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第十三章 羞恥プレイは本日限りでお願いします…

「シルヴィア」

……………。

「シルヴィアー」

レオンが何度も私を呼んでるけど、私はひたすら壁を向いて無視を決め込む。…いや、そっち向けないというべきか。

今私とレオンがいるのは浴室。夕飯の後問答無用で浴室に連れ込まれたのだ。もちろん、今日買ったシャンプーをしてもらう、という目的なんだけど…いや、確かにお風呂は入りたい。もう何日も入ってないからきっと臭いだろうし、毛づくろいだけじゃフォローしきれないぐらい毛ヅヤもボサボサなんだろうし。

でも、でも…!レオンじゃなくてセレスさんに洗ってもらいたかった…!レオンと一緒にお風呂なんて恥ずかしくて無理です…!!

「ねぇシルヴィア、いい加減こっち向いてよ。身体洗う意外に何もしないからさー」

いつの間にか至近距離に来ていたレオンにひょいっと抱き上げられ、私はいよいよ慌てる。

『いやー!セレスさんがいいー!レオンと一緒にお風呂なんて恥ずかしくて死んじゃうよ!!』

「大丈夫だって、ちゃんとタオル巻いてるからさ。それぐらいのマナーは守るよ、さすがに」

そう言われて油断した私はくるりと顔をレオンの方に向け……硬直した。

視界いっぱいに飛び込んできたのは、レオンの鍛え上げられた上半身。もちろん裸。所々に戦闘で付いたらしい傷が残っている。………って、そうじゃなくて!!

『う、うそつきー!!タオルで隠してるって言ったじゃない!!』

「だから隠してるだろ?ほら」

『か、下半身しか隠れてないじゃないー!』

「あのねシルヴィア。男が胸元までタオルで隠してたら逆に気持ち悪くない?」

う、それはそうかも。ぴた、と動きを止めた私を見て

「納得してくれた?じゃ、行こうか。楽しみだね、シルヴィア」

頭から音符を出しそうな勢いで浴室の扉を開けるレオンに抱きかかえられたまま、私は色んな意味で覚悟を決めた…。


『ふ、ふわぁぁ…』

「さっきまでの嫌がりはどこ行ったのさ、シルヴィア」

洗面器の中に張ってもらったお湯に浸かり、気持ちよさのあまり変な声を出した私を見てレオンが笑う。

『う…だって、久しぶりに温かいお湯に浸かれたんだもん。気持ち良くて…』

私はなるべくレオンから視線を外して呟く。

久しぶりに温かいお湯に浸かった瞬間、今までの緊張が綺麗にお湯に溶けていったのは確かだ。湯気が浴室中に充満して、視界がうまいことぼやけているのも緊張がほぐれた一因だろうか。

「ま、無理もないか。女の子はお風呂大好きだもんね。お湯加減はいかがですか、お姫様?」

レオンが自分の浴槽からお湯をすくい、私の背中にかけてくれる。…うん、ここからだとレオンが顔しか見えないのが最大の原因かも!

洗面器は浴槽用の椅子に置かれているのだけど、なにぶん浴槽が高いのと私が小さいのとが幸いしたようだ。

「ね、シルヴィア。早く一緒の浴槽に入りたいね」

『な、何言ってるの!?』

いきなりの提案に私は文字通り吹き出す。

「そうだ、もうすぐ闇の夜が来るね。その時一緒にお風呂入ろうか」

『は、な、え、えぇっ!?』

「尻尾膨らみすぎ。…あぁ、闇の夜が楽しみだね」

うっとりと囁くレオンを信じられないという目で見てしまう。え、ちょっと待って、闇の夜って何日後…!?

「翌日は休み取ってあるから、一晩ゆっくり話そうね。明後日までに頑張って仕事こなさないとな」

わ、わー!そんなすぐ来ちゃうの!?

『こ、心の準備が…!』

「僕はもうとっくに出来てるよ?グロリアに言われた時から指折り数えて待ってたんだから」

『そうだったの!?』

なんて事だ。ぼんやり毎日を過ごしてたのは私だけなのか!っていうか今日が何日なのかさっぱり分からなかったから把握も出来なかったというべきか…!

「人間に戻ったら、その金の瞳はますます存在感を放つんだろうね。一番近くでじっくり見せてね」

そう言って微笑むレオンからは、むせかえるような色気が漂っている。……人間に戻ったら、色々とピンチな気がする。凄くする。相当の覚悟をしておかなければいけないみたい……

「さ、そろそろ買って来たシャンプーを使ってみようか。あんまり長風呂したらのぼせちゃうからね」

レオンが私を洗面器ごと持ち上げ、立ち上がる。

『わ、わぁぁーっ!』

見える!レオンの素っ裸が見えちゃう!!

