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空を行く雲、流れる水のごとく  作者: 原 徹生
第1章 日本編 Ⅰ948-1978
24/24

流雲は,…デンヴァ―に帰ってきた。夏から秋に移るコロラドへ

第2部 アメリカ編  [13] 夏から秋へ


ロッキーのひとり旅から帰った翌日にジェフとホーリーが尋ねてきた。

「How was your summer in Rocky?」

「The Rockies were great. I took excellent photos, especially at Independence Pass, Aspen, and Garden God. I'll get them developed and show you when they're done.」

 2人は流雲の語るロッキーの素晴らしさに笑顔で相槌を打ってくれるが、浮かない顔の流雲にホリーが心配顔で尋ねてきた。

「What's up, Ryu? What's wrong with you? Are you not feeling well? Do you look a little pale? Or did something bad happen to you on this trip?.....それとも今回の旅行で何か嫌なことでもあったのか?」と、声を掛けてきた。

「Well ........ Disgusting things on my last day in Colorado Springs I witnessed a KKK parade: ....... I knew there was racism in America, but I understood that racism was something that happened in the American South. I was shocked to see a parade of white supremacists in the rural town of Colorado Springs, Colorado.......コロラドスプリングズの田舎町で、パレードをみて……. 」 


 流雲はコロラド・スプリングスで見た「KKKのパレード」の話をした。

「Ryu. Unfortunately "hate crimes" happen everywhere in America. I think this is especially true in closed rural towns like Colorado Springs. Behind this is the problem of "white poverty"......背景に「白人の貧困」という問題がある」

「Isn't the problem of poverty a black problem? Why is it a white man's problem?.....白人の貧困問題?」

「The white poor believe that the cause of their unemployment and poverty is due to the social advancement of blacks.......白人貧困層は、黒人の地位向上と社会進出が原因だと....... In other words, they believe that their poverty is caused by the advancement of black people through hard work......黒人の勤勉さによる......」

「My hometown is New Hope, Pennsylvania, which is a tourist destination.......私の故郷ニューホープの町は観光地.......Our community was mostly only inhabited by whites with little contact with the black community until the 1950s......白人コミュニティで1950年代まで殆ど黒人コミュニティとコンタクト…………The only time I saw blacks was when I went to the city of Philadelphia......黒人を見かけたのはフィラデルフィア市内に行ったときだけ……」

「Oh yeah, there's a town like that? So you don't have any black friends?」

「I didn't have any black friends until I went to college......黒人の友達ができたのは大学に行ってから....... There was a Japanese American and Asian people, but no black people lived there.......日系人やアジア系は住んでるけど黒人は......今ではさまざまな人種のコミュニティがあるけど」

(えぇ。そんな事あるのかよ。アメリカに生まれ高校卒業まで、黒人に接することなく暮らして来たのか。アメリカは解りにくい国だなぁ)


「Holly, are there any white supremacist groups in your area?」

「Maybe they are hiding somewhere in the suburbs of Philadelphia. But I've never seen a KKK parade........私はKKKのパレードを見たことは無いけど....... There was a real incident in 1963 or 64 where people reported to the Justice Department about violence and wrongful arrests against blacks and civil rights activists, but the FBI did not investigate........FBIも何も調査しなかった」

「Hmmm......」

「 A human rights activist in Mississippi was arrested by K.K.K. sheriffs and deputies and turned over to several K.K.K. members to be killed......KKKの保安官達に殺された事件が.......」

「Isn't that Mississippi Burning?......ミシシッピー・バーニング? I saw the movie. The movie was based in Philadelphia, Pennsylvania?」

「That's the story of Philadelphia, Mississippi in the 1960s, right?...... As the news spread all over the world, the incident happened to be reported on television and turned into a movie, which had a huge impact......テレビ報道のニュースが世界に流れたから.......」

(そうなんだ。1960年代から続いている公民権運動は成功しなかったのか?テレビ報道がないと問題にならないとは日本と変わらないじゃないか)

「Ryu. Japan is a monoethnic country, so it must have been a shock.」

「Yes, when I saw the KKK parade. it was very scary and I cannot control my disgust......確かに、恐怖を覚えたし怒りを抑えることが出来なかった.......」

「The United States is a large country with many different cities and cultures, and the North and the South, the West, and the East have different histories, different cultures, and different attitudes toward race.......アメリカは広い国土にさまざまな都市や文化があり、歴史も文化も異なり、人種への考え方も異なるから」

