはならないということでございますね。例えばこのショコラのような誰かに!』
「その通りだ」
鼻息荒く自己アピールをしてくるショコラに、俺は苦笑させられた。
「ともあれ、帰るとしよう。必要なものも得られた」
俺はツインテールタイガーの戦利品である、〈妖虎の牙〉をひろう。
「こいつとノーブルヴァンパイアからドロップした〈呪いの十字架〉、ずっと前にとっておいた〈古代アラバーナ精製ミスリル鉱〉を合成し、バゼルフに武器を打ってもらう」
『レイ様へのお土産でございますね!』
「ああ」
俺はうなずくと、いたずらめかして答えた。
「とっておきの、呪われた武具ができるだろう」
『……えっ?』




