村道にてから騒ぎ
夕暮れ時の道を行く影が二つ。
男女だ。
男女は共に堅い鎧で身を包んでいる。舗装された道であっても男は辺りへの警戒を怠らず、一歩一歩慎重に足を進めており、女はその後ろをついていく。
彼らは俗に勇者一行と呼ばれるパーティである。
以前は二人組だったが、これまでの道程でもう一人仲間が加わったため、今は三人組である。
しかし、三人目の姿はどこにも見当たらない。
「ねぇ、勇者」
「なに、女戦士?」
女戦士の問いかけに、辺りへの警戒を怠るわけにはいかない勇者は声だけで応えた。
「これ、重いんだけど、捨ててもいいかしら?」
これ、と女戦士が目で指した場所は、女戦士が握る紐の先に括られている棺桶だった。
「それ、仲間だから。今は死んでるけど後で生き返るから」
それ、と勇者が目視するまでもなく答えたその棺桶の中身こそが、最近仲間になった賢者が眠る場所だった。
「戦闘に入った途端にあっさり死ぬような奴を仲間とは呼ばないわ。お荷物っていうのよ」
勇者の返答が気に入らなかった女戦士はその苛立ちを新規メンバーの亡きがらにぶつけるかの如く毒舌を吐く。
「お荷物はいいすぎだよ……まぁ、確かにメンバーが増えたことで負担が減るどころか増えているような気もするけど……」
それを諌めるべき勇者も、思う所があるのかはっきりとした否定はしなかった。
しかし、そこは勇者。ちゃんとフォローもいれる。
「でも、まだ入ってから日が浅いんだからしょうがないよ。彼女が慣れるまで、もう少し僕らが支えようよ!」
「え?」
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とくぎ
どうぐ
≫なかま
【クズ】
【あたし】
≫【けんじゃ×】
>すてる
やめる
ぼうけんのしょ
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「だから、捨てちゃダメって言ってるでしょ! そのコマンドはどうやって出したの?」
「隠しコマンドよ。上上下下右左右左BAで出るわ」
「まさかのコナミコマンド!? ……っていうか一番上のクズって僕のこと!? ねぇ、僕のことなの!?」
「あーもう、うるさいわねー」
涙目でそう訴える勇者から面倒くさそうに距離を取った女戦士。
「わかったわよ……仲間を捨てるような真似はしないわよ」
「まったく、信用できないんだけど」
「日頃の行いのせいね」
「自覚してるなら改善してよ!」
「ありのままの私を受け入れなさいよ! 勇者でしょ!」
「勇者ってのは他人の欠点をなんでも受け入れる人のことを云う訳じゃないよ!」
夕暮れの道でついには云い合いを始め、終いには肩で息をする二人。
散々罵りあったが先に折れたのはやはりと云うか勇者の方だった。
「……まぁ、とりあえず仲間を置き去りにしないっていうならいいよ。その性格には目を瞑るよ」
「え?」
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とくぎ
どうぐ
【せかいじゅのは】
【せかいじゅのしずく】
【しもふりにく】
【じごくのサーベル】
≫【かんおけ】
>『すてる』
『やめる』
なかま
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「置き去るどころか仲間をどうぐ扱いしないでっ! そして、なにその豪華なアイテムラインナップ。僕よりいいもの揃えてんじゃん!?」
女戦士のバックの中は潤沢だった。
「……っていうか『せかいじゅのは』があるなら使ってあげようよ!?」
「……もう、うるさいわね」
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とくぎ
どうぐ
≫なかま
≫【クズ】
>『すてる』
『やめない』
【あたし】
【けんじゃ×】
ぼうけんのしょ
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「『すてない』がないっ!?」
そして、これでクズ=勇者は確定だ。
「まさか、影でそんな風に呼ばれてたなんて……」
もう仲間を信じられないとばかりに落ち込み俯く勇者。
そんな勇者を見かねて女戦士が白状した。
「悪いわね……でも、このせかいじゅのははどうしても使えないの……」
しんみりとそう云った女戦士の目に決意のようなモノを見てとった勇者は今までとは声のトーンを変えて、真面目に質問した。
「どうして?」
「これはね……先を見据えた行いなの」
そこで勇者はハッ、と考えに至る。
「先を……そうかっ!? 魔王やボスと闘う時のために取ってあるんだね!」
「私はこの戦いが終わったら、これらのアイテムを売って面白可笑しく余生を過ごすの」
「とんだ人生設計!?」
まさか、魔王討伐のさらに先を見据えての行いだったなんて……。
そのあまりにも無体な仕打ちに冷え切った視線で抗議する勇者。
流石に居心地が悪くなったのか女戦士はぼそりと呟いた。
「死んだ方が悪いのよ」
「…………」
こいつ、お前絶対最後に寝返るパターンの仲間だな、とは口がさけても言えない勇者だった。
勇者一行の明日はどっちだ!