「Ryu. So, you need to travel to more cities before you can judge the United States.....もっといろんな街を旅してからアメリカを判断して.......」

「OK. Holly, what about your hometown?」

「I don't think they're in my town, but I don't know, they could be hiding........隠れているかも知れないから分からないわ....... However, my hometown has a lot of gays, lesbians have taken, and other minorities living there. It's a very liberal town,......だけどゲイやレズの多いリベラルな街だから...... so we are sensitive to racism, and I haven't seen any racist people around. But I think Jeff is right when he says that racists are everywhere......周りでは見かけないけど、ジェフが正しいと思う、何処にでも......」

(人種差別の問題は根が深そうだな。アメリカで暮らす宿命なのか。デンヴァ―に暮らす魅力が遠のいた気がするなぁ)


 流雲は日本の食材の買出しにサクラ・スクエアに来ていた。「Colorado State Capitol」の横を走り左折しサクラ・スクエアに到着する。

流雲は中心街にサクラ・スクエアがあり、お寺があるのか。何時も不思議に思っていた。(ダウンタウンに日本人は住んでない筈なのに......)

庭園の中庭に3人の銅像が立っている。元州知事のRalph L. Carr氏、日系人弁護士の安井実氏、浄土真宗住職の玉井喜孝氏の3人の名前が刻まれている。

流雲が銅像の撮影をしていると、ひとりの日系人の老人が話しかけてきた。

「あなたはカメラマンですか? 随分立派なカメラをお持ちですね」

「はい。駆け出しのカメラマンです。暫くデンヴァーに暮らしながら、撮影を計画してます。今はDUの学生です」

「銅像を撮られていましたが、歴史に興味がおありですか?」

「まぁ、少しは興味がありますが。何故ですか?」

「カメラで記録されるなら、その背景も記録していただければと……」

「成程、失礼ですけど、此処の歴史は詳しいのでしょうか?」

「私は二世です。デンヴァ―には戦争中に越してきましたから、35年以上になります」

「日本語お上手ですね。全然、日本人と変わらないです」

「私達の世代の二世は、皆、日本語を話しました。戦後生まれの二世、三世は、殆ど日本語を話せませんが。少し長くなりますが、私の話を聞いてもらえますか?」

「えぇ。構いませんよ。今日は買い物をして帰るだけですから......」


 その老人の話は、戦前の日米史から戦後の日米史までの長い歴史物語だった。

「昔、ここは『リトルトウキョウ』と呼ばれていました。ここに日本人街が造られたのは、1940年前後のことです。1909年推定3,000人の日系アメリカ人が畑で働いました」

「明治40年にそんなに日本人がいたのですか?鉄道でなく農業ですか?」

「最初の日本人の記録は1886年と1888年に訪問した学生でした。1900年に48人が入植してきた。この頃に来た日本人は鉄道や炭鉱で働いていました。1903年から1908年の間にコロラドに来た日本人の数は推定3,000人です」

「1886年は明治18年ですか、そんな昔からコロラドに僅か20数年で3,000人ですか?」


「1900年代に多くの人はテンサイ農場で働いていた。テンサイ労働力の6分の1を占めていた。テンサイとはサトウキビに似た植物です。生成して砂糖を作る労働者が『リトルトウキョウ』を利用していました」

「その頃にはどんなお店があったのですか?」

「レストラン、ランドリー、理髪店、ホテルや質屋、古着屋などがあった」

「へぇ、結構お店があったんですね。繁華街だったですね」

「此処には日系アメリカ人、メキシコ系アメリカ人、アフリカ系アメリカ人など低所得者層が集まり暮らしていた」

「……」


「第二次世界大戦の勃発により大統領令9066が調印され、日系アメリカ人は”自発的”に西海岸から移住してきた。 排日運動に反対する Ralph L. Carr 知事は日系アメリカ人を歓迎し擁護政策を執り、日系人の移住と再定住に尽力した。この功績に敬意を表し Ralph L. Carr 知事の銅像が建立された」


