街の宿屋にてから騒ぎ
とある村のとある宿舎。
その一角で二人の若人が顔を突き合わせて話しあっていた。
男女だ。
男女は共にシンプルな動きやすい服装に身を包み、特に女性の方は湯上がりなのか、とても簡易な服装で身を包んでいる。男は特に辺りを警戒をするようなこともなく、椅子に座り、冷たく冷えた水を流し込んでいた。女性も同様に飲みものを口に含んではいるが、こちらは葡萄酒のようだ。
彼らは俗に勇者一行と呼ばれるパーティである。
男は勇者、女は僧侶である。
このチームのブレーンである二人は今日も集まって、今までの道のりについての反省や今後の予定などを立てているのである。
ちなみに他の二人、女戦士と遊び人は揃ってショッピングに出かけたきり帰って来ない。
「……よし、じゃあ必要なものは明日買いそろえて出発は明後日ってことでいいな」
「そうね……正直云うともう一日くらい休んでいきたい気もするけれど、これ以上は悪い癖がつきそうだものね」
勇者の言葉に頷き、僧侶は葡萄酒を口にした。
これで今後の予定に関する話し合いは終了。
ここからはこれまでの闘いを振り返りながらの雑談に入る。
真剣な話が終わったからか、はたまた葡萄酒が回ってきたのかは定かではないが、僧侶は今までとは打って変わってくだけた声音で過去の失敗を大いに笑った。
「いやー、それにしても洞窟のドラゴンには参ったわねー。まさか、こんな大きな街の近くにまだあんなのがいたなんて……この街の騎士団なんかは周囲の情報を確認しないのかしら?」
それはつい先日、この街に着く二日ほど前のことだ。
調査のため洞窟に潜り込んだ彼らはその先で、小さめのドラゴンを発見したのだ。
小さいと言ってもそこはドラゴン。洞窟探索用の装備しか用意してこなかった彼らは最初から討伐は放棄してなんとか撃退させるためにと奮闘した。闘いは苛烈を極めたが、なんとか彼らは洞窟の更に奥へとドラゴンを誘導することに成功したのだ。
「本当によく生きてたよな、僕ら……」
思いだすだけで鳥肌が立つ。
しかし、勇者は同時にそれを撃退した自分のパーティーのことも誇らしく考えていた。
「やっぱ、女戦士は凄いよ。あのドラゴン相手に一歩も引かなかったんだから」
相変わらず口は悪いが、とはあえて云わなかった。
「遊び人も流石よね。かく乱は上手くいってたし、全然怯むようなこともなかった」
まぁ、ただバカなだけかもしれないけど、という言葉を僧侶はそっと胸にしまう。
「僧侶も流石だよ。君の回復魔法がなければ僕らは生きて帰ってこれなかった」
なんの衒いもなく、心からの惜しみない称賛を送る勇者。
それに僧侶は「ありがと」と短く感謝の意を表した。
「………………」
「………………」
「………………」
「……それで次の話だけど」
「僕の評価は!?」
ついに堪え切れなくなった勇者が叫ぶ。
「勇者として間違ってるとは思う。あぁ、思うよ。わざわざ称賛の言葉を待つなんて。でもさ! 女戦士の名前が出て、遊び人がよくやったと云われ、僧侶の働きも褒めたんだからさ、僕に一言あったっていいじゃないか! 僕を褒めてくれたっていいじゃないか!」
さぁ、褒めろと云わんばかりに手を開き、称賛の言葉を待つ勇者にため息をひとつつき僧侶は言葉を投げる。
「だって、アンタ。活躍してないじゃない」
しかし、それは勇者の待ち望んだ言葉ではなかった。
「なっ!?」
「私だって出来れば褒めてあげたいけど、褒めるべきところがなかったじゃない。せいぜい作戦の指揮をとったくらい。それだって『ガンガンいこうぜ』としか云わなかったじゃない!」
僧侶は僧侶で、心の中でわだかまっていたこの思いをいい機会だとばかりに唾を飛ばしながらまくし立てた。