幸いにも背中を向けていた私は慌てて両手で目を覆った。ややあってどこかに洗面器を置いた気配がしたので、恐る恐る隙間からちらりと様子を見る。

視界にはレオンの姿はない。けれど、後ろから鼻歌とシャワーの水音が聞こえてくる。そしてふわりとローズの香りが鼻腔をくすぐり、レオンがシャンプーを泡立ててくれていたのだと気付いた。

「さぁ姫、シャンプーの準備出来たよ。痒いところがあったら言ってね」

『う、うん』

レオンに背を向けたままこくりと頷く。と、背中にふわりと優しく泡を乗せられたのが分かった。続いてレオンが慎重な手つきで身体に泡を伸ばしていき、かしかしと指の腹で全体を洗い始めた。

「痛くない?力加減、強かったら言うんだよ」

『だ、大丈夫… 』

正直、気持ちよくてそれどころじゃなかった。何日ぶりか分からないお風呂。やっとキレイになるんだと思ったら幸せでたまらない。でも、しばらく洗われていたらたくさん乗せられていたはずの泡がみるみるなくなっていった。……相当汚かったんだ、私。

「やっぱり相当汚れてたみたいだね。気持ち悪かっただろ?もっと早くしてあげれば良かったね、ごめん」

がっくりとうなだれる私を見てか、レオンの申し訳なさそうな声が上から降ってきた。

『ううん…確かにちょっとショックだけど、今こうやってキレイにして貰えてるから、嬉しい』

レオンに救われなかったら今頃どうなっていたか。少なくともこんなところでお風呂に入れて貰えてる事はなかったと思う。だから素直に感謝した。

「セレスに聞いたら、皮膚に負担がかかるから毎日の入浴は禁物らしい。猫は本来ブラッシングだけで十分綺麗になるそうだ。だからこれからは僕が毎日ブラッシングしてあげるからね。で、週に1度こうやってお風呂に入ろうか」

再び泡を伸ばして洗われる気持ち良さに、ろくに話も聞かずこくこくと頷いた、んだけど……

『しゅ、週に1度?』

「うん、女の子なんだから、ローズの香りを纏っておめかししないと。ね?」

本当はレオンが一緒に入りたいだけでしょうがー!

「さ、じゃ次はっと」

『きゃあっ!?』

もやもや考えてたら油断した。くるりとひっくり返され、仰向けにされる。レオンの上半身(もちろん裸)がどアップで目に飛び込んで来て、息が詰まる。

簡単に後ろへ撫で付けている髪。濡れているせいか、少し蜂蜜色に見える金髪からはぽたぽたと雫が落ちてくる。それは均整の取れた身体に滴り、首から胸元へと流れ落ちていく。呼吸を忘れるほど色気を帯びた身体に、どこか熱を持ったような紫色の瞳がだめ押しをするかのように私を射抜く。……めまいがしそう。

「硬直してるよ、シルヴィア」

レオンが柔らかく微笑むけれど、瞳の熱は一向に冷める気配がない。むしろますます強くなってきて、視線を反らす事すら出来なくなる。

心臓が早鐘を打つ。ど、どうなるの…?

「ほい、隙あり」

硬直したままどぎまぎしていると、レオンは私のお腹に大量の泡を乗せた。

「まるでネズミを追い詰めた猫の気分だったよ。シルヴィアのその怯えたような顔、人間の時に見たかったなー」

高らかに笑いながらまたひっくり返されて座らされた私は、身体全体を両手でわしゃわしゃと洗われる。じとり、と見上げると、さっきまでの色気は完全に霧散し、ただひたすら大笑いするレオンがいた。

くっそー、またからかわれた!……って、ちょっと待って。それどころじゃなくて気付かなかったけど、仰向けにされたって事は……!

「今度は人間のシルヴィアを組敷くのが楽しみだよ。今みたいに優しくしてあげるからね?」

う、うわぁぁぁぁっ!!私、思いっきり身体見られてたんじゃん!いや、猫だからどのみち毛に埋もれてて見えないだろうけどっ!いやでもそういう問題じゃなーい!!あの状況で抵抗しないって、もし人間だったらそのまま……!

「はいはいシルヴィア、のたうち回らない。もうすぐ終わるからじっとしてて」

じっとなんて出来るか、レオンの馬鹿ー!!


かくして私はレオンの手でドライヤーまで当てて貰い、ツヤツヤのピカピカになりました。ふわっふわの毛からは上品なローズの香りが立ち上ぼり、癒されます。

でも、私はそんなもんじゃ立ち直れないダメージを心に食らい、クッションで丸まったままふて寝したのでありました……。


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