「移住とは強制収容所ですか。排日運動ですか? 知事は人権派のケネディのような方だったんですね」

「そうです。その後、西海岸から7,500人がコロラド州グラナダ刑務所に収容された。他にコロラド州内に10ヶ所の強制収容所が造られた。1940年のデンヴァ市内に日系アメリカ人が323人いたが、1945年後半には約5,000人にまで増加した。コロラド州内の日系アメリカ人の農村人口は、11,700人を越えていた」

「そんなに大きなコミュニティがあったんですか......?」

「戦争中カリフォルニアの日本人コミュニティーは消滅した。その結果、コロラド州の日系人社会が増加した。戦後は1950年までに州内の日系アメリカ人は約5,500人が帰国した」

「帰国、日本へ帰ったのですか? 戦後は排日運動はどうなったのですか?」


「殆どの人はカリフォルニアに帰りました。中には日本に帰国した人もいました。戦後は日系人の公民権運動が盛んになり、日系人の市民権を取り戻す運動が起こりました。その立役者が、銅像の安井民です。もう一人が、浄土真宗住職の玉井喜孝氏です。住職としてでなく、この『リトルトキョウ』の低所得者層の人権保護運動の立役者です。タマイアパートの建設に尽力しました。 他にも、ジャーナリストのジミー大村氏は、戦時中ロッキー新報の英語版編集者。戦後は日系人ジャーナリストとして、日系アメリカ人の功績を記録した。その他にも、日本文学の研究者ドナルド・キーンやエドワード・サイデンステッカーなどデンヴァーで活動した人達がいます」


「サクラ・スクエアは、日系人の歴史を刻むモニュメントなのですね」

「そうです。あなたもこの場所に日本人が築いた町『リトルトキョウ』があったこと忘れないで下さい。本当は、もっと苛酷な歴史がありました。今日の私の話はほんの一部です。また、会う機会があったら話しましょう。長い間ありがとう」

「こちらこそ貴重なお話ありがとうございました。失礼ですが、お名前を……」

「私は、Denver Post 紙のビル 細川です。ではまた......」

(ビル 細川さんか。60歳位の人かな。良く話を知ってたな。あの人も関係者なのだろう。また、会いそうな気がする)


「桜祭り」で見た日本庭園とは趣が異なって見えた。

 街中の外れとは言え、中心街に日本庭園を創り上げたのは日本人の気概の現われなのだろう。この地は、明治から続く日系人が歴史を刻んできたモニュメントだった。この街に少し愛着が湧いてきた。


 夏休み最後の金曜日の夜。

 ジェフが ” Coors" を持って部屋を訪ねて来た。

「Ryu, do you like pizza? I've ordered a pizza for delivery. It will arrive soon, so let's eat together.」

「Pizza, huh? Sounds good. Let's make a green salad.」

ジェフのオーダーしたピザはデカかった。レコードLP盤よりひと周り大きく、直径30センチ以上ある。ピザを食べながら、週末にトレッキングに行く話になり「Boulder」に誘われる。

「Do you know the town of Boulder?」

「No. I don't know the Boulder.」

「Ryu, the small town of Boulder is a foothill town surrounded by more nature than Denver. It is a college town of Colorado State University and is famous for its citizens' respect for nature.......自然を大切にする街ボウルダーか」

「Ryu, you're a photographer. Would you be interested in trekking in the Rocky Mountains?......ロッキーのトレッキングか。楽しみだ」

「Sure, I am. Trekking and experiencing nature in the Rocky Mountains is one of the reasons why I came to Colorado.」


 ジェフの話す「ボールダーの町」は非常に興味深かった。

 1967年に人口を抑制し自然環境を保全する『グリーンベルト消費税』が施行された。年間の新築着戸数を制限し開発規制や環境破壊を抑止する条例が支持される町。

 流雲は話を聞きながら、本郷村の村人が山林を守る活動を思い起こしていた。本郷村の活動は村の伝統行事だった。ボールダーの条例は欧州のナショナル・トラスト運動に端を発している。10年以上前に始まった自然保全条例の活動か。(興味がわいてきた )


 翌朝、University 大通りを進み I-25 を北上しボウルダーを目指す。 I-25 を30分程走り、US-36に乗り換えてボウルダーに進路を取る。前方に白く雪を被った美しい山並みがくっきり見えてきた。デンヴァ―の初秋は、日本より遅く訪れるようだ。遠方に見える山並みが薄っすらと色づいていた。

「Ryu, That's the town of Boulder……あそこに見えるのが、ボウルダーの町だ……. It's a small town, but it's beautiful, isn't it?」