これには勇者もカチンときた。
「何もしてないってのは随分な言い草じゃないか! 作戦以外にもちゃんと行動しただろう」
「例えば何よ?」
「例えば……ドラゴンに話しかけたり」
「それよ!」
ズビシッ!とどこぞの名探偵ばりにしっかりと人差し指を向け、僧侶は云う。
「そのアンタのスキルが問題なのよ!」
――――――――
> はなしあう
ぼうぎょ
とくぎ
にげる
――――――――
「なんで、勇者のくせに『こうげき』ないのよ。しかも『はなしあう』ってなによ」
痛いところをつく僧侶にしかし勇者は胸を張って応えた。
「僕は平和主義者だからな」
しかし、それは火に油を注ぐ行為で。
「だからって言葉の通じない相手に喋りかけてどうすんのよ! 1ターン無駄にしただけじゃないのよ!」
僧侶はバンッとテーブルに葡萄酒の入った木製のジョッキを叩きつけると、再びその中身を煽った。
「全く、こんなのが勇者だなんて信じられないわ……」
独り言のように呟いたその言葉は、けれどしっかり勇者の耳に届いていた。
人となりがそこまで出来ていないこの勇者が、そこまで言われて黙ってられるわけもなかった。
「だったら、僕も云わせてもらうけど! 僧侶だって変なスキル持ってるじゃないか!」
「そ、それは……でも、今は関係ないでしょ!」
「い~や、関係なくたって云うね! や~い、変なスキル~」
この勇者、人となりが出来てないどころか完全に只のガキだった。
こんな子供の癇癪みたいなことに付き合うほど僧侶も愚かではないと思ったが、
「そんなのね! 私が一番わかってるのよ!」
どうやらソレは僧侶にとって見過ごせないコトだったようで、終いには勇者以上にこの件について文句をつけている。
――――――――
こうげき
ぼうぎょ
> とくぎ
> ほのおのパンチ
れいとうビーム
にどげり
せいちょう
にげる
――――――――
「なんで私の『とくぎ』だけ任○堂仕様なのよ! 」
ポケットにでも入っていそうなラインナップだった。
「それに技のチョイスは僧侶というより格闘家だよな」
思わず先ほどまでのやりとりを棚に上げ、勇者も心底同情した。
「本当にふざけてるわねっ! 一体、作者は何を考えてるのかしら?」
ついには画面の外にまで文句を言い出す始末である。
「作者はモンスターズしかやったことないらしいからな。その辺曖昧なんだろ」
まぁ仕方がないんじゃないか? と勇者が許容するような言葉を投げかけるも当の本人はそう納得がいくものでもないようで、憤りを露わにしている。
「それに何よ! このせいちょうってとくぎは! わ、私の胸じゃ不足だとでもいうのかしら?」
恥じらいからか胸部を抑える仕草をする僧侶。確かに僧侶は『それ』があまりなかった。薄着の今、それをしっかりと確認することができる。
しかし、このせいちょうはそういう意味ではなく――
「いや、人間的に成長しろって意味だと思うぞ――ぐべらっ!?」
「アンタに言われたくないわっ!」
勇者の顔面を苛烈な拳技が襲う。
そうりょ の ほのおのパンチ!
「――意外といいわねこの特技」
「僕がくさタイプだったら死んでたぞ!」
思わぬ威力に掌を返す僧侶とその蛮行に抗議する勇者。
「そんなんだからお前はなぁ!」
「いーや、アンタの方こそ!」
その後も子供のような云い合いを続け、気が付けば夜が更けているというのは実はいつものパターンなのであった。
勇者一行の明日はどっちだ!
とりあえず完結です!
ですが御覧の通り、一話完結のショートショートで、特に決まった終わり方があるわけでもないので、そのうちまたネタが思いつけば更新するかもしれません。
読んでいただきありがとうございました!




