天空の隼と隻眼の妖精 後編
ミキに連れてこられたのは、大人の雰囲気漂うちょっとアンティークな感じのジャズ喫茶であった。
ますますもって昭和なセンスであるなと思いながら悠紗は店内を見回す。
カウンターにはドリップ式のコーヒーメーカーやサイフォン式のコーヒーメーカー、エスプレッソ式など様々な物が置いてあり、実際に使用しているのだろうか、コーヒーミルや焙煎機など多種多様なものが置かれていた。
店の奥にはピアノも置かれている、恐らく夜間にはどこぞのジャズシンガーなどが来て演奏をしてくれるのだろう。
棚には色んなレコードが置かれていてリクエストがあればそれをかけてくれるシステムらしい。店内には落ち着いた感じの曲が流れているが誰のレコードなのかはよく知らない。と言うか悠紗はアニソン以外はよく知らない。
「マスター、彼女になにか飲み物を作ってあげて、私はいつものでいいわ」
ミキがそう言うと白髪のマスターはなにも言わずに作業に取り掛かった。寡黙が売りなんだろうか?
悠紗は一連のやり取りを見ながらゲンナリしている。こいつらはたぶん病気なんだ。昭和病なんだきっと、妾もずっとここにいたらそういう病に侵されてしまうかもしれない。そう思い始めてしまう。アニメを見るにつけて、セル画アニメのほうが味があっていいだの、昔の主題歌の方が耳に残りやすかっただの、今の声優は皆同じような声ばかりで特徴がないだの、最近のラノベアニメは全部同じ設定、同じ展開で飽き飽きしているなどと言いだしてしまいそうだ。
嗚呼、うるせえうるせえうるせえええええ! 今が楽しけりゃいいだろうが! 萌えアニメ最高だぜ! あいつらも言ってただろ? 今が最高って。
「で……話とはなんだ?」
悠紗は出されたコーヒーフロートのアイスを食べながら切り出す。
ミキはテーブルに両肘を突き手の指を組ませるとそこに顎を乗せ悠紗を見つめながら言う。
「あなた……ハヤトのことをどこまで知っているの?」
「どこまでとは?」
「知っているんでしょ? 彼が昔、スイーパーをやっていたってこと」
その話は先程聞いたばかりであるが、悠紗は事情に詳しいかのように頷いて見せる。
「彼は最高のスイーパーだったわ。当時、彼に敵う者なんて一人もいなかった。彼の戦い方は喩えるならそう、天空を翔ける隼のよう。空中でコンボを決められたら相手の負けは確定、本当に美しい技だった」
悠紗は黙ってミキの話に耳を傾けていたのだが、そこまで話すと彼女は俯いて震えだす。
「だけれども、彼は少しずつ変わって行ってしまったわ。仕事を続けるうちに彼のプレイスタイルは変わってしまったの、姿を消す直前には見る影もなかった。地上でガードを固めて相手が飛び込んでくるのを待つ嵌め技ばかり、見るに堪えなかった。華麗な空中技は封印して、まるで翼を捥がれた無惨な一羽の鳥、そうとしか言いようがなかったわ」
最後の方は涙声であった。
なぜこの女は泣いているのだ? わけがわからん、たかが格ゲーのプレイスタイルが変わったくらいで、て言うか空中嵌めから地上嵌めに変えただけだろ、嵌め技には違いねえじゃん。悠紗は最早聞く気も失せていた。
しかしそんなこともお構いなしにミキは話を続ける。
「彼が仲間を裏切ったと言ったのを覚えてる?」
「あ、あぁ……そう言えばそんなことを言っておったな」
最初はそれが気になっていたのだが、結構もうどうでもよくなってきている悠紗であった。
「彼は皆の憧れだったのよ。初めは仲間内で対戦するだけでよかった。それだけでじゅうぶん楽しかったの、でもいつしか変わってしまったわ。彼のプレイに憧れて腕をあげていった仲間達は、まるでそれを誇示するかのように他のプレイヤー達に見せつけるようになったの。私もハヤトもそれが耐えられなかった。ゲームってのはっ! ゲーセンって言うのは自分の力を誇示する場所ではないわっ! 皆がお互いの腕を認め合い、賞賛し、そして同じゲーム好きの仲間同士、友情を育む為の場所なのよっ!!」
魔眼を使い色んなゲーセンを荒らし回って金儲けをしていた悠紗には耳が痛い話である。
「つ、つまりなんだ……皆の憧れであったファルコンが、代名詞とも言える空中技を封印し無様な戦いを見せた上に、突如姿を消したから裏切ったと言いたいわけだな」
「えぇ……そうよ」
要するにあれだ。この女、ファルコンに惚れていたのだな。なにも言わずに自分の前から消えたから拗ねているだけなのだろう。
「で、妾になにをして欲しいのだ?」