 森を抜けると、ダウンタウンの町並みが広がってきた。

 街路樹が植えられた煉瓦敷きの美しい一角に出た。自動車の進入が規制された歩行者専用の「道り」になっている。 Pearl Street は街路の一角は、町に暮らす人たちが集う憩いの空間がデザインされた公園広場。

 メイン・ストリートを歩行者専用路にし「街路」としての賑わいを創り出している。

 深緑のきらめく街路樹の下に花籠がぶら下り、花壇に色とりどりの花が植えられ、噴水の周りにストリート・ファーニチャーが設置され、人が集う広場になっている。パール・ストリートの裏に住宅が建ち並んでいる。どことなく日本の下町の風景に似ている。

 生い茂る森林地帯が、煉瓦造りの建物を包み込んでいる。

(ホント。緑が町に溢れ、緑が町を包み込んでいる。人工的に造られた町とは思えない自然が溢れている。東京の下町のような賑わいがあるなぁ)

 ボウルダーの街の背後に、山頂に雪を被った「Flatirons」が勇姿を見せている。流雲とジェフは、切り立ったフラットアイアンの山に向かって歩いて行く。

 ジェフは「Trekking a relatively easy route today……今日は比較的イージーなルートをトレッキングする」と話しながら平原を突き進んで行く。

「It will be tracking about 1000m elevation difference from the base......標高1,600mの麓から標高差約1,000mのトレッキングになる」と説明してくれた。

 針葉樹林の生い茂る古道を緩やかに登っていくと、徐々に急坂になる。色づき始めた広葉樹の葉が風に舞う中、二人だけでトレイルを歩いて行く。

(ロッキーの大自然を独占だ!!)

 林道を抜けるとひらけた小高い丘に出る。右手のロッキーの山並みの向こうに、鋭く尖った峰に雪を被った「Flatirons」の頂きが望める。

 登山口から西に向かってポンデローサ・パインの木立を抜け、尾根を回る8Kmのループがフラットアイアン・ビスタ・トレイルになっている。


 だらだらと続く坂道を登り切った時、下から爽やかな風が吹き上がってきた。

 トレイル脇の岩場でひと息つく。バックパックのポケットから愛用のチタン水筒を取り出す。口の渇きを癒すために、水をひと口含みゆっくりと飲む。ジェフがエナジー・バーを手渡してくれる。

 カメラを取り出し撮影準備を始める。流雲は山岳撮影に超広角レンズ10-24mm、標準ズームレンズ28-105mmを準備してきた。

 早速、標準ズームをカメラに装着しフラットアイアンの均整の取れた円錐形の美しい山容を覗くが、平坦な感じになり迫力に欠ける。

 超広角レンズ24mm を装着し F16まで絞り込む。近景から遠景までピントを合わせる。白い雲が中央にグーッと収束し遠近感が強調されたパースペクティブな構図で撮る……。

(景色がトンガリ荒々しさが際立って見える。良い感じだ。フラットアイアンの秀麗さが強調される感じがする。超広角ズームのディープ・フォーカスで撮るとやはり迫力が出るな)

 景色を追いかけるように速足で歩き始める。

「Ryu, you should walk a little slower to catch your breath otherwise, you will have trouble breathing and won't be able to walk. We're at high altitude here.......流雲、少しゆっくりといかないと息が上がるよ....... Take your time.」

「Thanks. I will try.」

(確かに、ちょっと焦っていたな)

 ロッキーの頂を眺めながら森林地帯に入る。針葉樹の緑が濃く、しっとりと湿った冷たい空気が爽やかで清々しい香りを運んでくる。樹々の発する精気なのか。懐かしさを感じる。カンナビの声が聞こえたような気がした。


「Jeff, is this Fir tree?」

「These big trees are Colorado Blue Spruce, Douglas-fir......コロラド トウヒに米松...... This forest is home to Rocky Mountain Juniper, Subalpine Fir, Ponderosa Pine, and White Fir ....... ポンデローサ松やロッキーヒノキなどか.......」

森林が濃く巨木の茂る林道の中は清々しく気持ち良い。トレイル脇に「熊出現!注意!」のサインが立っている。空は深く鮮やかな青に彩られている。荒々しく切り立ったロッキーの頂が、くっきりと見える。

