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第五話:更に続くプロローグ

「ふぅ。持って行く物はこんな感じでいいかな」


学校で使う道具や制服、私服といった衣服類。

それとゲームや漫画――の中にはもちろんカモフラしている思春期の味方であるゲームや漫画もある。

後はノパソや携帯、通帳や印鑑といった物なんかも持って行った方がいいかもな。

今まで無縁と思っていた祖父の家。

一体どんな家で、どこにあるのか分らない以上、もし、簡単に帰ってこられる距離じゃなかったら大変だ。

少しでも必要と感じた物は持って行く事にする。


「ってあれ? そもそもそれだけ遠かったら、学校とかどうするんだ?」


琴美だってもう俺と同じ高校に入学が決まっている。

まぁ一緒に電車通学とかになるのかもな。

さすがに車通学なんて楽な事は出来ないだろうし、そんなに甘えてもいけないと思う。

今まで散々好き勝手にやってきたであろうウチの両親。

きっと祖父にだって多大な迷惑を掛けてきたに違いない。


(はぁ。そう思うと、明日爺ちゃんに会うの、少し引けるなぁ)


俺はあの馬鹿両親のせいで、未だ会ったことのない祖父に対して引け目を感じてしまう。



「ちょぉぉぉぉぉっっっと待ったぁぁぁぁぁぁぁああああああっっっ!!!!!!!!」



勝手に爺ちゃんの顔を想像し、馬鹿共に代わって懺悔するイメトレをしていると、興奮した様子の琴美が俺の部屋のドアを蹴り開け、飛び込んできた。


「お、ハァハァ……お兄ちゃ……ハァハァ……ん!」


顔だけじゃなく、全身から汗を掻いているのか、琴美から湯気という名のスタンドさんが現れる。

嘘だ。こんなの絶対におかしい!

目を覚ませ俺の大脳! 現実を見ろ俺の眼よ!


「た、大変な事に……ハァ、気がついちゃったよぉぉ!!」

「あ、ああ俺も気がついたよ……」


変わり果てた妹の姿に、俺はある結論を導き出した。

ああきっと、俺の管理が甘かったんだ。

もう手遅れかもしれない。

俺はそんな事を心の中で悔やみながら、妹にキッと視線を投げる。


「お前……」


震えてしまう唇をギュッと紡ぐが、すぐに息を大きく吐きだし自分を落ち着ける。

そして、勇気を振り絞って俺はその言葉を発したんだ。


「お前――薬やってる?」



◇◆◇◆◇◆◇



「もう酷いよ! うぅ……」

「ご、ごめん。でもいきなり息を荒くして、汗だらけのすごい形相で部屋に殴り込んできたらどう思うよ?」

「そんなの……もしお兄ちゃんがそうなって私の部屋に飛び込んできたら……」


いや、そんな事には絶対にならないと思うが……。


「私に発情してくれたんだね! って歓喜する事間違いなし!」


ああきっとこの妹と俺の次元はズレているんだな。

だから俺の中の基準でこの妹を計ったら駄目なんだきっと。

俺はそんな妹に少しだけ蔑んだ目を向け、それに琴美は「うっ……」と胸を押さえて見せた。


「さ、さすがにその視線には……」


やり過ぎたかな? と思い、俺はその視線を止めて柔和な笑みを作って見せた。


「興奮しちゃうよね!!」

「…………」


もう何も言わないよ。


「う、嘘だよ! そんな目で見ないで! 私だってお兄ちゃんにそんな目で見られてショックだったからこうやって誤魔化していたんだよ? それなのに……」


涙目になりながら俺に対して弁解してくる琴美。

何だか部屋の中の空気が重くなっていく。


「悪かったよ。それで、なんであんな状態で俺の部屋に入ってきたんだ?」


一言詫びを入れ、この話題から離れようと本題へ移る。

琴美は顔を俯かせ、答えるのに戸惑いを見せていた。


(そんなに言いづらい事なのかな?)


今まで会った事のない祖父の家で暮らすとなると、年頃の琴美にとっては抵抗があるのかもしれない。

それとも、学校の心配か?

俺なりに琴美の心情を察そうと、必死になって思案する。

けれど、どれも有り触れた理由ばっかで、ここまで思い詰める琴美の表情に合致しそうにない。

そうして俺が思案する中、琴美は意を決したようにその重い口を開いた。


「明日からお爺ちゃんの家って事は……約一年間続いた私とお兄ちゃんの愛の同姓生活が……終わっちゃ――」


そこまで聞いた俺は、琴美を自分の部屋から廊下に叩き出した。



◇◆◇◆◇◆◇


~~翌朝~~


「あ、お兄ちゃん! お迎えが来たみたいだよ?」


家にチャイムが鳴り、それに琴美が反応する。


「ああ分ってる~」


火の元を確認していた俺は、琴美の言葉で玄関へと向かう。

ドアを開けたらお爺ちゃんとお婆ちゃんがいるのかな?