「明日の正午、クラブセ〇の新館で待っていると彼に伝えて欲しいの、そこで私はハヤトに決闘を申し込むわ」
「決闘……だと?」
悠紗が眉を顰めるとミキは伝票を持って席を立つ。
「お願いよ、必ず伝えてね」
そう言い残し伝票と一緒に丁度の額の小銭をカウンターに置くと、ミキは背中越しに右手の人差し指と中指を立てて店を出て行った。
それを呆然と見つめていた悠紗であるが、渋~い顔をすると嫌そうな声を出す。
「えぇぇぇぇぇ、やだなぁぁぁぁぁぁ」
なんかすっごいめんどくさいことになりそうなので、関わり合いになりたくない悠紗であった。
翌日
悠紗は朝一番に秋葉原にやってくるとクラブセ〇へと向かう。店内に入ろうとすると店員にジロリと見られるのだが、「今日はUFOキャッチャーをやりにきたのではない」と言い放ち入っていった。
店内の中央、階段部分にある“お客様の声”の掲示板に目を通すと、そこに貼ってある一枚の紙切れ。
X〇Z ―― 格闘ゲームコーナーにて待つ MIKI
いやぁ……これはやばいだろう、色々やばいだろう……
心の中でそう呟き冷や汗をかく悠紗であった。
「いやぁ~乱世乱世、悠紗殿~!」
そう言い手を振りながら現れたのは兄者と弟者であった。
悠紗は一人でこの決闘の見届け人をするのがもの凄く嫌だったので二人を呼び出していたのだ。
「手間を取らせてすまんな二人とも」
「いやいや悠紗殿からの達ての願いとあっては断れないでござるよ、なぁ弟者よ」
「そ、そうでござるな兄者……」
弟者は仮病を使って仕事を休んだなどとは言えなかった。そして誰かに出くわしてしまう前にとっとと家に帰りたいと思った。
そうして三人連れだってエスカレーターを上がって行くと、ミキの姿が見えた。
相変わらずバブリーな恰好をしているのだが、どうも様子がおかしい。なにか必死な形相でガチャガチャとレバーを操作しボタンを叩いている。筐体の上には50円玉の束が高く積まれていた。
―― YOU LOSE ――
音声が響き渡るとミキの敗北が告げられる。Continueの文字が表示されカウントダウンが始まるとミキは50円を投入しYesを押した。
再び対戦が始まる。
最初は順調にミキが押していた。相手が飛び込んでくるところへ小さな攻撃を入れると隙を作り必殺技コンボを決めようとする。しかし繋ぎが悪かった。
その隙に相手はガードを入れてコンボから離脱、画面の端へと下がりガードを固めている。このままタイムアップになればミキの勝ちであるのだが、KOにこだわるミキは相手に飛び掛かっていた。
―― YOU LOSE ――
地面に這いつくばっているのはミキのキャラであった。
対戦相手はまるでミキの思考を読んでいるかのように振る舞う、挑発でもするように攻撃をしたりしなかったり、ガード一辺倒かと思えば焦れてミキが飛び掛かっていったところにコンボを決める。最早手の平の上である。
みるみるうちに積まれていた50円玉は減っていき残り一枚になっていた。
「どうした? 降参かいお姉さん?」
筐体の向こう側から聞こえる声、姿は見えないが確かに聞こえた声であった。
ミキは台に拳を叩きつけて唇を噛む。
「無様だわ……ハヤトに決闘を申し込む前に、こんな無様な負け方をするなんて……これじゃああの人を、隼をもう一度天空に羽ばたかせることなんてできやしないじゃない」
悠紗たちは黙ってその後ろ姿を見つめることしかできなかった。
一滴の涙がボタンの上に落ちたその時……
ミキの肩に置かれる大きな手の感触。
「変わろう」
そう言うとミキを席からどけ、50円玉を投入する。
「ファ……ルコ……ハヤトっ!!」
―― Fight ――
ゴングが鳴り対戦が始まった。
対戦相手がファルコンに変わったことを察すると相手は攻め手に回ってきた。多種多様な技を織り交ぜファルコンのガードを突き崩そうと休む間もなく攻撃を仕掛けてくる。ファルコンは防戦一方であった。
「そんな……あんなに攻撃をされているのに返せないなんて」
「どういうことでござるか?」
ミキの言葉に兄者が問いかける。
「一見相手が有利に見えるかもしれないけれど、格ゲーと言うのは攻撃をむやみやたらにすればいいってものでもないのよ。攻撃をするという事は隙を作るということでもあるの、上級者であれば一瞬のフレーム落ちを狙ってコンボを叩きこむことができるわ」
最早なにを言っているのかわからない。書いている俺もよくわかっていない。まあ雰囲気だけ味わってくれっ!!