 トレイルが岩山に到達する。汗ばんだシャツを脱ぎティシャツ1枚になり、岩場に取り付く。足を取られながら登り切った時、眼の前に”Bighorn” が草を食んでいた。

 慌ててカメラを構えて撮影を始める。数ショット撮り終えた時、崖上から次々にビッグ・ホーンが降りてくる。野生のビッグ・ホーンが数十頭、流雲とジェフを取り囲み悠然と草を食んでいる。逃げる素振りも見せずに、2人にすり寄ってくる。

「What the hell! Ryu What's happening, why are bighorn sheep gathering here?」

 ジェフが驚きの声をあげた。

(羊の仲間だろうが、デカイ!子牛程の大きさがある)


 カメラを構え、アップの撮影姿勢に中腰になる。らせん状の角が一際大きく迫ってくる。

「Ryu. Be careful, they're wild animals, you shouldn't get too close to the bighorns.」

「Don’t worry, Jeff. This isn’t the first time to taken a photo of wild animals.」

 流雲は興奮気味にシャッターを切り続ける。

(凄い!こんな眼の前で撮れるチャンスは滅多にない。間近で見ると羊の角は年輪のように、無数の筋が刻まれコブが盛り上がってる)


 群れの中のひときわ大きな角を持った羊が、ゆっくりと流雲に向かって歩いてくる。ファインダー越しに捕らえた”羊の眼”は鶯色の輝きを放ちながら、流雲を見つめてきた。

(吸い込まれるような水晶の輝きを発している)

「Ryu. Can you communicate with wild animals?…… Ryuは動物と……What's the bighorn talking about?」

「I know he's trying to tell me something, but I'm not sure exactly what he's trying to tell me…… 何かを伝えようとしているのは分かるが……正確にはわからない」

「Amazing! Are you trying to have a conversation with a bighorn?」

「Hmm, I'm just trying to feel it out.....何と説明したら良いの.......」


”鶯眼”ビッグ・ホーンが流雲に向かって頭を下げると、草を食んでいた羊の群れが”鶯眼”に従うように頭を下げながら近づいてきた。ビッグ・ホーンが、流雲とジェフの周りをゆっくりと回り始める。


「What's going on Ryu? Why are they surrounding us?」とジェフが叫び声をあげる。

「Jeff, I don't know why but don't worry, it's okay. It doesn't look like they're going to attack us.......心配しないで、大丈夫だよ。彼らが我々を攻撃するようには見えないから」

 ビッグホーンが、グルグルと回りながら円陣を組み2人を取り囲んできた。

 整列が終わると鶯眼が前脚をカッカッと地面を叩く。「別れを告げたのか?」頭を下げると崖を駆け登る。すると、数十頭の群れが、鶯眼に従い一斉に崖を登って行った。

 一連のビッグ・ホーンの行動にジェフは驚きを隠せずに聞いてくる。

「What happened? Ryu, Why did they walk around us? What did you do?」

「Jeff. I don't understand it either. But ever since I was a kid, strange things have been happening around me from time to time.......子供の頃から不思議なことが身の回りで時々起こって......Can you believe in the mysterious power of nature?......君は神秘的な自然の力を信じますか?」


「Do you mean the mysterious power of nature or natural phenomena?……自然の不思議な力とは自然現象のことか?」

「Indeed, I often encounter unique natural phenomena. Not only that, but I've also recognized the voices of forest spirits........森の精霊の声を認識したり....... and I collected wild animals. Probably the same phenomenon that the bighorn came up to me......野生動物が寄って.......ビッグホーンが寄って来たのも同じ現象だろう」

「Really? Amazing isn't it? Earlier it looked like you were having a conversation with Bighorn, what were you discussing?......ビッグホーンと話していたように見えたけど何を話してたのか?」

「I wasn't having a conversation. I had received a forest raw spirit message from Bighorn.....ビッグホーンが森の精霊のメッセージを伝え......」

「What do you mean?」

「Jeff, I'm sorry. I can't explain exactly how it works.……ジェフ上手に説明できないのだけどよ……If you give me some time, I might be able to explain it later.」

「I see, but it's a curious story? You're a mysterious person, aren't you?......不思議な話だ? 君はミステリアスだよ」

「The only thing I can say is that my grandfather was the abbot of a Zen temple, and I have been learning to connect with nature through Zen meditation since I was a child......ひとつ挙げるとしたら、祖父は禅寺の住職で子供の頃から坐禅の修業をし......自然と心を通わせる術を学んで来た」

