camarada
王立学園
驚いた事にその学園は王城の敷地内に建っていた。キアラがラムに会う為に訪れた場所が騎士団の住む城門。その先に学園が建ち森を挟み城がある。騎士団と離れていて警備は大丈夫なのか不安になるところだが王城には更に強い王直属の騎士が存在しているらしい。そんな広大な土地の中、建つ学園は城と言っても過言がない程に豪奢な建物だった。その中でもキアラが所属する特別クラスは他と少し違っていた。まず驚いたのは生徒数の少なさ。キアラを含め8人、しかも年齢はバラバラで一番年の近い子で7歳だった。つまりキアラが学園での最年少となる。そして次に驚いたのは授業制度だ。年齢の違う者同士集うからか授業は常に自己学習。わからない所は担任の先生に自ら訊くかクラスメイトに訊ねるかしないといけない。元日本人としては協調性が求められる慣れない制度だった。
「おはよいございます、キアラさん」
一歩、食堂に入った途端かけられた声にキアラはパチリと瞬いた。
「ベアトさん」
応える様にテーブルに優雅に腰掛けにこりと笑いかける彼の名を呼ぶ。彼はベアトリーチェ・ハイッツ。名前だと女性を連想するが列記とした男の子だ。年は11歳、 栗色のサラサラした髪に榛色の瞳。顔立ちに特徴はなく整った容姿ながらに地味な印象を抱いてしまう。しかし、表情も眼差しも性格が滲み出ているのか柔らかく傍にいるだけで安心するのだ。
「おはようございます」
トコトコ小さな足で歩み寄れば優しく頭を撫でられた。
「偉いですね、自分一人で制服に着替えたんですか?キアラさんは本当にしっかりしていますね」
「ありがとうございます」
いくら精神年齢が成人を迎えていようと褒められれば嬉しい。キアラはペコリと頭を下げた、その瞬間ふわりと感じた浮遊感にえ?と思うだけでキアラの身体は何も対応出来なかった。
「何時までそうしてるつもりだチビ。間違えて踏み潰すぞ」
低い声と荒々しい口調に直ぐ誰だかわかった。ポスッと降ろされた先は椅子の上で向かいではベアトがにこにこ笑っている。隣に座る気配を感じ、キアラは見上げた。
「ジンさん」
「ほら、適当に取って来た。レーベルのジュースだ」
目の前に置かれたトレーには野菜中心のバランスの取れた朝食が並んでいた。因みにレーベルとは果実の名前で金柑に良く似た外見をしている。ただし、皮は酸っぱくて食べられず剥いて中の赤い果肉を食べるのだ。味は葡萄と桃を混ぜた様なものでさっぱりした甘さがキアラは好きだった
「ありがとうございます」
素直に受け取って礼を言えば、ジンは無言で自身の食事に手をつけ始めた。表情は不機嫌そうな軽くひそめられたものだが照れているのだとキアラは知っていた。彼の名はジン・カルトレア。黒い髪に青い瞳、つり目でぶっきらぼうな口調の為か常に不機嫌で取っ付きにくい印象を抱かせるが実は世話焼きで気配り上手だ。ベアトと同い年だったりする。
キアラは密かに彼をツンデレと評価した。
入学当初は特別クラスと云うだけにどのような子供達が居るのかとドキドキしていた。所謂、普通の子供ではない子達が在籍する場所。問題児ばかりなのではと不安に思っていただけに蓋を開けてみれば皆良い子ばかりだった。年齢が違う所為か年長者は年下を庇護し世話を焼く。年下は兄や姉の様に頼りにし甘える。良好とも言える環境だった。
「よーう、チビども食ってるかー」
こくんっとレーベルを一口飲み込んだ所で斜め向かいに座ったのはクラスで最年長のディルク・バウアー。燃えるような赤毛に暗緑の瞳。男らしい顔は親しみやすく兄貴と思わず呼びたくなる。キアラより12歳年上の現在15歳。キアラの事は妹の様に猫可愛がりしている。
「おはようございます。ディルクさん」
「おはようっす」
ベアトとジンがスッと顔の横に利き手を掲げる。手背を相手に見せ、くるりと翻し次いで掌を見せる。これがこの世界での一般的な挨拶だ。初対面の相手に利き手を教え、尚且つ武器を隠してない事を示す行動が由来らしい。始めに見た時、キアラは新婦が結婚指輪を見せる姿を思い出してしまった。
「おはようございます」
ぺこっと頭を下げた後、キアラもベアトたち同様の挨拶を行う。
「ははっ、お前のその癖治らねえよなー」
ディルクも挨拶を返し、パンを口にしながら陽気に笑う。元、日本人の癖と云おうか…昔から指摘されていた事だが頭を下げると云う前世では当たり前の動作はこの世界では通用しない。両親もどこで覚えてきたのかと不思議に思っていた。
「あら、でも可愛いわよね」
「可愛い…です」
ギッと椅子を引く音がし、ディルクの向かいに座ったのはバルバラ・アラーニャ。腰までうねる焦げ茶色の髪とオレンジ色の瞳。日焼けした様な肌色はエキゾッチクで色気倍増だと初対面の時にキアラは思った。そのバルバラの後ろから付いて来たのは麻色の緩やかな巻き毛が肩まである水色の瞳の子。名前はマーレ・オール・クレマー。バルバラが座った後、少しキョロキョロして逡巡した末にわざわざテーブルを迂回してベアトの左横に座った。
「キアラ…おはよう、です。リム…食べて…」
マーレは拙い動作でスプーンを使い自分の皿からリムと云う桑の実に似た果物を掬い上げ、ころんっとキアラの皿の上へと落した。
「ありがとうございます」
ぱちりと瞬いてニコッと笑いかければへにゃりとマーレの顔は綻んだ。キアラが来る前までマーレが最年少だった。その所為かマーレはキアラの世話を焼きたくて仕方がない様で必ず食事が重なる時はキアラの皿に何かを御裾分けするのだ。
「いつみても可愛い子たちだわ」
「婆臭いぞ、バルバラ」
「貴方と同い年の私に対いて失礼ではなくて?ディック」
左側でバルバラとディルクが会話するのを耳に入れながらパクリとリムを口に入れる。そうしないと何時までもマーレが自分の皿に手を付けないからだ。
「おいしいです」
そうキアラが再度笑いかければ安堵した様子で漸く食事を開始する。
本当に優しい可愛い子達ばかりだとキアラは微笑んだ。




