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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第四章  僕に〈命令しないで〉と強がる光の戦士編

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第十四話  信頼の証

前回のあらすじ:


サブクラス習得に希望を見い出すレイに、マグナスはその効率の悪さを諭し、もっと別に道を提示しようとする。

 俺は最後に〈攻略本〉を、テーブルの上に置いた。


「これ……マグナスが暇を見つけては、熱心に読んでいる本ですよね?」

「ああ。ただし、人目は避けるようにしている」

「そういえば、エリスの前では絶対に出しませんでしたよね? 僕の前ではいつも平気で読んでたから、そんな風に考えていたなんて、気づきませんでした」

「本を見られるくらいは、レイなら安心できると思っていたからな」

「人畜無害だと思われてるってことですね……」

「人として美点だと思うがな」


 がっくりと肩を落としたレイを、俺は慰めた。


「それで、この本は……?」

「この〈攻略本〉にはな、魔王を斃すためのありとあらゆる情報が載っている」

「あらゆる……というと実際、どれくらいなんでしょうか……?」

「今まで斃してきたボスモンスターについて、俺は常に詳細な情報を事前に持っていたな?」

「ええ。マグナスのご友人の、ナルサイさんから教わったんですよね?」

「すまない、それも嘘なんだ。いくら学者といえど、あれほど詳細で確実なモンスター知識を有するなんて、あり得ない」

「ええっ!? じゃ、じゃあ、まさか!?」

「そのまさかだ。あれらの情報は全て、この〈攻略本〉から得た知識だ」

「えええっ!? ぼ、僕たちはあの事前情報を元に、対策や作戦を練ってから、戦ってきたんですよ!? それがなかったら、勝てたかどうかも怪しいですよね!?」

「そうだな。もっと〈レベル〉を上げるか、人数がいなければ、勝てなかっただろうな」

「…………っ」

「この〈攻略本〉の凄まじさを、わかってもらえただろうか?」


 俺が確認すると、レイは声を失ったまま、何度も首を縦に振った。


「魔王を討つ俺の旅において、〈攻略本〉はまさに生命線だ。絶対になくすわけにも、奪われるわけにもいかない。だから、おいそれと存在を明かすこともできないんだ」


〈攻略本〉は俺にしか読めない、聖刻文字で書かれている。

 他の人間にとっては無用の長物というわけだ。その価値を理解できないというわけだ。

 それでも、用心に越したことはない。


「じゃあ、なんで僕には教えてくれたんですか?」

「俺のことを信じて欲しいと言ったな? では、俺も君のことを信じるべきだと思ったのだ」


 レイの当然の質問に、俺は彼の目を正面から見て、力強く答えた。


「なっ……!」


 レイは見えない何かに打たれたように、全身を震わせた。


 そのまま固まってしまったレイに、俺はゆっくりと語り聞かせる。


「俺が森羅万象(システム)に通じているのも、〈攻略本〉のおかげだ。先ほどのメイン職業(クラス)とサブ職業(クラス)の話も、君本人より〈光の戦士〉について詳しいのも、全てこの本に載っていた情報だからだ」

「なる……ほど……」

「そして、俺は〈攻略本〉情報を元に、君を短期間で、飛躍的に成長させる方法を考えた。今からサブ職業(クラス)を習得するよりも、遥かに近道をな」

「…………」


 レイはすぐには、返答をしなかった。

 代わりに訊ねる。


「この本、僕も読んでもいいですか」

「ああ。でも、がっかりしないでくれよ?」


 レイは実際に手に取り、本を開いてみて、俺の言葉の意味がわかったようだ。


「あはっ。なんですか、これ。さっぱり読めないや」

「聖刻文字だ。神や神霊たちが使う言語。俺は学院時代に、魔法の神霊ルナシティのことがもっと知りたくて、独自に解読した。……でたらめだと思うか?」

「いいえ」


 ぱらぱらとページをめくり、『世界地図』の項目を眺めていたレイが、かぶりを振った。

 聖刻文字と違って、地図なら誰でも理解できる(併記されている注釈を除いて)。


「この地図、僕の生まれた村ですよね?」

「ああ。キハサ村だな」

「すごいなあ。面白いなあ。こんなのまで載ってるんだ。あは、僕んちもちゃんとある」


 レイは一頻り眺めた後、再びページをめくっていく。


「ねえ、マグナス。ノーブルヴァンパイアを斃した時のこと、憶えてますか?」

「無論、克明に」

「僕、メチャクチャ混乱してましたよね。ひどいものでしたよね」

「初見ならばあんなものだと、言ったはずだが?」

「ええ。マグナスは慌てるなって言ってくれました。だんだんボスモンスター戦に、慣れていけばいいって」

「事実、君は慣れてきた。このところの堂々たる戦いぶりは、仲間として頼もしい限りだ」

「マンティコア戦は、我ながら会心だったと思ってます。事前に、一緒に立てた作戦も含めて」

「そうだな。あれはうまくハマったし、終始冷静に対処できた」

「自分でちゃんと考えて、仲間としっかり相談して、それで上手くいったら、最高の気分ですよね。……エルドラたちとは味わえなかった」

「……そうだな。俺もユージンたちとは味わえなかった」


 レイがほろ苦い顔をしていた。

 もしかしたら俺も、鏡写しのようになっているかもしれない。


 歳も違えば、生まれた国も違う俺とレイが、こんなに短期間で心を通じ合わせることができたのは、同じ傷を胸の中に抱えた者同士だからこそなのかもしれない。

 

〈攻略本〉をめくる、レイの手が止まった。

『世界地図』の項目が終わり、文字だらけのページとなり、めくってもめくっても続いていく、膨大な量の聖刻文字が列記された、ページ群に打ちのめされたように。


「情報はマグナスにもらうとしても、自分でちゃんと考えたかったです。……でも、これだけの分量をマグナスに訳してもらうなんて、現実的じゃないですよね」

「ああ、俺はそう判断した」

「わかりました」


 レイは〈攻略本〉を閉じると、丁寧な手つきで俺の方へと向け直した。


「マグナスを――仲間を信じます。僕に強くなる方法を教えてください」


 その言葉を、俺は待っていた。


「聞いてくれ、レイ。俺は今まで幾人も、優れた〈近接戦スキル〉の使い手を見てきた。だからレイも彼らに会いに行き、その技術を見て学びとるんだ」


 それが今からサブ職業(クラス)を習得するよりも、遥かに効率的な強化法。

 光の戦士の、それもレイのタイプでしかできない手段。


「それらを習得すれば、作戦の幅が広がる。また二人で知恵を絞り、クラウヒル周辺のボスモンスターどもを退治しよう」

「はい、マグナス!」

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