(確かに、Bighorn は何かを訴えるような目をしている。何なのか自分でも分からない)

 ジェフは驚いたように「Zen is Buddhism, isn't it? Is Ryu a Buddhist? 」

「I'm not exactly a Buddhist, but I'm heavily influenced by Zen philosophy and the roots of my way of life……禅の思想は僕の生き方の根本にある」

 ジェフは訝しげな不思議な顔を流雲に向けたが、何も言わずに歩みを頂きに進めた。


 陽の沈み始めたボウルダーの町に戻ってきた。

 標高が高く標高差のあるロッキーのトレッキングは、一般的な景観を楽しむトレッキングと異なり、想像以上にタフで体力を消耗した。数カ所、ロッククライミングに挑戦するなど谷川岳の登頂に匹敵する過酷さだった。

 ボールダーは魅力的な街だった。明確な都市ビジョンを持った先人達の意志を受け継いだ街づくりが、森に囲まれた都市を創り上げたのだろう。


 9月3日。新学期が始まった。

 30度を超える日は9月に入ると少なくなり、清々しい季節が訪れる。9月にはピタッとスコールも降らなくなり、すじ雲やイワシ雲やヒツジ雲が大空を彩り、空の色も紺碧色から湿気を含んだ青く澄んだ秋の気配を濃く感じられる。

 

 天色に輝く秋日和の日。珍しくアンが流雲を呼び止めて来た。

「Ryu, I heard you meditate every day, is that true? Can you teach me how to meditate?……瞑想する方法を教えて?」

「I am doing Zazen. It's a little different from meditation, but I can teach you how to unify your mind...... 精神統一の仕方なら教えてあげるけど....... However, Zazen is a basic practice of Zen Buddhism, If that's okay?....... 瞑想とは違うけど座禅のやり方なら.......」

「Ryu, I'd love to learn from you. Do you have time today? Where can I do it? Or do I have to go to your house?」

「No, we can do it anywhere, but where do you feel most relaxed?」

「 Well, let's go to my apartment.」

「Yeah. Anne. Do you think Jeff will mind if I go to your apartment?」

 英国人のアンは、ファッション・モデルのような美人。一緒に歩けば、キャンパスをゆく人が必ず振り返る。何時も、ジェフと一緒にいるから、ジェフの恋人と意識していたら。


「Why? Jeff is my boyfriend. You're my boyfriend, not my lover......単なるフレンド.....I'm a naturalist. And I love freedom and free spirit. So I'm open-minded about romance.....自由を愛する自然回帰主義者であり、自由恋愛主義者か」

 するとアンがいきなり腕を組んできた。思いっきり腕を掴み胸に押し付けて歩き出す。

「It takes about 10 minutes to get to my apartment if that's okay. In addition to meditation, I am also interested in Buddhism. Can you tell me more about Buddhism and Japan today?」

(仏教に興味があり瞑想好きのヒッピー思考なんだな)


 アンのアパートは、DUのキャンパスを抜けたEvans Street の裏にあった。洒落れた反射ガラスの外観にセキュリティが完備された最先端のアパートは、流雲のアパートとは雲泥の差だ。

 モダンなガラス張りのアパート。アンのフラットは最上階の6階にある。メインフロアーにリビングとダイニングにキッチンがあり、ロフト階にベッドルームのある明るく広々としたユニット。室内は空調設備が完備され、心地よい暖かさに管理されていた。


 流雲は、数息観すそくかんで静かに自分の息を勘定する方法を説明する。

 先ずアンにリラックスできる服装に着替えるように伝える。するとアンはロフトに上がり、ダンス用レオタードに着替えて降りてきた。流雲はその姿にびっくりすると共にアンの身体に見惚れてしまう。

「Anne. Are you cold? Are you comfortable in that outfit? It's a little too sexy, could you please put some pants on?」

(凄いスタイルだ。ブラジャーをしてないのか身体の線が丸見えだ。素足を剥き出しにしてとってもセクシーだ.......)

「Ryu. Don't worry about it. I'm fine, I'm comfortable.」

(やりにくいけど、しょうがないか......)