そう思うと、ドアを開けようとする俺の手の平には掻いた事のない汗が浮き出るのを感じた。

それを押さえ込むようにドアノブを握る。


(よ、よし。まずは笑顔だ。初めて会うんだから第一印象は大事だもんな)


俺はそんな決意と、初めて会う親戚に期待を膨らませながら、勝手の慣れたドアを開いた。


「は、はーい。お待たせしまし……た?」


しかし、そんな俺の淡い期待は玄関前に立っている二人のメイドによって砕かれたのであった。



「はじめまして京一様。私は神崎家にて仕えさせて頂いています。メイド長の本田 美咲(ほんだ みさき)と申します」


一人のメガネを掛けた真面目そうな女性、自称メイド長の本田 美咲さんが深々と頭を下げながら挨拶してきた。

それを見て、隣に立っていた綺麗なエメラルド色をした髪のメイドさんも慌てて頭を下げながら自己紹介する。


「わ、私は神崎家にて仕えさせて頂いています。メイドの日下部 陽菜(くさかべ ひな)と申します」


俺の目の前に、頭を下げながら自己紹介をするメイドが二人。

俺は静かに、そう静かにドアを――閉めた。


「あれ? お兄ちゃん? お迎えじゃなかったの?」

「あ、ああ。もしかしたらお兄ちゃん……違うお迎えが来たのかも……」


鍵も一応掛け、ハハハと乾いた笑いを上げながら自分の部屋に向かおうとする俺。

――しかし


「お待ちください、京一様。何故ドアをお閉めになるのです?」


鍵を閉めたはずのドアは何事もなかったように開かれ、メイド長と名乗る女性が話しかけてきた。


「うわ、うわぁ! メイドさんだ! 生のメイドさんだよお兄ちゃん!」


俺の袖をグイグイ引っ張りながらどこか興奮したように話しかけてくる琴美。

その俺はというと、そんな余裕はなく、


「お、おい。俺は鍵を閉めはずだぞ?」

「はい。なので強行手段として鍵をピッキングさせて頂きました」


メイド長は「一流のメイドたる者、このぐらい当然です」と何故か慎ましい胸を張りながら平然と言ってのける。

ピッキングが出来る一流のメイドって……ただの空き巣なんかじゃないのか?


「さぁさぁ京一様、琴美お嬢様。お荷物はこちらでよろしいですか?」


もう一人のメイド、陽菜さん……だっけ?

空き巣兼一流のメイド長とは違って、豊満な胸をした彼女はリビングに上がり込み、俺と琴美が用意していた荷物を待機させていた車に勝手に積み始める。

その車というのも、今までテレビなんかでしか見た事がないぐらい黒塗りで長い――リムジンだ。


「この家の鍵は私がしっかりと施錠させて頂きますので、京一様と琴美お嬢様は早く車に乗ってください」


俺の思考が未だ追いついていない中、美咲さんがそう言うと、それを見計らい、陽菜さんが俺の背中をそっと押してくる。


「すっごぉい! 本物のリムジンだ!」


琴美は既にその車に乗るところで、その大きな声で近所の人が次々と顔を出してきた。


「京一君。一体何したのよ?」


向かいに住んでいる仲がいいおばさんが俺に聞いてくる。


「いやー。俺にもさっぱり――」

「京一様はこれより祖父である神崎 源二様の元で生活なされます。私たちはその神崎家に仕えるメイドでございまして、本日は京一様達のお迎えにまいりました」


俺の言葉を遮るようにテキパキと説明を始める美咲さん。

初めて生で見るメイドさんに向かいのおばさんも「は、はぁ……」と相槌をする事しか出来ずにいる。


「ご近所の皆様に多大なご迷惑を掛けた事は後日改めてお詫びいたしますので。本日はこれにて」


優雅に頭を下げ、俺を促すように背中に手を当ててくる。


「え、えっとそういう事だから、しばらく爺さん? の所でお世話になってきます。また今度ちゃんと挨拶に来ますので!」


ポカーンとしてしまっているおばさんに、俺は必死で頭の中をフルスロットルしながら言葉を絞り出していく。


「京一様。車をここに長く駐める事は――」

「は、はい。で、ではまた今度!」


おばさんに手を振りながら、陽菜さんによって開けられているドアから車内に乗り込む。


「では、発車してください」


家の鍵を閉め、俺たちに向かい合うようにして車に乗り込んでくる美咲さんと陽菜さん。

美咲さんの合図によって、そのごつい黒塗りのリムジンは音もなく発車したのだった。




さてさて、もう少しだけ続きますが……どうでしょう?


自分の好きなジャンル――一般からお金持ちへの移行!


まぁそんな欲望丸出しの今作『一気に逆転する日常物語』。


今回もたくさんの読者様から後書きをいただきました。

では、感謝コーナーです。


龍賀様、White Seal様、夜神様、紅 幽鹿様、メガネ様、感想ありがとうございました。

皆様の感想のおかげで作者がどれだけ救われているか。


ほかの方々もなるべくでいいので、感想くださいね!


こうした方が面白いんじゃないかな? などの意見でもOKです!


では、次回の『一気に逆転する日常物語』もよろしくお願いします!!

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