つまり相手がガードもおざなりに攻め一辺倒に回っているのに、ファルコンは返すこともできずにガードを固めているだけなのが信じられないと言うのだ。
そこで相手がミスをした。連係ミスである。必殺技が終了した直後の一瞬の隙がチャンスだ。
この隙を突ければ今度はファルコンが攻撃を仕掛ける番であるのだが……動かない。相手との距離感が上手く掴めないようなそんな挙動を見せる、そこでミキは気が付いた。
「ハヤト……あなたまさか……目が」
Round1はファルコンの敗北であった。
「気がついてしまったかいミキ、そうだ……私はあの時、君達と一緒に遊戯している頃から徐々に目が悪くなっていってね、当時、度入りのサングラスと言うものはなかなかなくてね、ドライアイだからコンタクトも付けれない私はこの世界から去ることを決めたんだ」
「そ……そんな……だってハヤト、あなた普通にプレイしていたじゃない、ふつ……」
いや、普通ではなかった。翼を捥がれた隼、地に堕ちたファルコンは地面に這いつくばりながらガードを固め相手の隙を狙う戦い方になった。
目が見えなくとも、音と勘、そしてこれまで培ってきた経験を頼りに戦い続けていたのだ。ボロボロになりながら相手の攻撃を耐えに耐え反撃のチャンスを待つ戦い方で……
「ハヤトっ!」
ミキはファルコンの背中に縋り付くと涙を流して叫んだ。
「ごめんなさいっ! 私はあなたがあの誇り高い戦い方を捨てたのだとばかり思っていた。空中技は隙を生みやすい戦い方だから、それを嫌ってやめたのだとばかり思って、ごめんなさいハヤトっ! ごめんなさい……」
―― Round2 Fight ――
第2ラウンドの開始が告げられる。
「ハヤトっ! お願い負けないで!」
ファルコンは黙ったままプレイを続ける、画面の端でガードしたまま微動だにしない。するとおもむろにサングラスを外し告げた。
「当然だミキ、もう二度ときみを泣かせたりはしないっ!」
叫ぶと別のサングラスを取り出し装着する。
「今のサングラスはしっかりと度も入っていて暗い場所でも見やすいのさっ!」
相手が飛びあがり強キックを入れようとした隙を突くファルコン、空中へと弾き上げるとそのままコンボを決めにかかる。
それはまるで天空を舞う隼の如き連携技、空中コンボが決まりそのままKOが宣告された。
「すまなかったねミキ、もっと早くに本当のことを話しておくべきだった……」
「ううん……もういいのよハヤト。だって……隼は再び天空へと舞い上がったのだもの、もうそれだけでじゅうぶんよ」
涙を流しファルコンの腕にしがみ付くミキ、二人はそのままゲームセンターを去るのであった。
その場に取り残された悠紗達は呆然としながらゲーム画面を見つめていたのだが我に返ると。
「……なんじゃこりゃ……なんじゃこりゃあああああああああああっ!?」
「い、痛いでござるっ! なんで拙者を叩くでござるか悠紗殿ぉぉぉぉおおっ!」
「うるせええええええっ! ばっかじゃねーの!? あいつらばっかじゃねーのっ!! うわああああああんっ!」
悠紗は叫びながらバシバシと兄者を殴った。こんな茶番を見せられたことがなんだか無性に納得いかなかったのだ。そして、弟者はこっそり消えていた。
それから数日後……
ざわざわとざわつく店内、悠紗がボタンを離すとアームが降りて行きプライズをがっちりと掴んだ、かと思いきやするりと抜けて取ることができなかった。ギャラリー達は溜息を吐き解散する。
「珍しいな悠紗、おまえが普通にプレイするなんて」
隣で健登が感心した様子で言った。
「まあな、偶には普通にゲームを楽しもうと思ったのだ」
「それは感心感心。ゲームってのはよ、そうやって自分の腕を磨いて行って、ようやくクリアできたり景品が取れるから楽しいんだよ」
健登のその言葉に悠紗は笑みを浮かべるとボソリと言う。
「まあ、そう言う考え方もあるかもな……」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもない。それより健登、妾の為にあの愛宕と高尾のフィギュアを取っておくれ」
悠紗は健登の手を取るとお目当ての景品の入っている台の前へと引っ張って行く。
「よっしゃ! 俺の腕前しっかり見ておけよっ!! きぃえええええええええっ!!」
「あああっ! ああっ! 馬鹿者っ! もっと右だ右っ!」
「うるせえっ! 台を揺らすんじゃねえっ! ああっ!」
「「あああああああああああああっ!」」
二人の叫び声が店内に響き渡るのであった。
神器の巫女 番外編 天空の隼と隻眼の妖精
おしまい
こんにちは、あぼのんです。
今回の話いかがでしたか? かなり際どいネタだったと思うのですが最近だとわからない人もいるのでしょうか? ワンレンヘアとかわかるかなw まあそんなことは気にしない気にしない。
第四章がかなり精神的に参る話だったので今回とびっきりにふざけてみました。
それにしても、悠紗をメインにした話にする予定が、ファルコンメインの話になってしまいましたねw まあいいでしょう、正月早々筆者は良い気晴らしになりました。
皆さんにも楽しんで頂けてたら幸いです。
第五章はまだ書き始めていません、これからちょくちょく書き始める予定です。
それでは、エンディングテーマにはちゃんとG〇t Wi〇dを流してくださいねw こらああああああああっ!!
あぼのん