 流雲が座禅を組むと見様見真似で床の上に腰を下ろした。(床に座る習慣は無いから坐禅は無理だろう)

「First of all, there is a difference between Zazen and Meditation....... Zazen とMeditationの違いは...... Zazen is the practice of sitting in the correct posture and mental unification.......正しい姿勢で座って精神統一をする...... And it's the basic practice in Zen Buddhism......禅宗の基本的な修行法であり.......Meditation means to focus the mind on something with the eyes closed and the posture correct......瞑想は目を閉じて何かに心を集中させることで.......」

「Okay......」

「First, try Zazen. Please sit with your back straight. This is the basic form of Zazen.」

「Ryu, is this sitting style okay?」

「Please straighten your back a little more and relax your shoulders.......背筋を伸ばし肩の力を抜いて.......That's good.」

「Ryu, the position of my feet is different from yours. Is that okay?」

「Anne. That's fine, you're in the first Zazen posture today......初めての坐禅だから、それで良いよ....... Until you get used to Zazen, that posture is fine.」

(中々、上手に胡座を組めてる。それにしても、セクシーな格好だなぁ)


「Anne. I will explain how to count your breaths quietly....... 呼吸の仕方だけど....... First, keep your mind and body at rest, imagining that you are listening to your heartbeat....... 心と身体をリラックスさせ自分の鼓動を聴くように........ Anne, The most important thing in Zazen meditation is to "empty" your head and mind and concentrate on your breathing....... 瞑想で重要なのは頭の中の思考を「空」にする......This breathing technique is called "Susokukan". When you enter the zazen posture, always begin with slow "Susokkan" breathing......『数息観』の意味が伝わったかな?」 

「........」

「When counting breaths, quietly count one, two, and breaths in your mind. There are three conditions: 1) do not make a mistake, 2) pay attention, 3) violate the above two conditions. If so, go back to 1……呼吸を数える時、1)数え間違えない、2)雑念を払う……」


「Don't take a deep breath. Instead,........深呼吸するのではなく........ count the number of breaths you normally take unconsciously, while doing so quietly........普段、無意識に行っている呼吸を静かに行いながら数える......... That's right. Not abdominal breathing, but unconscious breathing........そう。腹式呼吸ではなく無意識に呼吸する」

「Then begin to count the breaths, but first join your hands together and begin to count the natural breaths in your mind........ 両手を合わせ 静かに呼吸........ Count the breath that comes in and out as one, then count the breath that comes in and out as two........ 引く息と出る息とをもって一つと数え、次の引く息と出る息とをもって二つと数える」

「The first breath in is counted as「イー」, and the first breath out is counted as 「チー」. In other words, one breath is "イーチー" The next breath is "ニーイー" and the next is "ミーイー" and so on up to ten.........最初の入息をイーと、そして最初の出息をそのまま受けてチーと数えます。つまり一呼吸で「イーチー」。次の呼吸が「ニーイー」、その次が「ミーイー」と10まで数える........ For now, count from one to ten, and repeat. Continue for about 45 minutes, counting up to 100.」

(普通に呼吸する方法を習得しないと難しそうだな。まだ、腹式呼吸をしているな。瞑想に入ると普通は深呼吸するからな)


 流雲は、1時間程掛けて、坐禅の瞑想法を指導した。

 アンはリラックスして坐禅に対峙出来るようになってきた。坐禅が終わった後に、白湯を飲むことも教える。喉が渇いても、生水や冷水は飲まないように指導する。


 白湯を飲みひと息ついた時、アンが紅茶とサンドウィッチを持ってきた。

 薄いパンにスライスしたキュウリを挟んだサンドウィッチ。塩胡椒とワイン・ヴィネガーのシンプルな味付けだったが、凄く美味しかった。

「Anne. This cucumber sandwich is very good.」

「So, the cucumber sandwich is a traditional British sandwich, and a popular choice for afternoon tea in England.」

「What’s the ”Afternoon Tea”?」

「Traditionally, English families had a custom of having a light meal with tea in the afternoon......... 『アフタヌーン・ティ』は英国家庭の伝統なのか ........ It's also called low tea. At home, my grandmother would make sandwiches and cakes to go with the tea. I learned to play the violin to entertain people during afternoon tea.」

(へぇ。日本の茶道に似た習慣なのかな。何か、優雅だな。アメリカとは違うんだな)

「Oh, yeah. Is this only a British custom?」

「It originated in England, but you can find it in Canada, USA, and Australia.」

「But we don't see it in Denver.」

「Maybe you can find it in the east coast cities.」

 リビングには2人掛け用のソファーしかなく、アンは床の上に座っていたのだが。

「Ryu, my bum is getting cold. I'll sit next to you.」と、語りかけながら流雲の隣に腰を下ろしてきた。そして、レオタードの上から「Look, touch it, it's cold.」と確認するように、流雲の手を添えてお尻を撫でるように促してきた。

「Hey, my bum is very chilled. Can you warm me up?」

 アンはまったく気にしてる素振りもなく身体を密着させてくる。


 そして、アンは流雲に寄り掛かりながら、スコットランドの話しを始めた。

「My hometown, Scotland, has Celtic culture, with immortality and reincarnation of souls, believing that spirits dwell in all thing......私の故郷スコットランドのケルト文化では魂の不死と輪廻が信じられ精神は自然に宿ると......」

「Is that so! Similar folklore in Japan...... そうなの! 日本にも同じような伝承が」

「and believing that souls dwell in all nature, especially oak trees, rivers, rocks, mountains, forests, and animals.....魂はオークの木や川、岩、山、森、そして 動物......」

(なんと。本当に日本と変わらない......)

「 Also, in Celtic culture, when meditating, they ring the Druid Bell, a silver chime ball, to relax and relieve stress.......瞑想する時は銀製の鈴....... chime balls『 Druid Bell』.......を奏でリラックスしストレスを解消....... This is not done in the style of Zazen. Don't you use a chime ball in Zen?....... 禅ではchime ballsは使用しないの?」

「In Shintoism, a bell is used and a Miko/priestess plays the 『Sanbaso bell』......神道では巫女が『三番叟鈴』を奏でるが.......but in Zen Buddhism, an 『 Orin』 is used to start reading a sutra, and when zazen begins,.....禅宗ではお経を読み始めるとき『おりん』を使用..... the signal is the "Sijyoushou" which is striking a small bell three times.....坐禅開始の合図に三回『止静鐘』を叩く.....」


 アンの話の中で興味深かったのは、日本の八百万の神々に通じる輪廻転生や自然に精霊が宿るという神話だ。

 特に、ケルト民話に日本の「浦島太郎」や「瘤取りじいさん」に酷似した民話があった。そして、ケルト人は文化を文字で残すことを嫌い音楽と口伝により民話を伝承してきたと話す。アンは寝室から「Druid bells」を持ってくると、流雲に奏でてくれた。

 その音色は涼やかで「三番叟鈴」に良く似ていた。そして、アンはケルト音楽の調べをハミングした。その調べは仏教声楽の「天台声明」のメロディのような独特の抑揚があり、山紫水明が感じられる響きがあった。


 アンの説明では、欧州にはギリシャ神話やローマ神話や北欧神話など多様な神話の歴史がある。ケルト神話は、ケルト民族が語り継いできた300以上の神々の物語だそうだ。

(日本も神話の国だが、スコットランドも神話の国なのか。日本には神話は幾つ位あるのだろうか)

 海の精霊「ネレイス」や水の精霊「ナイアス」や樹木の精霊「ドリュアス」や山の精霊「オレイアス」がいるそうだ。驚いたのは「神奈備」の伝承に通じる森の精霊「アルセイス」の話だった。余りにも話の内容がそっくりなのだ。

 ギリシャ神話の妖精「ニュンペー」は森、山、川、樹木などの精霊が美しい女性の姿をした有名な精霊だそうだ。

(妖精「ニンフ」のことか。ニンフには欧州に妖霊伝説があるが、女神伝説と関係があるのだろうか?)


 アンの話すケルト文化と日本文化の類似点に驚きを隠せなかった。特に、ケルト神話や伝説に共通の同一性がある。

 昔、遠藤先生は「日本の神話とアメリカン・インディアンの神話の間に特異な類似点がある」と話していた。インディアンの祖先は大昔にアジア大陸から移動したと聞いた。

 同様に、アジア大陸から欧州にアジア人が移動したのだろうか。その時に神話や伝説が伝わり、語り継がれてきたのだろうか。それとも人間の創造力に特異性などなく、共通するのは普遍的な性質なのだろうか。不思議な話を聞いたが、共通性があると考えると何だかホッとした気分になる。不思議だ。


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